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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
インターハイ本戦編
53/251

未来の敵対者

昨日の他人は

今日の友

今日の友は

明日の敵

配点(試練)

side健二


あの横浜羽沢に勝利した浦話は、それが嘘のように4回戦でボロ負けした。


……なんてことはなかった。


瞬殺であった。


それはもうひどい大差だった。


「壮さん荒ぶってますね……」


知美の言葉通りだ。


壮が異様にハイテンションだ。


「いやっほおおおおお!!」


とか言いながらダンクしまくるのだからたまったものではない。


そして浦話はなぜか他のメンバーもテンションが高かった。


「おらっ!祝福の3pだ!」


島田が3pを連発する。


部長もオフェンスリバウンド取りまくって、リバウンド数大会記録をたたき出しそうな勢いだ。


植松から沢木、井上へのホットラインも開通しており、アシスト数がすでに大会記録になっている。


前半だけで壮が30点、島田が12点、井上が13点、植松が6点、アシスト24という驚くべき数字を出していた。


喜美の隣に座っているイリヤも異様にハイテンションだった。


「頑張ってー!お兄ちゃーん!!」

「兄さん、わかりやすいわね……」


反対に喜美は沈んだ様子だった。


「あれ?喜美、やっかいごとでも抱えているんですかね?」


喜美の親友である織火によると、そういうことらしかった。


あの唯我独尊を体現しているような喜美に悩みがあるというのが驚きだ。




結局その試合は1度もヒヤリとすることなく勝利を収めた。


……違うんだ。


相手が弱いわけじゃないんだ。


相手は優秀なポイントガード、やたら足の速いフォワード、なんでもできるシューティングガードなどが揃っていたんだ。


だが浦話が強すぎた。


というか壮と植松が強すぎた。


あれで1年生ペア、俺と同世代なのだ。


壮、植松。


ウチの県は1年生が強すぎる……





side喜美


試合は順調に終わってハイ来ました修羅場タイム!


毎晩恒例の修羅場よ!


先日のゲストはアイリさんでした。


さぁて今日のゲストはー?


「へぇ、貴女がイリヤちゃん?」

「フフッ、そういうお姉さんが知佳姉さん?」


ハイ!知佳姉さんです!


浦話は全員隣の部屋に閉じこもっている。


「これ以上修羅場を見ると胃に来る」


らしい。


明日はもう準決勝だし。


というわけでイリヤとアイリさんの取った部屋には兄さん、私、イリヤ、知佳姉さん、アイリさんがいた。


事態の経緯はこうだ。




まず知佳姉さんが兄さんに会いに来た。


準決勝進出おめでとう、とか言おうとしていたのだろう。


そして銀髪幼女に襲い掛かっている兄さんを見てブチ切れた。


知佳姉さんが兄さんに襲い掛かり、私が知佳姉さんを投げて阻止した。


そして知佳姉さんを部屋まで引っ張り上げ、説明することにした。


しかしその銀髪幼女があのイリヤと発覚。


ハイ修羅場!


今ここよ!ここ!




というわけで、


「フフッ、幼なじみのくせにお兄ちゃんのこと信じられないんだ?」

「な!?ふ、フンッ!私はね、壮君のためを思って言っているんだよ!」


お、劣勢の知佳姉さんが反撃した。


「いつもいつも『お兄ちゃん大好き!』ばっかりで壮君のことを悪く言わないイリヤとは違うの!」


それにしても知佳姉さんも諦めが悪い。


兄さんのことは諦めて次の恋へGOしたのではないのか?


「イリヤはお兄ちゃんのことよくわかってるから。それに、ちゃんと締めるところは絞めているもん!ねぇ?お兄ちゃん?」

「はい。その通りでございますイリヤ様」


ガタガタ震えながら言う兄さん。


4歳くらい年下の小学生相手に尻に敷かれている兄さんだった。


「それにお母様の許可も貰ったもん!」

「え!?」


アイリさんが知佳姉さんに困ったように微笑みかける。


それでわかったのだろう。


知佳姉さんはさすがにしょんぼりした様子だ。


しかし、


「でも、まだ壮君のお母さんには許可貰ってないよね?」


とことん諦めが悪いわね!


