戦場の鬼神
それは光に然り
それは闇に噛み
それは力に近き
配点(攻撃者)
side沢木
今日が事実上の決勝になるだろう。
第1シードの横浜羽沢高校。
ここに勝たなければ優勝はないのだ。
俺はロッカールームで小さくジャンプを繰り返す。
みんなには新たな作戦を伝えていた。
もしもの場合は、俺が1人で決めます。
そう言ったのだ。
正直ぶっ飛ばされても文句は言えない生意気な台詞だったが、みんな受け入れてくれた。
当然ギリギリまではみんなを信頼して、チームで点を取りに行く。
しかし本当にヤバくなったら、俺が1人で決めてやる。
これが昨日イリヤとの相談で導き出された結論だった。
ここでお義母様にアピールをしておかなければ……!
イリヤ達はまだ来ていない。
少し残念だけれど仕方ない。
「よし、お前ら集合」
部長の言葉で全員が集まる。
「いいか、今日の相手は強敵だ」
「「「「「押忍」」」」」
「だがな、俺達だって強い」
「「「「「押忍」」」」」
「遠慮するな。ぶちのめすぞ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「浦高ッ!」
「「「「「ファイッ!」」」」」
「浦高ッ!」
「「「「「ファイッ!」」」」」
「浦高ッ!」
「「「「「ファイットオオオオオオ!!」」」」」
side健二
ついにこのビデオが送られてきた。
浦話VS横浜羽沢
いつもは嫌がらせのように結果も書かれていたのだが、今回は何もなしだった。
これって、まさか……浦話が負けたのか?
「……早く見ましょう、西条のコーチ」
織火に促されて俺はビデオを再生する。
画面に映し出されると同時、試合がスタートした。
まずは横浜羽沢の攻撃だ。
ポイントガードがゆったりと迫る。
植松はかなり気合いの入ったディフェンスを見せる。
しかし、それが一気に置いて行かれた。
ただ加速しただけだった。
ゆっくり近づいて、一気にスピードを上げて抜き去る。
たったそれだけの技に植松は手も足も出なかった。
喜美が息を呑むのがわかる。
あれが高校生トッププレイヤーなのだ。
浦話の攻撃。
植松がかなりプレッシャーを受けている。
壮がほとんどむしり取るような形でボールを奪う。
しかしすぐに相手のディフェンス。
相手フォワードも動きが素早い。
壮はドライブよりもパスを選択。
中にボールを放り込み、それを部長がキャッチする。
パワードリブルを開始。
しかしまったく押し込める気配ではない。
部長は無理矢理に振り向き様のショットを放つがエアボールになってしまった。
「ほぇ?掠りもしないの?」
雪の言葉に同意だ。
浦話の部長はあそこからでもリングに乗っける技量はあるはずだ。
それができていないとなると……
「緊張、ね。仕方ないことだけど」
沙耶の言う通りだ。
最初の植松といい部長といい、浦話の動きは硬かった。
王者との対戦というプレッシャーはこれほどなのか。
横浜羽沢のオフェンスに移る。
再び小野寺がボールを運ぶ。
植松は今度は下がって守っていた。何がなんでも抜かせない構え。
しかし小野寺はアッサリとミドルレンジのシュートを沈めてきた。
「これは……!!」
同じポイントガードだからわかる。
小野寺は止められない。
どこからでも点を取って来るとはこのことだろう。
まだ他の4人はボールに触れてさえいないのだ。
浦話は次のオフェンスも失敗する。
島田のロングが落ちて、リバウンドを取られる。
横浜羽沢が速攻を仕掛けていた。
戻っていたのは壮だけ。
対して相手は小野寺と宮澤の2人で襲い掛かってきた。
宮澤が小野寺にパスし、小野寺がフワリと球を浮かせる。
