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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
インターハイ本戦編
54/251

決戦場の踊り手たち

それは一生の一度の

最後の舞踏

配点 (ラストダンス)

side喜美


兄さんが準決勝で八つ当たりの如く暴れ回って決勝へ進出した。


相手もダブルチーム、途中でトリプルチームにすら行ったのだが、問題無く抜き去った。


しかもたまにパスを出すから始末に終えない。


結局、大会新記録を樹立した。


そして帰ってソッコー寝た。


「嫌だ!もう修羅場は嫌だ!」


試合が終わってミーティングが終わり、イリヤを抱き上げて撫で撫でするとダッシュで帰った。


「……壮も大変だな」


植松がしみじみと呟く。


「というかアンタ達兄さん無しで明日の対策立てられるの?」

「うん?ある程度はさっきのミーティングで決めたからな。大丈夫だ」


明日が決勝だというのにお気楽なことで。


「ここまで来たんだ。今更どう足掻いても仕方ない。コンディションを万全にして、今までやってきたことを出すだけさ」


植松の隣の井上がそう言う。


「兄さんも、今日はイリヤよりもコンディションを選んだということね」


でも、兄さんは焦っているわけではない。


勝たなければという義務からの暴走でもない。


3年の2人と一緒に戦えるのは明日までだ。


勝っても負けても、3年生の先輩方は引退だ。


兄さんはその試合を目一杯楽しむために、最高の試合にするために寝たのだ。


いや、修羅場を回避したかったという可能性も無きにしもあらずだが。


「っていうかブチョー、勉強大丈夫なんっすか?」


島田が聞く。


「一応2ケタ順位にはいるからな。まぁ夏休み勉強があまりできないのは辛いけど、今年はみんなだし」

「みんな?どういうことなの?」


私は疑問を口にする。


「いや、なんか今年は強いみたいでさ。剣道と水泳と弓道と柔道と陸上とボートとカヌーとバドミントンがインハイなんだよね」

「強すぎるわ!」


他の学校が可哀相よ、それ!


ただでさえ学力で他を圧倒しているんだから……


「だからまぁ、みんなでトロフィー持って帰ろうぜってなってさ……」

「じゃあウチが1番乗りするってこと?」

「俺達で勢いつけてやらなきゃな」


なるほど。


さすが部長、ってところかしら?