それにここで母さんの存在が出てくると……ヤバイわ。


「そ、それは……帰ったらすぐに挨拶に行くもん!」


それだけはやめて。お願いだから。


「フンッ!イリヤが壮君のお母さんに許可貰えるかな?壮君のお母さん、すごく厳しいんだよ?」


嫁姑の関係というのは、とても大切だ。


ここで関係最悪になると、結婚してからが辛くなる。


しかも、沢木家の嫁に来るためには、想像を絶する試練がある。


「イリヤはお兄ちゃんのこと大好きだもん!どんなことでも耐えられるもん!」


イリヤのその言葉で、私はある決心をした。





それからしばらく喧嘩を続けて、イリヤが勝利を収めて知佳姉さんは帰って行った。


知佳姉さん。これで本当に次の恋にGOしてちょうだい。お願いだから。


兄さんは限界とばかりに部屋に帰ってすぐに寝た。


今がチャンスね。


「イリヤ、お義母様、いいかしら?」


兄さんが熟睡しているのを確認して私は2人の部屋を訪れた。


「あ、喜美!どうしたの?ここで寝るの?」

「フフッ、いいわよ?可愛い義娘だもの」

「ありがとう、お義母様。でも、もうちょっと深刻な話をしに来たわ」


私の声色と表情で深刻の度合いを悟った2人が姿勢を正してこちらを見る。





「知佳姉さんも言っていたことなのだけれど、ウチの母さんはとても厳しい人よ」


それはもう恐ろしい母である。


リアルで子を崖から突き落とすような人だし。


2人の表情が引き締まる。


何せ夫の母、娘の夫の母である。


結婚したら誰よりも注意しなければいけない相手だ。


だが私が言いたいのはそういうことではない。


「ウチは代々軍属の家系でね?そりゃもう伝統はすごいのよ」


沢木家、というのは聞く人が聞く人なら仰天するような一族だ。


名家の1つに数えられ、軍、という括りなら日本でもっとも有名な家だ。


「そうなんだ」

「そうだったの?」


まぁ知られていないわよね。


軍も自衛隊となり、その地位は低下する一方。


自衛隊はなくてもいいと言う者までいる始末だ。


しかしウチはそれでも軍の一族である。


「その沢木家に嫁ぐ。意味はわかる?」

「……」

「……つまり、ある程度の家柄や気品が求められると?」

「惜しいわね。ウチは血統主義ではなく、実力主義よ。つまり」

「実力を証明する必要があるということですか?」


お義母様はさすがにわかっている。


「その通り。沢木家に嫁ぐには試練を受けなければいけない。沢木家の女になる資格があるのかどうか」

「受けて立つよ」


イリヤが緊張しながら、それでも言う。


強い子ね、イリヤは。


「どうすればいいの?」

「軍人の妻は、夫が戦地に出かけている間、家を守る義務があるわ。夫が帰ってきて、ただいま、と言えるように」


私は母さんに説明されたことを思い出す。


「夫の助け無しで、妻は子供を、家を、格を、敵から守らなければいけない」


そう。妻は夫に頼ってはいけない。


「イリヤ。貴女はそれだけの覚悟があるのかどうか。それを確かめるものよ」

「……具体的には?」


さて、言うべきか。言うまいか。


ここまで来て迷う。


しかし、先ほどイリヤの言葉を思い出して私の決意は固まった。


「沢木家直系の女性と、戦ってもらうことになるわ」


沢木の血を直接に継ぐ女性。


現在それは1人しか存在しない。


つまり、





「イリヤ、私と戦うのよ。単純に、殴り合いでね?」






前近代的と思うならそう思いなさい。


古臭い習慣と笑ってくれてもいいわ。


それでもウチは沢木家なのよ。


「沢木家の女と同等の力があるのか。それを確かめるわ」


ただイリヤが不幸だったのは、沢木直系の女性が私しかいないということ。


この才能に満ち溢れ、幼い頃から父さんに戦闘技術を叩き込まれている私を相手にしなければいけない。


「喜美を……倒す?」


イリヤはよくわかっていない様子だった。


私はそこに釘を刺すことにする。


「ええ。イリヤ、甘く考えているなら止めなさい。ほとんど殺し合いも同然になるのよ?」


この試練をイリヤに行ったらどうなるか。


だいたい結末は予想できる。


私とイリヤの戦闘技術は、天と地の差だ。


そして私は手加減というものができない。


つまり、殺してしまう恐れがある。


だから私はイリヤと兄さんの婚約が具体的になっていき、焦った。


もしかしたら、大切な友達を亡くすかもしれない。


「そ、そんな……」


お義母様もショックを受けたようだ。


ここだ。


ここがイリヤを説得できる最後のチャンスだ。