宮澤はそれを空中で掴んでリングにたたき付けた。
アリウープだ。
「兄さん……」
喜美の声が聞こえる。
ここまで浦話が完全に抑えられている。
それを打破できるとすればエースしかいない。
壮がボールを受け取る。
そのまま自分で上がる。
宮澤がしつこくついているが、それをかわしていく。
そして停滞することなく一気に切り込みに行き、宮澤が反応して下がって体に力を込めた瞬間に後ろに飛ぶ。
一気に後ろに跳んでのフェイダウェイショット。
壮はそれを打つフリをして、フリーになってベースラインを走ってきた井上にパスを出した。
井上がそのままバックショットで決める。
「よしっ!」
思わずガッツポーズをする。
浦話が1本を返した。
しかし浦話は相手のオフェンスを一瞬で決められると、次のオフェンスは失敗。
そして再びオフェンスを決められたことでタイムアウトを取らざるを得なくなった。
side沢木
ちくしょう……マジで強い……
小野寺とはプレイしたことなかったからどれだけ強いか知らなかった。
「ハァ……すまねぇな」
植松が息を切らしながら言う。
たったこれだけの時間でここまで削られるのか。
「壮、どうする?」
「まだ、まだです。今は相手の実力に慣れていないだけです。ここは我慢です。ディフェンスをもっと強く行きましょう!」
「「「「「押忍」」」」」
「ディフェンスリバウンドは絶対に1本で取りましょう!相手に得点のチャンスを無駄に与えちゃダメです!」
「「「「「押忍」」」」」
「こっちは挑戦者です。もっと汚いプレイで行きましょう。泥臭く勝ちましょう。行きますよ!!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
side喜美
10対2で負けている。
正直、兄さんがここまで歯が立たない相手を初めて見た。
「イリヤも遅いわね……」
切り札イリヤの応援はまだ来ていない。
会場はほとんどが横浜羽沢を応援している。
第1シードに順当に勝ち上がって欲しいのだろう。
少ない浦話勢の応援は掻き消されてしまう。
フフフ、仕方ないわね。
「さぁ兄さん!ここで1本よ!!」
私が声を通してあげる。
「取りに行きなさい!」
会場全てに声を響かせる。
私の声で横浜羽沢の応援が少し弱まる。
もう一押し。
「ほら、アンタ達。声を通しなさい」
「「「「「押忍!姐さんファイト!」」」」」
「うん。私はいいから兄さんたちを応援しなさい」
どうせ真面目に横浜羽沢を応援しているところは少ないのだ。
だったら浦話を応援する流れに持っていく。
「「「「「オーフェンス!オーフェンス!」」」」」
みんなが声を出してきた、回りもそれに感染し始める。
むぅ。後もう少し。
せめて応援で兄さんに加勢しなければいけないのに。
「喜美!どうなってる!?」
と、ついにイリヤがやって来た。
私には天使が舞い降りたようにしか見えなかった。
「イリヤ!さぁ兄さんに声援を!」
私の叫びにイリヤは首を傾け、しかし思い切り息を吸い込む。
「お兄ちゃん!頑張ってえええええ!!」
その声が体育館全体に響く。
その瞬間、
「「「「「お兄ちゃん頑張ってえええええ!!」」」」」
会場全体が一気に浦高側に回った。
フフフ!男なんて簡単なものよ!
side沢木
なんとかしなければ。
予想以上の強さに俺は焦っていた。
俺が決めないと……!
そこに喜美の声が通る。
「兄さん!取りに行きなさい!」
ふむ。可愛い妹の頼みだ。
取りに行ってやるよ!
切り込んで井上先輩へのパスフェイク。
宮澤がそちらに目を奪われたところでフローター。
決まった。
よっしゃどうだ見たか馬鹿野郎め!
