白銀の恋人
どうして
こんなにも
気になって
好きになって
配点(恋愛)
sideイリヤ
「これでもダメですか」
「ダメだな」
私はお義父様に引き起こされた。
ゴツゴツした手だ。
男らしいけど、私はお兄ちゃんみたいな優しい手のほうが好きだ。
「だが、工夫したことは認める。大振りの攻撃では受け流されるのがオチだ」
お義父様が鋭い突きを実演しながら教えてくれる。
「喜美に勝ちたいんだよな?喜美は受け流しに関しては既に壮を超えている」
相手の勢いを利用した受け流し。
そういえば喜美はお兄ちゃんにお仕置きするときに投げ技を多用していた。
「下手な攻撃は全て喰われる。そのつもりで戦え」
下手に攻撃しても投げ飛ばされるだけ。
だが、喜美を一撃で倒すイメージができない。
「人には弱点がある。鍛えてもどうしようもないところで、女の子でもそれを突けば素手で人を倒せる」
お義父様が講義を続ける。
「例えばこめかみを殴る。こう、拳を固めて、それをハンマーのようにしてぶん殴る」
お義父様が実演する。
フックの強化版みたいだ。
でもそれはスキが大きい。
「顎を殴れば、脳が揺れて立っていられなくなる」
お義父様がチョイチョイと手を振る。
こっちに来いということだろうか?
「行くぞ」
何が?と問う前にそれは来た。
それは軽い打撃だった。
チョン、と軽く触れただけのようにさえ感じられた。
それなのに、私の視界はグルリと反転した。
「あれれ!?」
今自分がどうなっているのかわからない。
「っと、まぁこんなものだ。実感湧いたか?」
お義父様の声が聞こえるが、それはとても遠くに聞こえる。
「え?あれ!?泣いちゃった!?軽くやったはずなんだが……?」
「うぅ……お兄ちゃんとお父様以外に……顔を触られました……」
「あっれ!?そんなこと!?」
「そんなことじゃないもん!うぅ……お兄ちゃんに淫らな女って思われる……」
「いやぁ、面倒臭ぇ女って思われそうだな……」
うぅ……どうしよう。お兄ちゃんに、
「い、イリヤがそんなエロかったなんて!そんなの俺のイリヤじゃない!」
って言われたら……。
もうお嫁に行けない……ゴメンね、お兄ちゃん。
「イリヤ、お前勘違いしているぞ」
「何がですか……どうせイリヤはこれから1人で生きていくんだから……ひっそりと孤独に……」
「夫の親族に触られるなら大丈夫だ。だって家族なんだからな」
「え……」
私はその言葉に思わず顔を上げる。
夫の親族ならノーカン、という言葉よりも引っ掛かったものがある。
「お、お義父様は、私とお兄ちゃんの婚約を……!?」
「いやぁ、見たらわかるだろお前」
お義父様に知られていた!
「え、えっとですねお義父様!私、石田イリヤと申しまして……」
「いや、知ってるし」
「え、えっと……息子さんを私に下さい!」
「それ逆だろ。まぁ落ち着け」
落ち着けと言われて落ち着いた。
「あんな残念息子を貰ってくれる奇特な奴がいるなんて、思わなかったな」
「い、いえ!お兄ちゃんはとても素敵な方です!」
「ふぅん。どこに惚れたのかサッパリだな、あんな息子の」
まさかの砂漠のど真ん中でお義父様への挨拶となった。
「お兄ちゃんは……私のことが大好きなので……あぁ!ごめんなさいごめんなさい!何だか偉そうな物言いになってしまって!?」
「男が女に惚れるのは普通だろ。イリヤは可愛いからな」
あっれ!?
ひょっとして私、お義父様に口説かれてる!?
いけない!
いつもお兄ちゃんが他の女共とイチャイチャしていたら、浮気としてお仕置きしているのに!
その私が浮気をしちゃダメ!
お兄ちゃんに不貞だと思われちゃう!
お兄ちゃんにお仕置きされちゃうかも……ちょっといいかも……いやいやいや!
