スタートラインの整列者
人を決めるは
第一印象
配点(自己紹介)
さて、勢いに任せて言ったはいいが、問題が解決されたわけではない。
高校の練習を休むわけにはいかないのだけれど、この素晴らしき少女を週末にしか拝めないというのも嫌だ。
毎日見たい。
というか一緒に暮らしたい。
「よし!結婚しよう!」
「何考えているのよ変態!!」
名前も知らない少女に求婚して喜美に殴られた。
「俺はマジだぜ?」
「余計に問題よ腐れ兄貴!」
「じゃあどうしろって言うんだ!?結婚するしかないだろ!?」
「コイツを連れて来たのは間違いかもしれないわね……」
不毛な言い争いに終止符を打ったのは背の高い少女の発言だった。
「お兄さんが練習終わったらソッコーでこっちに来ればいいんじゃないですか?」
「あのなぁ、高校生の練習っていうのは……」
そこで思い出した。
ウチは進学校だった。
体育館はバドミントン部と交代で使う。
ウチが前半だから練習時間は3~5時。
高校は家から近いから、帰ってくるのに30分もかからない。
自転車を飛ばせば15分だろう。
そして小学校はさらに近い。
高校から直接行けばそれこそ15分だ。
つまり5時15分には俺が行くことができる。
それなら時間だってたっぷりある。
それまでの練習は喜美に任せればいい。
あれでも俺が半年仕込んだ妹だ。
つまり、
「毎日この子に会えるのか!」
叫びながら少女をブンブン振り回す俺。
教師に見つかれば両手が前に回るだろう。
「いい加減わかりやすく説明してちょうだい……」
という喜美の言葉に答えて俺はそのことを伝えた。
「なるほど、行けるわけね?」
「ああ、行けるぞ」
イエーイとハイタッチする俺と喜美。
利害が一致した時は仲良くなるのだ。
「じゃあ自己紹介してもらおうかな」
いつまでも名前も知らない少女に抱き着いているわけにはいかない。
「佐藤織火です。喜美の暴走を抑える役割をしています」
身長は高い。
喜美より低いくらいか。
真っ黒な髪を長く伸ばしている。
ロングヘアーは小学生の特権である。
髪は複雑な編み方でよくわからない。
そして見るからに苦労人の様子であった。
俺と織火は見つめ合う。そして固く握手する。
「お前も同じか……!」
「お兄さんも大変ですね……!」
同じモノに虐げられている2人の絆は強い。
「私は咲。瀧澤咲。よろしく」
「おぅ、よろしくな」
次の咲という少女は少し小さい。
まあ、小学6年生の平均的な身長だろう。
ボーッとしているが喜美が連れて来たのだから普通ではないだろう。
「木下沙耶です。よろしくね」
「デカっ!?」
俺と同じ、はさすがに言い過ぎだけど間違いなく180届いている。
教師より高いんじゃないのか?
センターはこれで決定した。
そしてついにマイエンジェルの自己紹介。
「イリヤだよ、よろしくね!」
「結婚して下さい!イリヤさん!」
DOGEZAせんばかりの勢いでお願いした。
というかDOGEZAした。
床に傷がつくくらいDOGEZAした。
完璧だ。
ストライクだ。
ここに理想の具現を見た。
喜美にこれほど感謝したことはない。
雪のような白い肌。
それと比べてもなお輝くほどの銀髪。
そしてそれが引き立てる赤い瞳。
これぞ我がエンジェル!
「うーん、結婚はダメだよお兄ちゃん」
「な、ま、まさか彼氏とか!?」
「違うよ。私パパのお嫁さんになるんだから!」
親父さーーーーん!!
俺と変われよ!!
というかどんな育て方したらこうなるのか教えてほしいよ!
なんだよ喜美との差は!
なんで同い年でこんな天使みたいな少女と悪魔みたいな捻くれ野郎で別れるんだよ!
「兄さん、あんまりしつこいとイリヤが嫌うわよ?」
「フッ、できる男は引き際を心得ているのさ!」
一瞬で離れた。
嫌わないでお願い。
「私は紹介するまでもないからいいわね。この学校を支配する沙耶を影で操っている織火を影で操っている教頭を陰影で殴っている女沢木喜美よ」
「お前ッ!教頭はただでさえ校長の影にかくれて目立たないんだからそっとしておいてやれよ!かわいそうだろ!」
というわけでメンバーも顔も覚えた。これでついに蓮里小学校の女バスが始動する。