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水場の戦闘者

夏ならば

やらなきゃいけない

ことがある

配点(水着回)

現在夏休み。


俺の姿はプールにあった。


と言っても遊ぶためのプールではない。


小学校のプールだった。


一体どうして俺がこんな犯罪まがいのところにいるのか。


「ちょっと兄さん、イリヤを見たいからってそれはないでしょう?」


隣で文句を言う喜美。


ゆれる胸。


我が妹ながら、そのオパーイの戦闘力はスカウターを破壊するほどの威力だ。


しかし俺はシスコンなどという病気ではないので何も感じない。


それよりもイリヤだ。


俺は目を泳いでいるイリヤに向ける。


「あ、お兄ちゃーん!」


手を振ってくれる。

俺も返す。


そして喜美に向き直って言う。


「お前のせいだ馬鹿野郎」

「私?私が何かしたかしら?」

「お前の監視を頼まれたんだよ……」





話は夏休みが始まってすぐの頃にさかのぼる。





「喜美ちゃんのお兄さんかい?頼む!助けてくれ!」

「はぁ……」


小学校には、夏休みに特別水泳授業がある。


部活があまりない小学生が、家に引きこもるのを防ぐ措置だろう。


なかなか考えたものだ。


そんなわけで喜美も行くことなる。


そこで俺は教師から電話を受けた。


曰く、喜美を抑えてくれと。



「お前、去年プールを流れるプールに変えたそうだな?」

「え、それだけ?」

「溺れたフリをしたそうだな?」

「10分潜ってただけよ?」

「水中プロレスを開始したそうだな?」

「ええ、そんなこともあったかしら?」


しれっと言う喜美。


「前にここらへんに不審者が現れたとき、わざとプールを覗き見できるような穴を作って、しかもそれを覗いたらマッチョなお兄さんが裸で抱き合っている写真だったそうだな!?」

「その不審者、学校に苦情の電話かけて捕まったのよね……」


そう。


沢木喜美は問題児なのだった。


成績優秀運動神経抜群。


ただし品行方正とは言い難い。


というか言えない。


それが沢木喜美だった。


そんな喜美が6年生という最も危険な学年になり、おまけに蓮里女バスというメンバーまで集まった。


クラス担任は俺に救援を要請した。


イリヤの水着姿を拝めるということで俺は快諾した。


「あ、大統領じゃん」

「お!大統領久しぶり!」

「あ、大統領お兄さん……」


それに俺はこの学校の準教師も同然であった。


間違いなく全員に知られている。


何なら教頭より知られているはずだ。


っていうか大統領お兄さんってなんだ。


「ロマンティック見せてよ大統領!」

「おぉ!やってくれんの大統領!?」


男子を中心に色めき立つ。


「いやいやお前ら。いいか、今は水泳の授業だ。だからやることをやれ。そしたらご褒美でロマンティックを見せてやろう」

「「「「おぉ!!」」」」


みんなが頑張って泳ぎはじめる。


「助かるよ壮君」

「まぁね」


教師にもありがたがられる。


俺も喜美の注意ばかりというわけにもいかず、それとなくみんなに目を向ける。


俺は将来、教師になったほうがいいかもしれない。


「さて、それじゃあ泳ごうかしらね?」


と、それまでプールサイドで日光浴をしていた喜美がついにプールに入った。


そのコースにいた全員が避難した。


「え?泳ぐの?じゃあイリヤも!」


と隣のコースにイリヤが入り、そちらも全員避難した。


「よし私も!」


沙耶が喜美の右に入ってそちらも以下略。


今はクロールの練習ということになっている。


つまり最速の泳法だ。


「はーい!今からオパーイが通ります!コースの外側までお下がりください!」


織火が音頭をとって皆を避難させている。


「位置に着いて」


織火が合図を出す。


俺は万が一のために織火の横で監視する。


突然始まるレースにみんなが動きを止めて注目する。


「よーい、どん!」


ん、の時点で喜美がスタートを切る。


3人は水中に沈む……上がって来ない。


3人は潜水したまま25メートルを泳ぎ切る。


ターンは一瞬。


現時点で喜美が1位、そこからイリヤ、沙耶だ。


喜美が壁をぶち抜くがごときキックを放ち体を前に吹っ飛ばす。


イリヤも身をくねらせるようにして水を掻き分ける。


沙耶はその筋力で力ずくで進んでいく。


三者三様の泳ぎ方。


50メートル時点でイリヤがトップに立った。


めちゃめちゃ速いなオイ!