「いけません!お義父様!イリヤには沢木壮という心に決めた男性がいます!」
「イリヤ、思い込みが激しいって言われないか?」
織火がため息をつきながらよく言う台詞だ。
「え、えっとそれでですね。最初のほうは断っていたのですが……」
それで思い出す。
アレが、数ヶ月前の出来事だったなんて。
私は、幼い頃はロシアにいた。
お母様とお父様と、幸せに過ごしていた。
しかし、お父様の仕事の都合で、お父様は故郷である日本に帰ることになった。
私とお母様には、ロシアに残るという選択肢もあった。
でも私もお母様もお父様のことが大好きだったので、日本に行くことにした。
初めて訪れた日本は、驚くことばかりだった。
「お父様!これすごく美味しい!」
「うん?お菓子かい?そうだね、日本のお菓子は美味しいからね」
日本のお菓子を初めて食べた時は感動したものだ。
「お父様、あれはなーに?」
「あれは電車って言うんだ」
「変なのー」
そのころの私は、電車を見たこともなかったのだ。
「大きいー!すごーい!」
「ビルだよ、イリヤ」
驚くことばかりだ。
私は日本を楽しんでいた。
でも、私の容姿は、かなり日本人離れしていた。
この銀髪がそれを際立たせる。
「なにそれー、変なのー!」
「なんだその髪!白髪?」
「やーい!ババア!ババア!」
子供というのは残酷だ。
自分たちでグループを作り、それとは別のものを排斥しようとする。
私は特殊過ぎる容姿のせいで、誰とも友達になれなかった。
動物園で珍獣を見るようなその視線が大嫌いだった。
私は小学校を辞めたかった。
でも、お父様とお母様に励まされて、何とか通っていた。
ロシアでいた頃に練習していたバスケもできず、私の鬱屈は溜まるばかりだった。
でも、彼女が来てくれた。
小学4年生になった時、彼女と一緒のクラスになれたのが私の人生最大の幸運だったかもしれない。
「フフフ、綺麗な髪ね。いいわ、イリヤ。私と友達になりましょう?」
それは、私に出来た初めての友達だった。
名前を、沢木喜美と言う。
とにかく不思議な少女だった。
「じゃあこの問題わかる人!」
「ハーイ!先生!私、とっても賢いから、わからないことがわかったわ!まぁなんてクレバーなの私!」
「意味のわかる言葉をしゃべりなさい、沢木さん。あと、机から降りなさい。踊るなッ!」
私は机の上で踊っている少女を不思議な思いで見ていた。
「ねぇイリヤ、今度の日曜日、一緒に買い物に行かない?」
「か、買い物ですか?私なんかと、ですか?」
「コラ、女の子が自分をおとしめるようなことを言ったらダメよ?自分を高みにおかないとね?」
「自分を……高みに……?」
その言葉が私の心に響いた。
「あ、どうも。佐藤織火です。よろしくですね」
買い物には喜美のお友達が一緒だった。
別のクラスの友人だと言う。
「うーん、巨乳になるよな薬品はないわね。織火のために買ってあげようと思ったのだけれど」
「大きなお世話です!」
「え、えぇっと?」
他の女の子で、周りに聞こえるくらい堂々と胸の話をするような子はいなかったからビックリした。
「あぁ、イリヤ。早くこのノリに慣れたほうがいいですよ。後々大変なことになりますからね」
後々、その言葉が嬉しかった。
喜美と織火は、これから先も私と一緒にいてくれるということだから。
喜美や織火と一緒にいるおかげで、自信がついた。
それは虎の衣を借りているだけかもしれないが、少しずつ本物に近づこうと努力をした。
可愛い女の子になりたい。
誰と会っても、自信を持って話せるようなイイ女になりたい。
喜美に憧れて私はそう思った。
私は少しずつ努力をして、自分を高めた。
その結果、私をからかっていた男子が告白してくれるようになった。
でも、私は断り続けた。
「軽い女になったらダメよ、イリヤ?どんな告白でも、1回目は絶対に断りなさい」
という喜美の指導もあったからだ。
「でも、イイ女ならただ断るだけではダメよ?次に出会っても、それがいい思い出となっているようにしないとね?」
喜美の注文はとても難しかった。
でも私は努力して、なんとか喜美の言うようにした。
喜美はまるで呼吸をするようにそれらをこなし、男子を近づけなかった。
私は少しずつ自分に自信が持てるようになり、それでも幼い頃につけられた傷は深かった。
6年になった春、喜美がバスケをしようと誘ってくれた。
私もバスケをしたかったので当然OK。
5年の時に友達になった沙耶と咲もOKして、5人で蓮里小学校女子バスケットボール部になった。
「コーチを私の腐れ兄貴に頼んだわ。まぁ、大丈夫でしょう?」
私は、喜美のお兄ちゃんに興味を持った。
こんなすごい喜美のお兄ちゃんって、どんな人なのだろうか?
