砂漠の姫
助けて
その一言が
どれほどのものか
配点 (ヒロイン)
side沢木
「はーい、集合集合ー!」
練習が始まる前に俺は皆を呼び集める。
「何かしら、兄さん?」
「うん?どうしたの?」
みんなが集まって来る。
俺は持っていたプリントを5人に配布した。
「えぇっと……『人気自衛隊員と行く!6泊7日、ドキドキ!鳥取砂丘キャンプ』?」
「なんですか?これ」
織火の質問に答える。
「これはな、合宿の予定だ」
「「「「合宿!?」」」」
喜美以外の4人が驚愕の声を上げる。
「まぁ読んで見ろ」
ということで、4人はプリントを読みはじめる。
「初日の行動予定……これなんですか?『砂丘を散歩して、大自然の脅威を味わおう!』が3時間って何ですか!?ただの砂漠行軍じゃないですか!」
「『夏だ!海だ!泳ごう!向こうの島まで泳いでいこう!』おかしいわね。この地図によると、5キロ離れているんだけど……」
ようするに、
「ただの自衛隊の訓練だよね、これ?」
イリヤの言葉が全てを物語っている。
父さんにお願いして、みんなを連れていくように頼んだのだ。
「フフフ、いつもは私と兄さんだけど行くのよ?」
そう。俺と喜美はこのキャンプをずっとやっている。
俺なんか時々1人で行かされるのだ。
「というわけでみんな!明日から出発だぞ!」
「「「「「早ッ!」」」」」
side喜美
合宿初日。
さすがにこのキャンプを和服で行くわけにはいかない。
毎年恒例の地獄のイベントなのだ。
練習着を詰め込めるだけ詰め込んで、車の後ろに突っ込んだ。
「ふぅ」
「おぅ、喜美。どうした?緊張か?」
「ほかのみんなを招待するのは初めてなのよ?死人が出ないか今から不安だわ」
そう。このキャンプ、死人が出るレベルのキツさだ。
「イーリヤー!もう早く会えねえかな畜生!父さん!早く出発しようぜ!」
「やかましい!喜美を見習え馬鹿野郎」
「あぁ!?喜美を見習ったら俺ただの変態になるじゃねえか!」
「「今変態じゃないとでも思っているのか!?」」
なんかもう、兄さんのせいで緊張感も緩む。
車でみんなを拾って、鳥取に向かう。
みんなこれからの地獄を直感しているのか、黙り込んでいる。
そしてついに鳥取大砂漠が見えてきた。
「あれが……鳥取大砂漠……」
沙耶がゴクリと喉を鳴らして言う。
ヤバい。私も緊張してきたー!!
side沢木
鳥取大砂漠に行くと、吉田さんがいた。
「はーい!蓮里小学校女子バスケットボール部のみなさーん、こーんにーちはー!!」
「「「「「こんにちは!!」」」」
「むっ……やるな」
こんにちはアタックで吉田さんを怯ませることに成功した。
「吉田さん、アンタが人気自衛隊員なんですか?」
「沢木さんの頼みだからしょうがねえだろ!」
あっさり好人物の仮面を脱ぎ捨てた。
「テメェら!!俺の元でやるんだったら容赦しねぇぞコラ!!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「テメェらは今から人じゃねぇ!人権なんてクソ喰らえだ!地獄を見せてやるよ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「おっしゃついて来い!!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
そしてついに、地獄の幕が上がる。
「おら!どうしたよアァン!?へばったわけじゃねえだろ!!黙ってんじゃねえぞオラ!」
「押忍ッ!」
「水……水……」
「ハハハ……向こうに湖が……綺麗な湖が……」
「沙耶!正気に戻ってください!沙耶!」
「何へばってんだ!まだまだこれくらいじゃねぇぞ!」
「「「「「押忍!」」」」」
みんなで砂漠を走っている。
何が散歩だちくしょおおおおおお!!
しかも俺と喜美は追加で30キロの装備を持たされている。
「おいペースが遅れてるぞ!イリヤ!テメェだよ!おいコラ!黙ってんじゃねえぞイリヤ!ペース上げろ!叩きのめすぞコラ!」
「お、押忍!」
「兄さん落ち着いて!」
思わず吉田さんを殴ろうとしてしまった。
この野郎!イリヤを泣かせたらただじゃおかねぇぞ!