「よし!いいぞ壮!」
「行ける、まだ行けるぞ!」
俺の一撃でようやく皆が落ち着いた。
相手のオフェンスとなる。
今度は植松が食いついた。
小野寺が自分で行こうとしたが、植松がそれをなんとか止めた。
小野寺は宮澤にパスをした。
目の前のライバルがボールを持つ。
と、その時だった。
「お兄ちゃん頑張ってええええ!」
イリヤの声だ。
最初のお、の時点でわかった。
「よぉし!お兄ちゃん頑張っちゃうぞー!」
大声で答えてやる。
宮澤が顔をしかめて、突っ込んで来る。
その時にはスティールを決めていた。
相手がドリブルした瞬間に体を瞬発させる。
手を伸ばし、ボールを弾き、一気に走る。
「戻れッ!」
小野寺の声。しかし、
「遅ぇよ!!」
後ろから迫って来ているのはわかった。
うっわ!スリル満点ですよコレ!
「ほら、ブロックしてみろよ!」
だからフリースローラインからジャンプする。
そのままボールを叩き込んだ。
「っしゃあああ!どんなもんだオラ!」
咆哮を上げる。
「っさあこっからだ!」
「押忍ッ!行くぞ壮!」
「ディフェンスだ!守るぞ!」
みんなの声も出はじめる。
まったく。
俺は顔が笑みの形になるのを自覚した。
そうだった。
なんでこんなことも忘れていたのか。
俺がシリアスとか似合わない。
真面目から遠く掛け離れた存在だぜ?俺は。
真剣ではあるけどな!
「植松俺と変われ!」
俺は小野寺の前に飛び出す。
「さぁ来いよ小野寺!1回やってみたかったんだ!」
「行くぜ」
小野寺が切り込んで来る。
力強いな!
しかしまだまだ!
小野寺がクロスオーバーでこちらを揺さぶる。
すげぇ!でも効かないな!
小野寺は3pラインから少し入ったところでシュートを放った。
そしてそれは完全に俺に抑えられた。
バレーのようにボールを弾いてやる。
前にはそれを読んだ植松が走っている。
植松がボールを受け取り、突っ走る。
しかし横浜羽沢はすでに2人が戻っている。
戻り速ぇ!
しかし植松は躊躇無く切り込む。
前に1人ディフェンスがいたが、かまわずレイアップを狙いに行く。
と、植松が人差し指を振ったのが見えた。
はいはーいアリウープ入りました!!
植松がレイアップと見せかけて真上にボールを投げる。
相手はそれをどうすることもできずただ見ているだけ。
そして俺は飛んでそれを掴んだ。
「おらよっと!!」
豪快にアリウープを決めてやる。
「っしゃああああああ!!」
咆哮を上げながらリングを掴んだまま体を揺らす。
「お兄ちゃんカッコイイ!」
イリヤの声がハッキリ聞こえた。
そうだろう!そうだろう!
今俺は最高にカッコイイぜ!
side喜美
スイッチが入った。
そうとしか表現できない。
イリヤが来た瞬間にスイッチが入った。
彼女に良いとこ見せたい男のあれなのかしら?
