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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
インターハイ本戦編
52/251

雪国の妖精王

子供のためなら

この命でさえ

惜しまない

配点(母親)

side沢木


決まった……勝った。


心の中ではそう思っているのがわかる。


事実としては認識することができる。


しかし実感することはできない。


俺はその場で崩れ落ちてしまった。


「やったぞ壮!俺達の勝ちだ!」


植松の声が聞こえるけれど、遠くに感じられる。


ちょっと疲れすぎた。


俺はシュートを放ったそこで、そのまま倒れた。


「おいいぃ!?壮!?」


こちらに駆け付けていた島田先輩が寸前で抱き上げてくれる。


「すんません、先輩」

「おい大丈夫か?壮……」


島田先輩が言葉を切る。


どうしたんですか?と聞くことはできない。


俺の目からは涙が溢れていた。


「……バスケやってきてホントによかった」


ただこの言葉だけだった。





side喜美


兄さんが泣いている。


初めて見た。


泣きながら床を何度も叩いている。


やっぱり兄さんでも泣くのね。


私とイリヤは兄さんが勝つことを知っていたからそこまで感情の高ぶりはない。


しかしまぁ。


「強いわね、私の兄さんは」


なんだかこの試合中に1つ次元を越えたような気がする。


「でもよかったー、お兄ちゃん勝てて」

「ああ、イリヤ。そうだったわ。聞きたいことがあったの」


試合が終わって緊張から解放された私は、ずっと疑問に感じていたことを話すことにした。


「イリヤ、お義母様に沖縄に来ることを反対されていたのでしょう?どうして来れたのかしら?」


イリヤのお義母様は悪戯っぽく微笑む。


「それも後でキチンと話すよ」


反対にイリヤは少し緊張した様子だった。


「お兄ちゃんも一緒に」

「……」


兄さん。


強敵を倒して疲れ果てて帰ってきたら彼女のお義母様と対談とか……さすがに可哀相になってきたわ。


まぁ私は隣室で録音して修羅場楽しむけどね!





side沢木


あの後、何がどうなったのかよく覚えていない。


ただみんなで意味不明な叫び声を上げまくったことしか覚えていない。


気づいたら民宿に戻っていて、気づいたらイリヤが目の前にいた。


「イリヤ!」

「お兄ちゃん!」


久しぶりということもあってか、抱き着いても文句を言われず、それどころかほお擦りまでされた。


「会いたかったよイリヤ!」

「イリヤもだよお兄ちゃん!」


後ろで先輩たちが


「チッ、なんだよ1人だけよぉ」

「どーせ俺達はモテナイーズですよすいませんでしたねぇ!?」

「爆発しろ、壮だけ」

「明日の試合で爆発しろ畜生」

「1人だけ銀髪っ子とイチャイチャとか……死ぬか?」


などと言っているのが聞こえる。


ハッハッハ!憐れだな!


「今日もイリヤは可愛いなぁ!」


今日のイリヤの服装は、女子高生チックだった。


ミニでもなく、ロングでもなく。


絶妙の丈のチェックスカート。


そしてキチンと着ているブラウス。


そこまでは完璧に女子高生だ。


しかしリボンではなく、ネクタイを締めていた。


それも薄い紫色の。


それがイリヤと似合いすぎていて端的に言うと鼻血出そう。


おいおい、蓮里の男子はいつもこれを見ているのか?


羨ましい!羨ましいぞ畜生!