「咲!遅れてるぞ!テメェのせいで全員が遅れてんだよ、わかってんのか!?」
「押忍!」
「テメェのせいで到着時間が遅れてんだよ!」
「押忍!」
「本当だったらもう全員休めているんだよ!」
嘘つけ!
絶対に休ませはしないだろお前!
「押忍!」
「このまま日没までにつかなかったら俺ら死ぬぞ。わかってんのかよ、咲ッ!!」
「……お、押忍……」
いかーん!
咲!泣いちゃダメだ!
貴重な水分が失われる!
「ほぅら咲!変態ですよー!」
ダッシュ土下座をしたら笑って泣き止んでくれたが吉田さんに銃床でケツ思いっきり殴られた。
そんなこんなで4時間。
予定を1時間オーバーして俺達は鳥取大砂漠のど真ん中にあるオアシスにたどり着いた。
「ガハッ……水……!!」
「生き返る!これが命の水か!」
「私の水だあああ!!」
「ハァ……さすがにキツイわね……」
「押忍……押忍……」
「咲!正気に戻れ!もう終わってるぞ!」
泉に顔を突っ込むようにして水を飲む。
「休んでんじゃねぇぞ!腕立て100回早くしろ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「アゴ付けろアゴ!ついてなかったら最初からだ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
1時間後……
「オラオラどうしたぁ!?そんなんじゃ一生終んねえぞ!」
「「「「……ッ!……ッ!」」」」
「兄さん落ち着いて!目が完全にマジになってるわ!」
「吉田あああああ!!ぶっ飛ばすぞテメェ!!」
「口答えするんじゃねえ!!」
俺と喜美も死ぬ気でやって終わり、理不尽に課せられた追加筋トレ(銃の上げ下げ)も終わった。
しかし4人の筋トレ50回は未だに終わっていなかった。
イリヤと咲、沙耶は目に一杯に涙を溜めている。
というかイリヤと咲はボロボロ泣いている。
「うぅ……お兄ちゃん……」
「吉田あああああ!!」
「うるせぇ!」
殴られた。
それはもうしこたま殴られた。
「殴ったね!?親父にも殴られまくってるけど!」
「殴って何が悪い!」
畜生!即興で返された!
「ふええぇ……もう無理だよお兄ちゃん……」
「……」
イリヤと咲は完全に心が折れている。
無理だと諦めている様子だ。
沙耶は涙目になっているが、それはできない自分に対する苛立ちだ。
そして織火は……
「っと……っと……」
淡々と続けている。
どれだけ出来なくても、淡々とやり続ける。
だが表情が虚ろというわけではなく、真剣な顔つきだった。
「41……42……43……」
ゆっくり、ゆっくり。
1回ずつ休んで、しかし確実に回数を伸ばす。
「44……あ」
と、腕が限界に達したのか、崩れ落ちる。
「1……2……」
しかしすぐに何もなかったかのように再開する。
ここまで感情を殺してストイックになれるものか。
「へばってんじゃねえぞ!壮と喜美が待ってんだぞッ!!いつまで仲間待たせてるんだ!!」
俺も喜美も、腕立てを続けている。
見ているだけなんて、まして休んでいられるわけがなかった。
そして1時間後、ついに織火と沙耶が同時に終えた。
ぶっ倒れてピクリとも動かない。
俺と喜美で慌てて水をぶっかけてやる。
あとはイリヤと咲だけだ。
「イリヤ」
と、喜美が口を開く。
励ますのか?喜美にしては珍しい。
「ナメてんの?」
ゾッとするほど冷たい声色だった。
イリヤがビクッと震える。
崩れ落ちそうになったが、ギリギリで踏ん張った。
「何?泣けばいいの?泣けば誰かが助けてくれるの?カッコイイお兄ちゃんが助けてくれるの?ねぇ、ねぇ!!ナメてんじゃないわよ!!」
喜美の怒声が響く。
珍しい、これは本当に珍しい喜美のマジギレだった。
「喜美……」
「ねぇ、アンタは何になりたいの?カッコイイ王子様に守られるお姫様にでもなりたいの?違うでしょうが!!」
吉田さんは黙ったままだ。
というか初めて見る喜美のマジギレに圧倒的されている。
「泣いてれば?いつまでもいつまでも1人で泣いていればいいじゃない!惨めに泣いてなさいよ!」
喜美が、腕立てをしているイリヤの傍で不良座りをする。
顔をイリヤの顔にギリギリまで近づけて、それだけの怒声を放つのだ。
「誰かに守られるだけの人生を生きればいい!ああ素敵ね!呼べば誰か来て助けてくれる!可愛いお姫様ね!違うでしょうが!!」
「……」
「アンタがなりたいのは何!?そんなに甘いもの!?私言ったわよね!?イリヤ!わかってんの?聞いてんの?なんか言えよイリヤ!!」
「……ぅもん」
「あぁ!?」
「違うもん!」
「そんなの言葉だけでしょうが!!」
「……アアアアァ!!」
イリヤが必死で腕立てを開始する。
一気に回数をこなす。
43、44……
「うぅ……」
と、ピタリと止まった。
「……終わり?」
「……違うもん」
「また言葉だけね。それでどうするの?泣くの?泣いて終わり?助けてお兄ちゃんって、言うの?ねぇ!」
「違うって言ってるでしょ!!」
そこからさらに3回を追加。
あと2回……!!