「イリヤ、水泳はすごいですからね」


隣で織火が言う。


「人魚っていうあだ名もありますから」

「喜美は?」

「ロケット女」

「言い得て妙だ」


目をプールに戻す。


75メートルの時点でもイリヤがトップだったが、小さいころからウェイトトレーニングを続けて、バランスの取れた筋肉を持つ喜美のほうが後半は強い。


追いついていき、最後の最後で見事に抜き去った。


喜美1位、イリヤ2位、沙耶3位


全員、そのまま水泳大会出て来いとうレベルであった。




「ほら、大丈夫だ。怖くないぞ」

「う、うん……」


そんな騒ぎも終わり、俺は泳げない子たちの指導に回っていた。


自分でもあきれるほどお人よしである。


「あ!もぐれた!」

「よしよし!よくやったぞえらいな!」


顔を水につけることすらできなかった少女を僅か5分でもぐらせることに成功した。


俺は将来水泳のインストラクターにでもなったほうがいいかもしれない。


「えへへ……おにいちゃんのおかげだよ」

「そんなことないさ。お前のちからだ」

「違うよ、私、おにいちゃんのこと……」


その少女の言葉が最後まで繋がることはなかった。


「お兄ちゃん!競争しようよ!」


俺と少女の間に割って入るようにしてイリヤが体を滑り込ませる。


「もう春香には教え終わったでしょ!?ねぇ?」

「う、うん!もうおにいちゃんに教わったから大丈夫!ごめんね、イリヤちゃん」

「フフッ、何を謝るのかなぁ、春香ちゃん?何かやましいことでもあったのかなぁ?」

「え、えぇっと……」

「まさか、お兄ちゃんに何かおかしな感情を持っていた、わけないよねぇ!?」

「(ブンブン!)」

「フフッ、それならいいんだよ、春香ちゃん。気をつけてね?」

「(コクコク)」


イリヤが俺を優しい目で見る。


そちらのほうが怖いことに最近気づいた。


「ちょっとお兄ちゃんにはお仕置きが必要かなぁ?」

「あら、参戦するわよ?今なら兄さんに勝てるかもしれないし!」


喜美が入ってきて、さらに話がこじれる。


俺は仕方なく挑戦を受けることになった。


「ハッハッハ、甘いな!実力の差を見せてやるよ!」


今度は飛び込みからだ。


飛び込み台の上で構えを取る。


真ん中に俺、右に喜美、左にイリヤ。


「よーい」


合図は咲だった。


「ドン!」


俺は少し出遅れた。


正直スタートの瞬発力は喜美に勝てるとは思えない。


1歩先の音を聞いているような奴だ。


しかしまさかイリヤにも負けるとは。


さすが俺の嫁だ!


