戦場の挨拶者
叫べ
それでもまだ
挨拶にもならん
配点 (こーんにーちはー)
俺たちは時間になると向こうの顧問の人と会って挨拶をした。
結局西条はこなかった。
いったいどこでなにをやっているのだろうか。
顧問の人も目が怒っている。
怖いよ。俺たちにまで飛び火しているよ健二め。
春秋先生というその顧問の先生は俺たちだけキャンプ場に案内して、荷物を置いた後体育館に案内してくれた。
でけぇな体育館。
西条の時もコンプレックスを感じたがここでも再発してしまうようだ。
「なんで私たちの周りって金持ちが多いのかしら」
沙耶がガックリして言う。
「何をしているのですか。早く入りなさい」
「おっと、すいません」
春秋先生に怒られて俺たちは急いで体育館に入ることになる。
ここらへんで俺たちの頭から西条のことが忘れ去られた。
「「「「「こんにちはー!!」」」」」
「ッチュース!」
蓮里の基本は挨拶。
俗に言うおはようございますアタックだ。
今回はその派生バージョンこんにちはアタックだ。
「こ、こんにちは……」
相手はビビる!
この時点で俺たちの勝ちは確定したようなものだ。
「……」
「うん?」
そこに俺を見つめる女子が一人。
練習着を着ているということはここの生徒か。
しかしどうしたんだコイツは?
は!まさか!
「すまない。俺にはイリヤという嫁がいるのだ。お前の気持ちにはこたえられないんだ。すまないな」
「んなわけあるかああああああ!!」
小学生渾身の飛び蹴りが俺の延髄を捉えた。
「まったく、いきなり何言い出すのよコイツは!」
「コイツじゃねえよ。沢木壮だ。お前は?」
「……葉月……楓」
「そうか楓。悪いな。好きにならせてしまって」
「もうやだこのナルシスト」
「冗談冗談。でもまあ仲良くやろうぜ楓」
「……そういえば今気づいたけどアンタ男だったのね」
今頃気づくとはさすが女子校。
「気づかなかったの?ププッ。人の性別の区別もつかないなんて貴方いくつ?」
喜美がおもちゃを見つけたとばかりに目を輝かせて弄る。
「いや、ソイツの最初の発言がインパクトでか過ぎて気づけなかったわ」
「……ごめんなさい。ウチの兄さんが」
おい!なんで謝るんだよ!
「……よろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
春秋先生に言われて俺は最敬礼で答える。
わかった。この人は切り替えをキチンとすれば大丈夫だ。
怒りまくる人ではないみたいだし。
「貴方たちはBチームの練習に入ってもらいます」
「はい。わかりました」
反論するほど愚かではない。
仮にも全国大会常連の強豪校。
ポッと来てさぁAチームと!なんて甘いこと考えない。
まずはBチームで練習して、雰囲気掴んで、結果を出していかなければいけない。
「では、これが練習メニューなので」
と渡された紙には練習メニューがびっしり書かれている。
……少ないなぁ。でも勝手に増量するとかやらない。
ここは栄光女学院。
相手のやり方でやるのが礼儀だ。
「今日は1日よろしくお願いします!」
「はい。よろしくお願いします」
俺が最後に締めの挨拶をすると春秋先生の挨拶がもらえた。
反応は上々。
後は結果を出していくだけだ。
「どうした!美希遅れてんぞ!上げて行け!」
「は、はい!」
「喜美!もっと追い込めよ!そんなものじゃねえだろお前は!」
「ええい!うるさいわね!るあああああ!」
「朱鷺!踏み込み甘いぞ!そんな遅いターンで速攻できると思ってんのか!?」
「は、はいぃ……」
練習開始してすぐに俺は怒号を飛ばすことになる。
バスケに関して手を抜かない男沢木壮。
「イリヤ!甘えてんじゃねえよ!この後のことなんて考えんなよ!セーブしてるんじゃねえよ!」
「う、うん!ごめんなさい!」
イリヤにだって怒号を飛ばす。
「おしおしおしおし!いいペースだお前ら!いいじゃねえかさすがじゃねえか!」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあ5分休憩だ。水分を補給してすぐに戻ってくるんださぁゴー!」
みんなが慌てて散る。
さすがは栄光。
Bチームとは言えどかなりの練度だ。
蓮里の連中には負けているけれど、それでも引っ張られる形で最初よりずっといい集中だ。
「沢木君。私、少し出なければいけない用事ができてしまったのでAチームもお願いできませんか?」
「はい。大丈夫です」
Aチームのメンバーのことも頭に入っている。
「これが練習メニューです。Bチームの練習、見ていましたが非常に良い指導でした」
「ありがとうございます!」
やべぇ!デキル女に褒められるって超快感!