「さぁて、帰ってエロゲエロゲ」

「というかあのエロゲ、『服を脱がせます』を選択したらループするんだけどバグじゃね?」

「はぁ?どういうことだ?」

「『服を脱がせます』を選択したら『そんなことするなんてもったいない!』って出て進まねぇんだ」

「落ち着いてもう1つの選択肢選べよ!」

「はぁ!?お前は据え膳食わないの!?馬鹿なの!?死ぬの!?」


据え膳食わないだけでここまで罵倒されるものなのかしら。


しかもエロゲの話だし。


「しかし、そしたら一生俺はアキちゃんと……」

「馬鹿野郎!企業は俺たちの誠意を試しているんだ!どれだけ断られても『服を脱がせます』を選ばないでどうするんだ!?」

「ひょっとしたら1万回くらいで『そ、そこまで言うのなら……わたし……』的な展開になるのか!」

「「「「「萌えてきたぜ!」」」」


「アンタ達はR-18よりもR-出家がいいみたいね」


こんな変態ばかりよく集まったものだ。


兄さんが霞んで見えてしまうわ。


さて、明日の試合、どうなるかしらね。





side沢木


とうとうこの日が来た。


来てしまった。


今、俺達はロッカールームにいる。


部長と井上先輩は目をつぶって集中している。


そしてついに、試合の時間が来た。


「お前ら」


全員が集まり、腕を掲げて合わせる。


「ここまでよくやった」

「「「「「押忍」」」」」

「これが最後だ」

「「「「「押忍」」」」」

「楽しむぞ、お前ら」

「「「「「押忍ッ!」」」」」


最後の声かけだ。


「浦高ッ!」

「「「「ファイッ!」」」」


楽しもう。


「浦高ッ!」

「「「「ファイッ!」」」」


勝とう。


「浦高ッ!」

「「「「ファイッっとおおおおおお!!!」」」」






アップを軽く済ませて、試合が始まる。


ジャンプボールは相手に取られた。


構わない。


植松が相手ガードにプレッシャーをかけつづける。


俺はこの相手のエースについていた。


激しく、激しくだ。


気合いで負けたら話にならない。


このエースには絶対にボールを渡さない。


「チッ……頼む!」


パスが外にしか回らない。


中には絶対に切り込ませない。


この高身長軍団はそうやって対処する。


「絶対切り込ませんな!」


部長の叫びに全員が応える。


だが相手も、ここまでパワーと高さだけで勝ち上がってきた。


島田先輩にマッチアップした相手が隙を見つけて侵入し、パワードリブルで押し込んで決めた。


構わない。


俺は自分の笑みが絶えないことを自覚する。


井上先輩が植松にスローインした瞬間に走った。


同時に、植松からのロングパスが繋がる。


「っと」


それをキャッチし、リングに叩き込む。


「っし!いいぞ壮!」

「1本ずつ返せばいい!慌てるな!」


先輩方の声が聞こえる。


まったく、負ける気がしない。





side喜美


今コートでプレイしている男を何と呼べばいいのだろうか?


鬼神、そう言うのがピッタリだろう。


相手エースに仕事をさせず、すべてを置き去りにしてシュートを決める。


沢木は尻上がりに調子を上げる。


ならば、今の兄さんがこのインターハイ通して最強ということだ。


浦話は兄さんと植松が立て続けにド派手なオフェンスを決める。


部長がリバウンドを確保。


そのまま走った植松にボールをぶん投げる。


だが今回は相手も植松に追いついている。


そのままキャッチしてレイアップしようとしても、ブロックされるかもしれない。


私ならどうする?


ダブルクラッチで避けるかしらね?