「イリヤ。止めておきなさい。確かに兄さんもいいかもしれない。でも婚約するほどではないわよ?」


ここで言わなければ。


「付き合うだけならこの試練は受けないで済むのよ。ねぇ、付き合うだけでもいいじゃない?」


そうでなければ、私は……


「こんな早くに決めることはないわよ。人生のパートナーなのよ?」


親友を、殺すことになってしまう。


「ねぇ。もっと考えましょう?イリヤ。時間はたっぷりあるんだから。ねぇ、」

「喜美」


イリヤの言葉に私の発言は遮られる。


「ゴメンね。喜美。でも、イリヤにはお兄ちゃんが1番なんだ」


はっきりした言葉。


押しても、退いても、叩いても。


イリヤの心は変わらない。


それがわかった。


「そう……お義母様、それでいいのかしら?」

「イリヤの決めたことなら」


「……フフフ、いいわ」


貴女達がそう言うならば、私は受けなくてはいけない。


「母さんに婚約したことを報告しに行くと、試練を受けることになるわ」


つまり、


「イリヤが自分で時期を決められるということ?」


イリヤも状況を把握している。


「そうよ。悪いけど、今のイリヤなら瞬殺できる自信があるわ。ええ、言葉通りね?」

「じゃあ10月。それでいい?」


10月か。


そのあたりに大会はない。


全国へと繋がる大会は12月からだ。


よっぽど大きなケガをしない限りは回復できるはずだ。


「お義母様もそれでいいわね?」

「……構わないわ。でも、それまでに壮君にも夫に挨拶をしてもらいます」

「いいわよ。そちらのやり方でやってもらって」


兄さんにも苦労してもらわなければ。


「じゃあこのことは兄さんには秘密にしておいて頂戴。代々、沢木家の女にしか伝わっていない伝統だから」

「わかった」


さて、これで一応懸案事項にケリがついた。


イリヤが兄さんの告白を受けてから、ずっと悩んでいたことだった。


親友と敵対するということ。


沢木家の女として、新参者に牙を剥く。


どうしようか悩んでいた。


いっそ破局してくれと何度か思った。


しかし、イリヤの強さに触れた。


私も覚悟を決めた。


「あれ?喜美のお義母様が倒した沢木家の人はどうなったの?」


ああ、やっぱりその質問が来たか。


ごまかすわけにもいかない。


「叔母さん?死んだわ。母さんに負わされた傷が元になってね」

「……」


わかってる?


沢木家の嫁に来るって、そういうことなのよ?





side沢木


朝起きたら左にイリヤがいた。


左腕に抱きついてクークーと可愛らしい寝息を立てている。


ふと右を見ると喜美がいた。


俺は躊躇無く右の喜美を振りほどき、イリヤに抱きついた。


瞬間、イリヤの膝蹴りを顎に喰らった。


……はい。そうですよね。


許可も無く触ったらそりゃダメですよね。


と、また喜美が俺の右腕に抱きついてきた。


暑苦しいので止めろと思う。


しかし和服がはだけて、ほとんど丸見え状態の胸を見て考え直す。


とりあえずオパーイ触るか。


俺は妹のオパーイに触ろうと手を伸ばして、見事に投げ技を喰らって窓の外に放り出された。





「妹のオパーイ触ろうとか兄さん何考えているの?」

「朝だったからな」

「そう。朝だったら仕方ないわね。私も朝だから兄さんを海に投げようかしら?」

「海だけは止めてくださいこの通りです!」


土下座。


最近土下座が上手くなってきた気がする。


「そう。じゃあ私はいいわ。ええ、私はね?」


俺は後ろに殺気を感じて振り返る。


「フフッ、お兄ちゃん。イリヤが昨日どれだけ悩んでいたかも知らないで、実の妹に手を出すなんて……ねぇ?」


鬼のような天使がいた。


薄い肌着しか纏っておらず、チョー可愛い。


「イリヤ。可愛いな」

「もう!お兄ちゃんったら!」

「もう超可愛いなイリヤ!こんなお嫁さんを貰って俺は幸せだああああぁ!!」

「フフッ、じゃあお兄ちゃん。沈もうか?」

「……はい。イリヤ様」



水に対するトラウマが増えた瞬間だった。




八つ当たりのように準決勝では荒ぶった。


それはもう鬼神の如く荒ぶった。


相手は強かったみたいだが、1段階プレイヤーとして成長した俺の敵ではないわ!


というか強いの全部こっちの山に入ってたからね!


正直あと強いのは第2シードだけだからね!


俺は大会記録となる、74点を叩き出して決勝に進出した。

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