「ねぇお兄ちゃん。今日の格好どうかな?」

「可愛いぞ!蓮里の男子に嫉妬するぐらい可愛いぞ!」

「よかった。沙耶の服を参考にしたんだけれど」


そういえば沙耶の私服に関しての話は聞いたことがある。




「私が年相応の格好すると周りから『コスプレ……』って単語が聞こえてくるからいやになったのよね」

「確かにお前の身長でランドセルとかネタだな」

「だから高校生みたいな服でランドセルも止めたんだけどねー」

「傍から見たら小学校に通う高校生みたいだな」


身長が高いというのはいいことばかりではない。


「だから最近はスーツで来るようにしているのよ。教師に思われるように」

「お前も大変だな……」




なるほど。


イリヤは沙耶の服にあこがれていたのかもしれない。


沙耶は大人っぽいからな。


そして思い切ってその服で俺に会いに来てくれたのだという。


もう感動である。


「えっとね、お兄ちゃん」

「なんだ?」


と、イリヤが真面目な顔で話しかけてくる。


「実はお母様がお兄ちゃんと会いたいって……」

「……」


アレですか。


今日は神様に頼ったから代演奉納ですか。


「お、お義母様は今どちらに?」

「部屋にいるよ。お兄ちゃん、頑張ってね?」


まさか疲れ果てているこの状況で婚約者の母親にご挨拶か。


俺は大慌てで荷物の中から制服を見つけ出し、しっかりと着た。


シャワーは浴びたから髪はOK。


よし、いけるぞ沢木壮!


俺は俺たちの部屋の隣にある小さな部屋に入っていく。





side喜美


私は兄さんが部屋に入った瞬間にふすまに張り付いた。


聞き漏らすことのないように耳を当てる。


そして隙間に録音機を差し込む。


ふと振り返ると浦話のほぼ全員がスタンバイしていた。


(ちょっと多いわよ!)

(可愛い後輩の人生の分岐点だぞ!?みんな応援したいに決まっているだろ!?見なきゃ損だろ!?)

(最後にあっさり本音ぶちまけたわね!)


ジェスチャーで話し合う。


正直この部長蹴り飛ばしたかったが、我慢した。


しかしもう騒ぐわけにはいかない。


部屋の中で話し合いが始まったのだ。


(静かにしておいてちょうだいよ。マンガみたいにみんなで雪崩れ込むとか最悪よ?)

(ああ。それくらいわかっている)


というわけで男衆は後ろに控えた。


「初めまして。イリヤの母、石田アイリです」

「初めまして。沢木壮です」


よし!兄さんにしては珍しく普通の挨拶ね!


いつもならとりあえず全裸になっているところだが今日は我慢した!


「試合を見ました。とてもバスケが強いのですね」

「ハッハッハ。小さい頃からやっていましたから」


そこで謙遜しない兄さん流石!


「でも初めてアイリさんを見たときは驚きました。てっきりイリヤ……さんのお姉さんかと」

「フフッ、お上手ですね」


な!?


まさか現実で『お姉さんかと思いました』を使ってくるとは!!


流石過ぎて何も言えないわ兄さんッ!


後ろでは浦話の連中が何とか声を出さずに笑い転げていた。


しかしお義母様も満更でもなさそうだし結果オーライかしら?


「……」

「……」

「……」


イタイ!


この沈黙がイタイ!


空気が重過ぎるわ!


「沢木、壮君。単刀直入に聞きます。イリヤと婚約したのですか?」


いつまでも遊んでいるわけにもいかない。


お義母様が話を振ってきた。


「はい。俺はイリヤさんと将来を約束しました」


それに間髪いれずに答える兄さん。


そのハッキリした言い方はオーケーね。


でも、そう簡単に認めるかしら?


「そうですか……イリヤ、受けたの?」

「うん。イリヤも約束したよ。お兄ちゃんと結婚するって」


後ろの浦話の生徒の1人が海に飛び出して


「夕日のバカヤロー!!」


と叫びながら泳ぎ始めた。


フフフ、この甘甘空間に耐えられなくなってきたわね?


「そう。2人とも、同意の下で、結婚の意志があると」

「「はい」」


2人が同時に答える。


婚約、というものは特に手続きはいらない。


口頭でも何でも、2人が将来結婚の意志があると誓えば婚約になる。


「なるほど。そうですか」


お義母様の声が硬い。


私の直感が告げる。


次の言葉に、注意して!


「それでは、沢木壮君」


そしてお義母様からその言葉が飛び出す。


「貴方は、日本国籍を捨てる覚悟がありますか?」

「……は?」


兄さんが虚を突かれたような反応を見せる。


私たちは全員が一斉に表情を引き締めた。


録音、しておいて正解だった。



でも兄さんが日本人ではなくなるってどういうこと?


(姐さん、国籍法だ。日本は二重国籍を認めていない!イリヤの国籍はどこだ?)