「2……1!!」
イリヤが最後に一気に2回をこなした。
そのままぶっ倒れた。
「フフフ……ま、最後はよくやったわね」
と、喜美がその怒気を収めた。
「吉田、次どうすんの?」
「え?あ、ああ。っていうか咲!って終わってるし!?」
「イエイ」
咲……いつの間に!
咲らしいなオイ!
イリヤはそのまま気を失ってしまい、テントの中に放り込まれた。
喜美のマジギレは怖かったらしい。
しょうがない。俺だって怖いもん。
「お前、イリヤは奮い立たせるために怒ったわけじゃねぇだろ?」
「フフフ、当然じゃない。私はいつだって本気よ?」
なんだってそんなに怒るんだ、とは思わない。
喜美が1番大嫌いなことを知っているから。
「私が1番嫌いなのはね、お姫様気取りの馬鹿女よ」
そう。喜美はお姫様が大嫌いだ。
白雪姫とかシンデレラとか、子供のころから大嫌いだった。
「王子様気取りの馬鹿男より始末が悪いわ。だって、呼べば来てくれると思っているのよ?本気で、馬鹿じゃないの?」
「喜美、キツイですね。でも何となくわかりますよ、私も」
織火が苦笑いしながら言う。
「憧れるのはいいけど、実際になったらダメですよね」
「他人がいないと何もできないなんて、絶対嫌」
咲も同調する。
「ピンチの時はいつだってかっこよく主人公が駆け付けて、危ないところを殴り飛ばしてありがとう!って抱き着く。ヘドが出るわ」
喜美は昔からそう言っていた。
「ヒロインはあれで嬉しいのかしら?1人ではどうしようもなく惨めに負けて、他人に助けられて、それをまるで自分が勝ったかのように喜ぶ。酷いわね」
喜美は、今日のイリヤにソレを見つけたのだろう。
だからあそこまで本気で怒った。
「兄さんも、あんまり主人公したらダメよ?兄さんは現実でカッコイイ王子様ができるんだから」
「まぁ、気をつけるよ。それにイリヤのあれも、極限まで追い込まれたからだろう?」
俺がイリヤを庇うが、喜美は首を振る。
「そうなら、無意識にヒロイン願望があるってことよ」
「でも女の子なら誰でも持ってるものじゃない?」
「それが嘆かわしいのよ。男に助けられて当然。そういう風潮が大嫌いなの」
喜美はそこだけはぶれないよなぁ。
「沢木家に生まれて幸運だったことの1つは、幼い頃から、女は強くあるべきと叩き込まれたことね」
たしかに、ウチは女系が強い家系だからな。
「さて、そろそろイリヤをたたき起こすかしらね。寝るには早いわ」
「厳しいわね!」
沙耶が驚く。
仲良しで、あまりこう厳しくすることはなかったのに。
「イリヤは、私の義姉になるかもしれないのよ?厳しくもなるわ」
イリヤの嫁入りが、本格的になってきたから、厳しくなったということか。
「私と兄さんとイリヤ、3人だけで追加鍛錬ね。兄さん、行くわよ」
と、喜美はテントの中からイリヤを引きずり出して言う。
「うぅ……喜美……!?」
「何寝てるの?ふざけてんの?」
「う、ううん!違うよ!まだやれるよ!」
「フン!証明してみなさい!」
と、喜美がイリヤを引きずって夜の大砂漠に出て行く。
俺もそれについていく。
ここからは、沢木家のみの追加鍛錬だ。
合宿初日は、まだまだ終わらない……
こちらに真面目にロウきゅーぶ!の最新話を投稿していきます。
間の話は折を見て投稿していくつもりです。