織火たちも知らないようだった。
喜美は決して、自分の家に私たちを呼ばなかった。
曰く、
「兄さんに会わせたらどうなるかわかったものじゃないわ」
ということらしかった。
私の中では、喜美を超える変人というイメージができていた。
そして私はついにその人と出会った。
お猿さんみたい。
第一印象はそれだった。
背の高いお猿さんみたい。
第二印象がそれだった。
背が高くて頭のオカシイお猿さんみたい。
結論はそれだった。
濃い顔立ち。
背が高く、腕も長い。
髪はかなり短い。
NBA選手のような髪型だ。
腕や足は引き締まっており、外見からでもその強さが見てとれる。
その全体的に厳つい風貌に対して、目は優しげだった。
これが……喜美のお兄ちゃん!
背が高くて頭のオカシイお猿さんみたいで可愛い!
「お兄ちゃん!」
思わず飛びついてしまった。
慌てて私を抱きとめてくれる。
意外に優しい。
「お兄ちゃん!毎日練習見てくれるの?」
「当たり前だろ!」
ああ、やっぱり変人だった。
さすが喜美のお兄ちゃん。
しかもその次のひと言がすごかった。
「よし、結婚しよう!」
……え?
今、ひょっとして私、求婚された?
あれ?あれ?
なんか大切な段階をすっ飛ばしているように思える。
こんなこと、初めてだ。
普通なら
「好きです!」
とか、
「僕と付き合ってください!」
とかなのに。
それならあしらう方法は身につけている。
でも、結婚してくださいって……!
喜美も教えてくれていない状況だ。
「何考えているのよ変態!」
「俺はマジだぜ?」
「余計に問題よこの腐れ兄貴!」
「じゃあどうしろって言うんだ!?結婚するしかないだろ!?」
「コイツを連れて来たのは間違いかもしれないわね……」
それでも対応できる喜美はすごい。
あうぅ……どうしようか。
いい断り方はないだろうか?
「結婚してくださいイリヤさん!」
目の前で土下座する青年を見てそう思う。
「うーん、結婚はダメだよ、お兄ちゃん」
とりあえず結婚はダメだろう。
色々と。
「な、ま、まさか彼氏とか!?」
「違うよ」
条件反射で違うと言ってみたものの、ここからどうすればいいのか。
「違うよ。私、パパのお嫁さんになるんだから」
とりあえずパパを頼ることにした。
「畜生!パパ!俺と変われよ!」
とか泣き叫んでいる。
「兄さん、あまりしつこいとイリヤに嫌われるわよ?」
という喜美の言葉に助けられた。
普通は、1回断ればもうその子から告白されることはない。
みんな仲のいい友達になって終わりだ。
でも、お兄ちゃんは違った。
「イリヤ、結婚しよう。絶対に幸せにするから」
次の日にそう言われた時は驚きのあまり顎が外れるところだった。
なんというメンタルなの……!!