しかし調子は目に見えてよくなった。
実際兄さんはインターハイでは調子がよくなかった。
笑っていなかったのだ。
兄さんが笑わずにバスケしているところは滅多に見ない。
バスケを心から楽しんでいる兄さんが、インターハイでは勝ちに行っていた。
兄さんらしくもない。
しかしまさか笑え!と言うわけにもいかない。
イリヤに全てを託したのだが、まさか沖縄まで来てくれるとは。
「フフフ、実際イリヤと兄さんは相性がいいのかもね?」
「うん?急にどうしたの喜美?当たり前じゃん!」
「まぁ可愛らしいわ!貴女が喜美ちゃん?」
「あら、イリヤのお義母様ね?」
イリヤの右にはイリヤをそのまま成長させてかのような女性が座っていた。
「初めましてお義母様。沢木喜美よ。娘のように可愛がってもいいわよ?」
「イリヤから聞いていた通りね」
私はイリヤを見る。
「ちょーっと人と違うって言っただけだよ?」
否定できないわね。
side健二
それからの壮の活躍ぶりと言ったら。
とても言葉で表現できるものではない。
前半だけで30点以上を1人で決めたのだ。
それも途中からは小野寺とのマッチアップだったのに、だ。
壮の戦い方が今までとは違っていた。
相手に触れさせもせずに決めていくようなプレースタイルではない。
相手に体をぶつけまくって、ファールを誘い、強引に決めていくプレーだ。
しかし強力だった。
事実、小野寺はかなりそれでやられたのだから。
しかしさすがに相手は横浜羽沢。
小野寺がダメでも他の4人が決め続ける。
そのため最初からほとんど点差が縮まらない。
そしてついに4Qに突入した。
side喜美
ついに最終Qに入った。
点数は63-71
こちらが負けている。
しかし兄さんの勢いが衰えることは無い。
ドライブ、ダックイン、クロスオーバー、レッグスルー、パスフェイク。
あらゆるテクニックを使って相手を翻弄する。
相手が何人だろうとことごとく抜き去る。
「あいつ……鬼か?」
周りからそんなささやきが漏れ出すまでになっていた。
「違うな。ああいうのはな、鬼神って言うんだ」
それに答える誰か。
そのあだ名は瞬く間に体育館に広まっていった。
曰く、浦話の鬼神、と。
side沢木
感覚が鋭くなっている。
これほどまでに調子がいいのはいつぶりだ?
これほどまでにバスケを楽しんでいるのはいつぶりだ?
ヤバイ。楽しくてしょうがない。
「畜生、終わりたくねぇな!」
俺は叫びながら踊る。
強烈なクロスオーバーを仕掛ける。
右から一気に左に持って行き、小野寺が何とかついてこようとしたときにパスを出す。
島田先輩に吸い込まれるように飛んでいったそのボールはすぐにリングに向けて放たれ、射抜いた。
点数はもうわからない。
さっきっから見ていない。
もう点数なんてどうでもいい。
「さぁ来い!」
この試合を、ほんの少しでも楽しみたい。
点数を見るなんて興ざめもいいところだ。
side小野寺
コイツ……笑ってやがる。
ルーキーのクセして、ここで笑えるのかよ。
今はもう試合終了が近づいている。
シーソーゲームで今こちらが負けている。
俺が決めるしかねえよな。
ここにいたるまでの激闘で4人はフラフラだ。
俺が1人で行くしかない。
「どけっ!」
「はっ!どかしてみろよ!」
沢木は最初とは打って変わって、激しい体のぶつけ合いをしてくるようになった。
正直こちらのほうが厄介だ。
パスを出すこともできなければ、満足にリングに近づくこともできない。
これで1年か……ウチに欲しかったな。
こんな奴が。
そしたらこんな激闘が毎日できたんだよな。
そんなこと思っている場合じゃないか。
今は、この瞬間を楽しむべきだ。
そう、楽しむ。
これほどバスケが面白いのは久しぶりだ。
相手がどう来るのか。
俺はどうすればいいのか。
いつも相手が弱すぎて、普通にプレーしたらそれだけで勝っている場合がほとんどだ。
そうでなくてもコーチが対策を見つけ出してしまうのだ。
しかし今はもうタイムアウトも1回しか使えない。
そして相手の実力は申し分がない。
「行くぜ……!」
俺は無理やり突っ込んでいく。
すぐに沢木と相手キャプテンにコースをふさがれた。
かまうものか。
俺は2人を右腕で押しのけながら飛んで、左手でボールを放り投げた。
決まる。
見たか!これが王者の底力だ!
称号、鬼神を手に入れた!
ちなみに現時点で沢木は50点以上を決めています。
チームプレー何それおいしいの?
しかし相手の読みを外すためにたまにパスを出すなどもしています。
次回で横浜羽沢戦終了します!
果たして勝つのはどっちだ!?