飛び込んで潜水を開始。


俺は連続のドルフィンキックをぶち込み加速する。


イリヤのようなしなやかさも無ければ喜美のような流れるような加速でもない。


しかし確実に水を押しのけていく。


25メートル時点でトップ。


俺はターンを決めて壁を蹴って再加速。


そしてついにクロールを開始する。


おぉっ!とどよめくプールサイド。


息をする瞬間に歓声が耳を叩く。


50メートル。


俺がさらにトップを広げる。


容赦するつもりはない。


さらに加速を叩き込む。


高校生最大のメリット。


底無しの体力だ。


俺は尻上がりにタイムを上げていく。


そして2人を寄せつけず、ゴールした。


水から顔を上げると2人が猛烈な勢いでこっちに向かっているような……


「小学生との対決で本気だす男子高校生がいるかぁ!!」

「大人げないよお兄ちゃん!」


下半身にイリヤのタックル、顔面に水中から飛び出した喜美のハイキックが決まった。



そんなこんなで授業も終盤。


今のところ喜美が暴走する気配はない。


しかし、


「おい、あいつ胸でかくね?」

「うお!すげぇな、あれが巨乳なのか?」

「すげぇ……」


男子小学生の遠慮の無い視線。


将来黒歴史になるとも知らず、ガン見している。


それに気づかない喜美ではない。


「フフフ、何勝手に見て、勝手に評価つけているのかしら?」


男子が2人、宙を舞う。


放り投げられて、頭からプールに叩き込まれた。


「女に点数つけるような男は、大嫌いよ、私」

「な、なんだとー!」


反抗した男子が宙を飛ぶ。


「さぁ、次は誰が飛びたいのかしら?天国まで飛ばしてもいいわよ?」


いかん。そろそろ収拾がつかなくなってきた。


「おい、喜美。そのへんで終わり……」


俺は喜美の肩に手をかけて、終わらせようとする。


喜美は身を捻って俺を投げようとした。


俺は寸前、それに気づいて力ずくで喜美を道連れにしてプールに落ちる。


プールの中にいた全員が一斉に陸に避難した。


「あら、兄さんが私を止めるつもり?」

「おいおい、兄貴の言うことを聞かないつもりかお前?」

「フフフ、腐れ兄貴。1度ここらへんで白黒つけてやるわ」

「そりゃこっちのセリフだ馬鹿野郎」


お互いに拳を交わし始めた。




俺も喜美も、父さんに習っているから喧嘩は相当なものだ。


「ッ!」

「甘ぇよ!」


喜美のフックをかわして、がら空きになったボディに1撃。


しかし中央を外されてパンチが無力化された。


「水の中ならその筋肉も意味ないわよ!」


喜美が水を切るようにキックを放つ。


確かに、水の中では俺のような筋肉だるまより、喜美のようなしなやかな体のほうが有利だ。


しかし、


「効かねぇな」


筋肉だるまゆえに防御力は高い。


対して喜美は1撃入れれば終わりだ。


「チッ、だったら……」


喜美が投げ技を使う。


俺のパンチが伸びきった瞬間を見計らって当身。


肘を俺の鳩尾にぶち込みつつ、俺の右腕を取る。


そのまま身を沈ませ、水の中に潜る。


やべぇ、この投げ技は……!!


「六大懐、宙常」


肘を俺の鳩尾にぶち込んだまま、そこから喜美が体を回す。


俺は一回転して、見事に頭から水に叩きつけられる。


陸でやれば即死の技だ。


しかしここは水。


だからお互いに遠慮することはない。


俺はわざとそのまま沈み、手を水底につける。


そのまま逆立ちをするようにした。


そして喜美の肩に両足をそれぞれ乗っける。


そして首を思い切り絞めた。


「ッガ!?」


喜美が振りほどこうとするが、そこは高校生の力だ。


俺はそのまま1回喜美を右に振って、思い切り左に吹っ飛ばした。


喜美が水に叩きつけられて、そのまま壁までぶっ飛んだ。


ガァン!と音がして喜美が崩れ落ちる。


俺は急いで喜美のところに行った。


そして


「正義は勝つ!」


小学生女子と本気で喧嘩して勝ち誇る男子高校生がいた。


というか俺だった。





そんなハプニングもあって、ようやく全ての工程が終了した。


長かった。


プールってこんなに大変だったのか。


「ロマンティック!ロマンティック!」

「ロマンティック!ロマンティック!」

「ロマンティック!ロマンティック!」

「ロマンティック!ロマンティック!」


そして湧き上がるロマンティックコール。


俺はその声援を背中に受けてイリヤと相対する。


本日の公開信仰告白。


「イリヤ。一目見たときから、お前に惚れた。もうお前以外いないんだ。俺と一緒に生きてくれ、イリヤ。……結婚しよう、イリヤ」


みんなが固唾を呑んで見守る。


「うん。いいよ、お兄ちゃん。結婚しよ!」

「「「「「ですよねー!どうせ無理無理……ってええええええええええええええええええ!!??」」」」」


全員見事にずっこけて、プールに落ちるのであった。

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