「すぐに戻ってこれると思いますので」
「うっす」
そうして春秋先生は行ってしまった。
さてどういう風にやろうか?と練習の仕方を考えていると、
「うっわあ。すごいねぇ」
「うん?」
後ろで声がして振り返ると女子高生がいた。
「誰だ?」
「ああ、私?私は春秋京香」
「先生の妹さんか」
「そうそう。君は、沢木壮だよね?」
「ああ。よく知ってるな」
「バスケやってる学生ならみんな君のことを知っているよ」
「君って呼ばれるのは好きじゃないんだ。妹の名前が喜美でね。妹呼ばれてるみたいで反応が遅れる」
「あ、そうだね。じゃあなんて呼ぼうか?」
「壮、壮でいいよ。京香」
「うわ!?呼び捨て!?」
俺は年齢で差別しない男沢木壮。
「でもすごいねぇ。あの子達、あんなに集中して練習するの初めて見たかも」
「現在鬼コーチが指導していますので」
そんなに厳しくしているつもりはないんだけどねぇ。
「いやいや。ちゃんとあの子達を見ているし、わかっている。あの子達もそれがわかっている。だからどれだけ怒られても反抗しないし、あんなに集中しているんだと思うよ」
「そんなものかねぇ。あ、そういえば西条がどうなってるか知ってる?」
「あ、なんだかついさっき来たみたいなの」
ああ、その対応で春秋先生が行ったのか。
「なんで遅れたんだろ?真面目な奴らなのになぁ」
「私、お姉ちゃんがやり過ぎないようにストップしてくるね」
「ああ、こういうことには厳しそうだからな。春秋先生」
「へぇ、よくわかっているね。それじゃあ行ってくるからがんばって!」
そして俺は1人ポツンと体育館に残される。
「はいはい!練習再開するぞ!」
俺は叫んで休憩の終了を告げた。
「楓!お前そんなんじゃねえだろ!甘えんなよ!」
「うるさいうるさい!大体なんでアンタがコーチやってるのよ!」
「春秋先生に任されたんだよ!ヘヘーン、いいだろ。俺先生に褒められたんだぜ?」
「え?先生が……?」
楓絶句。春秋先生あんまり人を褒めないだろうしな。
「ねえねえ喜美、なんかお兄さんの発言が小学生レベルのような気がするんだけど」
「気がするじゃなくて小学生レベルよ、織火」
「よくもあれだけ相手と同じ目線になれるよね、コーチ」
後ろで3人組が失礼なことを言っているが気にしてはいけない。
「俺の言うとおりに練習していればお前も先生に褒められるぞ!」
「本当?嘘だったら?」
「お前のためにお菓子を作ってやろう」
「!?約束よ!覚えてなさいよ!」
「ああいいとも!だが俺の指示に従えよ!はいランパスからのレイアップ!」
練習が始まる。
「お前たちが狙っているのはどこだ!」
「「「「「全国優勝!」」」」」
「何回勝たなきゃいけないか知ってるか!?」
「「「「「6回!」」」」」
「だったらこんぐらいでバテテるんじゃねえよ!」
「「「「「押忍!」」」」」
「声を出せ!集中しろ!1本だって落とすんじゃねえぞ!」
「「「「「押忍!」」」」」
「何これ?」
その時京香と春秋先生が帰ってきた。
「いい子達ですね先生。ちょっと言い聞かせたらこれだけの集中力が出せるんですから」
蓮里がいつもやっているレベルでの集中に匹敵している。
これなら練習に来て無意味だと考えないで済む。
「こ、ここまで集中力を引き出しますか……」
春秋先生も唖然としている。
一応、練習でやる気を出させる方法は知っているつもりだ。
「よし、愛!今のいいぞ!いい流れでパスが出せたな!」
「はい!ありがとうございます壮さん!」
「OK。咲、よく今のを拾ったな!」
「余裕だ」
ナイスプレーをしたらそれを見逃さずに褒めること。
そうすれば自分が評価されていることがわかってどんどん練習する。
さらに好プレーを出そうとする。
また、やろうとしていることがわかれば褒める。
少なくとも
「よしよし!大丈夫だ!よく挑戦したな!」
と言う。
単純なようですごく効果的ですごく難しいこと。
そしてもう1つ
「やえ!こっちのフリースローでリバウンド取られるとか舐めてんじゃねえぞ!」
「す、すいません」
「今行こうともしてなかったじゃねえか!」
「わかりました」
「よし。次からだ!」
できなかった、というかやろうとしなかったらそこを怒る。
本当に怒る。
バスケとは習慣のスポーツだ。
練習の時にどれだけ良い習慣をつけられるかにかかっている。
練習で悪い習慣を身に着けてしまえばその練習は意味がないどころかマイナスになってしまう。
だから容赦なく怒る。
そんなこんなで夕方6時。
朝10時から始まった練習ついに終わった。
昼休みはあったものの、全体的にきつかった。
栄光のみんなもきつかっただろうにその表情には笑みが見られる。
「皆さん。今日はとてもよく集中できていました」
そして最後のミーティングで春秋先生にみんなが褒められた。
「特に楓。いつもより格段に良い動きをしていました」
「は……あ、ありがとうございます!」
楓が凄くうれしそうに礼を言う。
「明日からさらにもう1校が合流します。今日の集中力を落とさないように」
「「「「「「はい!」」」」」」
「では今日の練習を終わりにします」
「気をつけ!礼!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
こうして初日の練習は終わった。




