浦話の勝負師
投げたコインの
表裏
それを決めるのは
己か神か
配点(神様頼み)
まさか、この男が稲賀の反撃のきっかけになってしまうなんて、この時誰も予想できなかった。
だってこの男、チームオフェンスするんですよ!?
なんでだよ!お前は自分でガンガン行く派じゃなかったのかよ!
それで目が覚めたのか稲賀はチームオフェンスを展開してどんどん点を取っていく。
シュート成功率も一気に跳ね上がった。
対して俺達は外からのシュートが落ちはじめる。
俺へのプレッシャーもきつい。
戸田虎郎は俺と1度やったことがあるので、少し癖を見抜かれているようであった。
「島田先輩打って!」
俺はボールをとばして指示する。
しかしそのシュートも落ちる。
いやぁ、ダメな時はとことんダメなもんだね。
ついに追い付かれてしまった。
どうするか。流れが悪すぎる。
先輩達の顔もどんどん血の気が失せていく。
よし。ここはあれだ。
俺はサインを出す。
再びアリウープ。
セットプレーからアリウープを出してやる。
サインは先ほどとは少し変えた。
井上先輩と島田先輩がスクリーンに入る。
ダブルスクリーンで相手ポイントガードをこそげ落とした植松はパスを放とうとする。
それに応じたのは俺と部長。
俺はボールを持たない状態でフェイントを仕掛けて相手フォワードを置いていく。
部長が動くのに相手センターが釣られて動く。
俺は部長のほうを向いているその相手センターの背中を飛び越える。
そう、純粋にジャンプで飛び越えた。
言っただろ?俺は浦話のレブロンだと。
前に見ていたNBAの試合でレブロンがチャンドラー飛び越えてウェイドからのパスを空中で引っつかんでリングに叩き込んだのを見て思いついた技だ。
「っしゃああああああ!!」
全員を生き返らせるために、会場の空気を変えるために俺は全力で叫んだ。
こんなところで、負けるわけにはいかねえんだよ!
俺は力の限りを振り絞った。
後で見ていた喜美に聞いたら阿修羅が宿ったかのごとき獅子奮迅振りだったそうだ。
得点し、アシストを決め、リバウンド争いをする。
しかし相手だって負けてない。
そう、相手は王者なのだ。
楽に勝とうなど馬鹿な考えだ。
そしてこっちのほうがずっといい。
勝った時の達成感があるからな!
気づけば残り64秒。
4点差でこちらが勝っている。
相手がオフェンスでタイムアウトを取った。
「絶対に3pだけはなしにしましょう。ここ1回、3p防げば絶対に俺が決めます!」
頼むぞ」
「任せてくださいよ。神様は俺の味方ですから」
俺はかっこよく決めてやる。
でもまぁ、事実だ。
side喜美
私には兄がいる。
ちょっと頭がよろしくない兄だ。
協調性あふれる私と違って身勝手で傲慢なロリコンだ。
しかし兄さんの勝負強さだけは否定できない。
バスケをやって始めて気づいた。
クラッチタイムの兄さんは化け物だ。
中学最後の試合、相手は絶対に3pを打たせないつもりでディフェンスについていた。
兄さんはそれでも決めた。
兄さんの思考は独特だ。
シーソーゲームになった時の勝負の行方は、自分の力ではどうにもならないと考えるのだ。
実力ではなく、運命なのだと。
勝ったらそれが運命
負けたらそれが運命
兄さんはそう言うのだ。
とは言え兄さんも指をくわえて神様頼みをするわけではない。
ここが兄さんの頭がおかしいところなのだが、
兄さんは練習、そして試合中の熱意を神様に奉納することによって神様の加護、早い話が強運を引き寄せているのだという。
初詣に行ったときおさい銭を投げるでしょう?
あれが奉納。それによって神様の加護をもらえる。
当然そんなのは迷信で。
しかし迷信だからこそ強い。
練習を奉納したと自信を持てば、神様が絶対に勝たせてくれる。
勝ちたいと思っている相手
勝てるとわかっている兄さん
クラッチタイムでそのメンタルの差が如実に出てくる。
最後の攻防、兄さんのマッチアップ相手にパスが渡る。
さて、どう出てくるのかしら。
兄さんの相手は仕掛けてこなかった。
パスを選ぶ。
不幸だったのは、そこでわずかに足が滑ったこと。
いや、兄さんからすれば当然の結果なのだろう。
そのパスは兄さんにカットされた。
こぼれたボールはこちらのフォワードが取る。兄さんが飛び出してボールを呼ぶ。
こちらのパスは繋がった。
相手も猛然と追い掛けて来るが、兄さんには届かない。
確実にレイアップが決まった。
これでほぼ試合は決した。
兄さんの相手は泣いていた。
号泣していた。
聞いていれば1年のようだ。
先輩の夏を終わらせたというのは辛いだろう。
よくわからないけど。
兄さんはあんなふうに泣いたことがあるのだろうか。
私は兄さんが負けた試合を1度も見たことがない。
負けたら泣いたのだろうか。
中学1年、県大会で負けて、中学2年、全国で負けて。
兄さんは泣いていたのだろうか?
3年で優勝を取った時、どんな気持ちだったのだろうか。
意味不明な叫び声を上げてはしゃぐ兄さんを見ていられなくて私は体育館を後にすることにした。
side沢木
「勝った!浦話が勝った!」
「勝ってやったぞ!やっとだ!稲賀の奴らを倒してやったぞ!」
試合終了して、その後の記憶はあまりない。
気づいたら会場を後にしていた。
そして一気に気持ちを切り替える。
「まだ優勝じゃないっすよ」
俺の言葉にみんながハッとする。
「これからも勝ちます。先輩、帰って練習しましょう」
「そうだな!勢いには乗っても調子に乗るな!お前ら帰って練習すんぞ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
よかった。大丈夫そうだ。
先輩達の目線は高い。
その後の試合は全て100点ゲームで快勝して俺達は全国への出場を決めた。
俺達の戦いはこれからだ!
完!沢木先生の次の試合に御期待下さい!