でも、簡単にオーケーしてはいけない。
喜美の教えに従って私はまた断る。
次の日、
「イリヤ!俺と人生をともにしよう!いかなる困難なときもともに分かち合いブヘェ!?」
「いい加減にしろクソ兄貴!」
「ダメだよ、お兄ちゃん」
喜美に投げられつつもお兄ちゃんは私に告白してくれた。
次の日、
「イリヤ!僕と夜明けのモーニングコーヒー飲んでください!」
「ダメだよ、お兄ちゃん」
何のことかわからなかったけれど、とりあえず求婚だろうと思って断った。
「イリヤ、俺に味噌汁を作ってくれないか」
「味噌汁?それくらい……いやいやダメだよお兄ちゃん」
途中で求婚だと気づいて断った。
「俺とイリヤは運命の出会いに違いない!」
「違うよお兄ちゃん」
「俺のものとなれ!イリヤ!」
「ダメだよお兄ちゃん」
「世界の半分をくれてやろう……!」
「断る!」
「そうだ、結婚式に行こう」
「京都に行くノリでそんなことやっちゃダメだよ……」
毎日毎日、告白し続けてくれた。
私のことが大好きなのだと、言い続けてくれた。
「イリヤ、本当に迷惑じゃないの?」
喜美が教室で心配そうに聞いてくる。
「私が本気で言えば、兄さんなら止めてくれるわよ?もちろん、コーチも続けてくれるわ」
喜美がそんなこと言ってくれたけれど。
「いいよ、喜美。なんだか、楽しくなってきちゃった」
「……アンタも大概ね、イリヤ」
君が好きだと、そう言われて悪い気はしない。
自分に自信がもてなかった。
他の男子に告白されても、喜美と一緒にいるからなのではと心のどこかで思っていた。
みんなが好きなのは喜美で。
でも喜美に告白するのは恐れ多くて。
だから近くにいる私に告白するんだ。
みんなどうせ、好きなのは喜美なんだ。
私のことを見てくれているわけじゃないんだ
喜美はかっこいいから。
喜美は何でもできるから。
綺麗で、可愛くて、おもしろくて、みんなをまとめて、諌めて、運動もできて、勉強もできる。
先生からだって大人気だ。
職員室に行くと、
「あ、沢木さん。こっちにもいいかな?前の答案について話があるんだけど」
「フフフ、先生。『私は東京に住んでいる』の過去形を、『私は江戸に住んでいる』にして何が間違い?」
「沢木さんの発想の方向が間違いですね」
「あ。沢木さん。こっちにも来てください。前の作文で横読みしたら『校長、カツラずれてるわよ』になるんですけど」
「沢木さん。こちらに来なさい。私の机にDSソフト『みんなともだち』を入れたのは君ですよね?『影の薄い教頭という役職ご苦労様。誕生日プレゼントよ?』とか、ありがたいですけどふざけているんですか?」
1度職員室に行くと、1時間は先生たちと話して帰ってこれない。
先生たちとそれだけお話ができるのは、喜美だけだった。
みんなが見ているのは喜美だ。
でも、喜美に告白するのは怖い。
だから、近くにいる私と付き合って、喜美に近づこうとしているのだ。
私はそんな捻くれたものの見方しかできなかった。
でも、お兄ちゃんは違う。
お兄ちゃんは私だけを見ていた。
喜美という、完璧な女性が近くにいるにも関わらず、私を好きになってくれた。
女として、見てくれている。
結婚しようと、本気で言ってくれる。
私は断り続けていたけれど、どこか愛しいと思う感情があるのも確かだった。
「イリヤ、この試合が終わったら結婚しよう」
だから私は、
「まだダメだよ、お兄ちゃん」
お兄ちゃんの気持ちに応えることにした。
お兄ちゃん。
私も、お兄ちゃんのことが大好きです。
お兄ちゃんがイリヤのことを好きなのと同じくらい、私も壮のことが大好きです。
「イリヤが大人になっても、お兄ちゃんは私のこと好きでいてくれる?」
「当たり前だ」
「じゃあ、私が大人になったら、イリヤをお嫁さんにしてくれる?」
「喜んで!」
「じゃあお兄ちゃん、約束」
「俺は、沢木壮は、将来イリヤを妻にすることを約束します」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない。本気だ」
「じゃあ、イリヤも、将来お兄ちゃんを夫にすることを誓います!」
大好きだよ、お兄ちゃん!
真面目にロウきゅーぶ!のほうで頂いた感想の中に
「イリヤsideが見たい」
というものがあったので、やってみました。
イリヤの喜美に対する劣等感も表現できて、いい感じになりました。
この劣等感が、後の試練で重要な伏線になるかもしれません。
ご意見、ありがとうございました!




