砂漠の狙撃手
自らを読み
距離を読み
風を読む者
配点 (スナイパー)
side沢木
夜の砂漠に出ていくと、父さんが待っていた。
一体いつからいたのだろうか。
待っている間のことを思うと、笑えるというより泣けて来る。
「父さん……可哀相に……」
「何言ってんだお前は」
俺が同情してもスルーした。
俺も父さんも、母さんや喜美にいいように扱われているため、忍耐力は天井知らずとなっている。
「じゃあ追加訓練っと……喜美、その子確か……イリヤだっけ?」
「あ、あのお義父様!」
父さんは喜美が引きずっている物体が人間だと気づき、その正体を言い当てた。
イリヤのほうは何とか自力で立ち上がり、父さんのほうに向かう。
「フフフ、ねぇ父さん。私達は狙撃でいいのよね?」
「ん?あ、あぁ。もうブラックキングも持ってきてある。いつものところでやっておけ」
「ほら、行きましょう?兄さん」
喜美に促され、俺は狙撃場に歩いていく。
「えぇっと……イリヤは?」
「イリヤはいいのよ。あの子は父さんに用があるの」
「?」
イリヤが父さんに何の用があるというのか。
「まさか挨拶!?」
「こんな砂漠で挨拶するわけないでしょ?ほら、馬鹿言ってないで行くわよ」
sideイリヤ
目の前に立つ大男。
この方が、私のお義父様になる人だ。
心証は少しでもよくしておいたほうがいい。
「お義父様、石田イリヤと申します」
「ハハハ、お父様などこそばゆいな。沢木剛志だ」
よし!笑顔で握手できた!
「それで、どうしたんだイリヤ?喜美の話では、俺に用があるとか、ないとか」
私はお義父様の目を見つめて言う。
「私を強くしてください。お義父様」
「……なに?」
お父様の目が細まる。
プレッシャーが膨れ上がる。
その時私は、目の前の人物がお兄ちゃんと喜美のお父様だということを実感した。
「あ、あうぅ・・・・・・」
とてつもないプレッシャー。
眼光だけで私を殺せるのではないだろうか?
「なぜだ」
静かに、しかし迫力のある声で問うて来る。
逃げ出したい。
この圧倒的プレッシャーから逃げ出したい。
でも、そんなことをするわけにはいかない。
私はついさっき、皆の前で醜態を晒したところなのだ。
喜美に怒られて、顔から火が出る思いだった。
な、なんてはしたない・・・・・・!!
お兄ちゃんに嫌われてしまったかもしれない。
こんな弱い、面倒な女のことなんて嫌われても仕方ない。
でも、好きでいてもらいたい。
大好きな人に、好かれていたい。
だから、ここで挽回しなければいけない。
このプレッシャーに、この人に、1人で立ち向かわなければ。
そうでなければ、喜美を倒すことなんてできるわけがない。
震え出しそうになる足に力を込めて、私はお義父様を睨む。
「・・・・・・いいだろう。どうやら、本気のようだ」
そしてついに、お義父様の許可を得ることができた。
「さぁ、来い」
お義父様が腰を落として私を呼ぶ。
好きに来いと、そういうことだろう。
だから、
「行かせてもらいます!!」
遠慮呵責無く、1歩目から全力をぶち込んだ。
side喜美
さて、イリヤはどうなったのかしら?
時間的にはそろそろ始まった頃合いだと思うけれど。
できるだけ痛い目を見てほしいけどね。
私はケースから取り出したスナイパーライフルを整備しながらそう思う。
沢木なら狙撃もできなければいけない。
そんな謎の掟により、この砂漠キャンプでは狙撃の訓練もやらされる。
砂漠のど真ん中にある自衛隊の施設で、私はライフルを構える。
ライフルはレミントン1000と呼ばれるシリーズ。
コストが高すぎることから、数百丁しか出回っていない。
その中でもプレミアモデルの10丁。
最高級の木材を使用しており、幹の中心部分から切り出したものを使っている。
年輪が凝縮されていて、黒色になっていることからブラックと呼ばれている。
その中でも、超長距離狙撃に対応するために改造が施されたライフルが1丁ある。
ブラックキング。
沢木家が受け継いでいる家宝の1つ。
私はその薬室に弾を送り込む。
1000ヤード越えの狙撃となれば、弾を巨大なものになる。
手乗りロケットとでも呼べそうなソレが弾だ。
俯せの伏射体勢になる。
と、ターゲットが砂漠の中に出現する。
人型のそれは、私が目をこらしても僅かにぼやけてしか見えない。
狙撃とは、狙って撃つだけの簡単なものではない。
まず狙撃をするためにはターゲットまでの距離がわからなければいけない。
簡易測定法もあるのだが、それでは少し不安だ。
だから、観測手がいるのだ。
「1200ヤード、風向、南々東」
兄さんが隣で呟く。
兄さんが特殊な測定機を用いてターゲットまでの距離を測定してくれるのだ。
そして観測手は命中したかを確認し、狙撃手に近づく敵を排除する。
「了解、狙撃に入るわ」
私は首にぶら下げていたヘッドフォンをつける。
狙撃というのは、集中力を限界まで使う。
そのためには、余計なものは全て排除する。
まず、音を遮断した。
頭の中で血液がゴウゴウと流れる音しか聞こえない。
私は肺に半分空気を入れ、半分空気を出す呼吸を続ける。
こうすれば心臓が落ち着き、最後の最後でぶれることがなくなる。
肘を地面に接続する。
筋肉で持つのではなく、骨で支える感覚。
こうしなければブレが生じる。
片目でスコープを覗き込む。
現れた十字の中心から少し外れた場所にターゲットがある。
ライフルとほぼ同じ大きさのスコープで覗いているのに、十字の中央の点と同じくらいの大きさでしかない。
私は十字の真ん中にターゲットを載せるのではなく、少し右に外す。
海へと風が吹いているためだ。
「……ッ」
そして、ほとんど無意識に銃弾が放たれた。
いつのまにか引き金を引いていて、いつのまにかリロードしていた。
「命中、ヘッドショット。追撃の必要なし」
兄さんの言葉で私は安全装置をかけた。
それから10発を様々な体勢で撃った。
立射、速射、膝立ちでの狙撃などなど。
全て心臓へのショットで決めた。
「すげぇ!全部命中です!」
新人なのか、私の狙撃に驚いている。
私としてはそちらのほうが驚きだ。
「スナイパーが撃つのは、絶対に当てる時だけよ」
だから私はそう教えておいた。
sideイリヤ
ああ、綺麗な星空。
鳥取大砂漠のど真ん中ともなれば絶景だ。
「なんで転がっているんだろ……」
「どうした?早く起きろ」
思い出す。
私は本気のタックルを決めようとした。
それをお義父様が受けて、
飛んだ。
それはもう空を舞った。
「相手から目を逸らすな」
お義父様に言われて、私は起き上がり、砂埃を払う。
「でしたら……」
靴で思い切り砂を蹴りあげた。
お義父様が驚いて目をつぶった瞬間に飛び出す。
狙うは股間。
決まれば一撃必殺。
「甘いわっ!」
しかし伸ばした手を掴まれ、今度は下にたたき付けられる。
「ガッ……!?」
肺から一気に息が抜けた。
「奇策に頼るな。そんなもの、俺には効かない」
「そうみたいです……だったら!」
私はスライディング気味に蹴り込みに行く。
足を払って倒してからタコ殴りにしてやる!
しかし私はいつのまにか宙を飛んでいた。
飛んでいる自分を自覚しながら思う。
合宿初日、まだまだ終わりそうに無い。
他の3人は地獄の吉田特訓