植松はトリッキーな方法を取った。


飛んできたボールをキャッチするのではなく、股下を通して後ろにノールックのバウンドパス。


そこに駆け込んでいた兄さんが咄嗟に反応してキャッチ。


そのままリングに叩き込む。


叫ぶ鬼神。


もはや人ではない。


「お兄ちゃーん、頑張ってー!」

「おーう!頑張るよー!」

「「「「「前見ろよ壮ッ!」」」」」


イリヤだけが兄さんを人に戻すことができる。


兄さん、すごく楽しそうだ。





side井上


もう結果なんてどうでもいい。


ただこの時間を楽しみたい。


俺は相手を腕で押しながら植松を呼ぶ。


植松がゴール下にボールを投げ入れる。


俺は肩で相手を吹き飛ばして体を飛ばす。


ボールを指先でキャッチし、そのまま飛んで、目の前のリングに叩き込んだ。


「オッケー!!ナイス井上先輩!!」


植松の声が聞こえる。


「当たり前だろ!」


俺はそれに返す。


「っしゃあ、もっと激しく行きますよ!」


壮の声も聞こえる。


2年間だ。


2年間待ち続けた。


センター、フォワード、シューティングガードは揃っていた。


だが、肝心のポイントカードとポイントゲッターがいなかった。


ついに揃って、俺達はここまで来た。


日本の頂上を決める戦いだ。


インターハイ決勝。


だが、心は穏やかだ。


横浜羽沢との死闘を経て、何かを悟った気がする。


ただ最高のパフォーマンスをしよう。


それだけを思った。





side沢木


戦っている間、もはや無心だった。


ふと気づいたら2Qが終わっていた。


みんながもう終わり?という顔になって、次にハッとして点数を見る。


10点差をつけていた。


「あぁ、勝ってるな」


部長の言葉に全てが集約されている。


目一杯楽しんで、後でふと思い返して、あぁ、勝ってるな。


そう思えるのが1番強い。





side喜美


後半に入っても勢いが衰えない。


「お兄ちゃんカッコイイ!」

「カッコイイわねー、イリヤ」

「フフッ!私の夫はカッコイイよ!」


イリヤのほうも変わらず平常運転だ。


昨日の今日でギクシャクするかと思ったが、普通に接してくれたのでホッとした。


あの試練のことだが、母さんに言われたことを思い出していた。




「喜美、子供に運動させたいかい?」

「そうねぇ。日本一くらいにはなってほしいわね」

「アンタ……まぁいいよ。それで、子供の運動神経を左右するのは何か知ってるかい?」


そんな質問を唐突にしてきた。


「さぁ?幼少期の訓練じゃないの?」

「違うね。センスそのものを左右するのは、母親の運動神経さ」


そんなエセ科学みたいなことを言われた。


笑いながらだったので、嘘かもしれない。


「人のミトコンドリアはね、全て母親から受け継ぐのさ」

「あら、一応科学的根拠はあるわけね?」

「ま、そうだね。そこでウチの掟なわけだがさ」


そこまで言われて私は理解した。


「なるほどね。子供の運動神経を向上させるために強い母親を求めるというわけ?」

「わからないよ。私の推論さ」


その時はイリヤが兄さんの嫁に来るなんて思ってもいなかった。


「兄さんの婚約者を試すのが私になるのね」


「まぁ頑張りなよ。これはアンタの試練でもあるんだからさ」


「試練になるかしら?相手になるとは思えないわ」


「アタシみたいなのも世の中にはいるのさ」


「というか兄さんの嫁になる人いるかしら?」


「……そればっかりは何とも言えないね。子供育てるのは初めてだったからね。育て方間違えたね、ありゃ」


「見事な変態に育ったと思うわよ?いったいどうやったらああなったの?後学のために教えてちょうだい」


「いやぁ、とりあえず生まれた子供は谷底に落とすものだからね。とりあえず放り投げたけど」


「よく生きていたわね兄さん!」


「ま、私の子供だからね」





私は隣のイリヤを見る。


「?どうしたの?喜美」

「いや、イリヤなら大丈夫よね?」

「どうしたの?」

「何でもないわ。ほら、応援しましょう?」

「うん!」


私は未来の甥か姪のために祈ってやることしかできない。





side沢木


4Qに突入。


こっちは絶好調なのだが、相手も食らいついて来る。


10点差からなかなか突き放すことができない。


植松にボールを任せる。


植松はその場で数回ドリブル。


唐突にジャンプシュートを放つ。


リングに当たって弾かれたが、井上先輩が確保する。


相手にフォワードやセンターにもみくちゃにされて、傷だらけになりながら井上先輩はボールを死守する。


俺はその井上先輩にぶつかりに行くような勢いで近づき、直接ボールを受け取る。


そして外に展開した島田先輩にパスをして、3pが決まった。


よし、こっからだ。


相手のオフェンスになる。


バスケのディフェンスとは、詰め将棋に似ている。


相手の動きを読み、封じる。


相手がファールを犯す以外の道を断つ。


「ッシ!」


相手エースはフェイントを数回入れて、こちらを惑わせようと必死だ。


その度に俺の体は反応して飛ぼうとする。


飛べば相手は俺に体をぶつけて、こちらのファールになる。


だから本能を心で押さえ付ける。


「……このッ!」


そうすれば相手はフラストレーションが溜まり、


「6番!チャージング!」

「なぁっ!?」


こうなる。


相手は無理矢理俺を抜こうとして、俺の右後ろで構えていた井上先輩に激突した。


井上先輩が吹っ飛ぶ。


「先輩!大丈夫っすか!?」


慌てて起こしに行く。


「大丈夫だ。よし、フリースロー決めてやんよ!」


気合い十分でフリースローを打って、2本を沈めた。


ああ、もう時間がない。


もっと楽しみたいのに。


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