(イリヤの国籍は……ロシア!?)


確かイリヤは小学2年生までロシアに住んでいた。


父親は日本人だったはずだが、日本国籍ではないだろう。


(ということは……)

(今イリヤはロシア人。壮は日本人だ。結婚したらどちらかがどちらかの国籍にならなければいけない)

(なるほど。イリヤが国籍を変更することは?)

(できるけど、それが意味することがわかるか?)


わかるわよ、そりゃ。


私が日本人というアイデンティティを失うのと同じようなものでしょう?


私なら無理ね。


私は日本人だもの。


それは譲れぬアイデンティティだ。


だが、あの頭のオカシイ兄さんならどうかしら?





side沢木


迷いがなかったか、と言われると答えにくい。


即答できたかと言われると、違うといえる。


悩んだかといわれると、そうだとしか言えない。


俺は一瞬でも悩んでしまった。


アイリさんの表情が険しくなる。


イリヤがさびしそうな表情をする。


俺とイリヤの間に横たわる壁。


人種の差。


俺は言われてようやく国籍法の存在を思い出していた。


俺かイリヤのどちらかが、国籍を変えることを迫られている。


「ハッハッハ、アイリさん。俺はイリヤさんのことが大好きなんですよ?」

「……ならば、貴方は国籍を変えることも辞さないと?」

「当然です。俺は、イリヤと一緒にいられるならば何でもしますよ」


俺の言葉にアイリさんは目をつぶる。


どうだ?


「なるほど。少し安心しました」





side喜美


よし!


さすが兄さん!


(すげぇな。というかこんな重要な決断ポンポンしていいのか?両親は?)

(兄さんは帰ったら色々と覚悟したほうがいいわね)

(……そうか)


母さんに半殺しにされるのは確実だろう。


でもこれでイリヤのお義母様は兄さんのことを認めてくれたかしら?


「しかし、貴方はまだ学生ね。仕事もないし、将来つける確証もない。イリヤを本当に幸せにできるとは限らない。どうかしら?」


はい!そんなに甘くないわよねー!!


「確かに今はそうかもしれません。でも、3年後には絶対にイリヤさんを幸せにできる環境を調えて見せます」


兄さんの根拠なしの自信に満ち溢れた発言もこういうときはいい。


「婚約、というには少し年齢が幼すぎるんじゃない?壮君もイリヤが最高の相手とは限らないわよ?」

「俺にはイリヤしかいません」

「イリヤ。これから先、もっと色々な出会いがあるかもしれない。そういう機会をイリヤは捨てちゃうの?」

「お母様。お母様の言葉は常に正しいけれど、今回は間違っているよ。イリヤは、お兄ちゃんのことが大好きだよ。これから先、会う人の誰よりも」


私はお義母様の急ぎすぎ、という意見に共感できる。


でも、兄さんとイリヤは運命の2人のような気もする。


お義母様が息を吐く。


そしてゆっくりと吸い、言葉を放つ。


「壮君。貴方は、イリヤを幸せにできる?」

「絶対に。絶対に幸せにしてみせます」


変わらず自信に満ち溢れた言葉。


でもこういう状況では、そちらのほうが頼りになる。


「イリヤ。貴方は、壮君を幸せにできるの?」

「うん。お兄ちゃんと一緒なら、イリヤも、お兄ちゃんも幸せだよ?」


イリヤの声もハッキリしていた。


そして、


「そう……なら、お母さんは認めるしかないわね」

「ほ、ホントですか!?」

「お母様!」

「うん。ホントよ。いいわ。私は、貴方たちの結婚を認めてあげる」


私の後ろで浦話の連中が声を出さずに全身で喜びを表現していた。


しかしまぁ、私は、ねぇ?


もう2つほど難所は残っているわけだ。


兄さんはイリヤのお義父様。


そしてイリヤも、ウチの母さんと対決しなくてはいけない。


たぶんイリヤが1番辛いだろう。


沢木家の女になるということは、大変なことなのよ。


でもまぁ、今日今くらいは祝福してあげてもいいかしらね?


フフフ、なんかマジでイリヤが義姉さんになりそうで怖いのだけれど……

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