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<<Not Found Ground>>

作者: 中崎恵里加

下手でもいいと聞いて。

連載にしようと思ったけど、とりあえず短編で。



「付き合ってください」


俺くらいのベテランになると突然声をかけられることがある。


その内容は強請りだったり、クランへの誘いだったり、色々あるけれど、概ね罵倒だと捕らえていいだろう。


誰も彼もがレベル120の強さに妬み、僻み、忌避していく。


自然にソロプレイが基本になっていた。


ソロプレイには危険が伴う。


HPが切れかけても回復してくれる仲間がいるわけでもないし、死角から襲ってくる敵に対して後手で挑まなければならない。


パーティを組めば、他人に任せられる部分をすべて自分で背負う。


ダンジョン攻略にはそれ相応に時間がかかり、ポーション代もかかる。


ソロプレイにはそんな不利な点があるが、俺は現実では大学生。


時間はあり余るほどある。


それに何も悪いことばかりじゃない。


経験値や見つけたアイテムはすべて自分のものになるのだ。


これによりレアアイテムを巡ってくだらない諍いが起こることもない。


まぁ、時々助けてもらうプレイヤーはいるけど。




そんなこんなで今日も一人でダンジョンに潜ろうとした矢先のことだった。


現れたのが、この娘。


出会いがしらにいきなり付き合ってくださいとは豪気である。


俺は少女の姿を見た。


片手剣に胸当、ブーツ……どの装備も初心者用の装備だった。


高くともレベル20といったところ。


しかし、わかっているのだろうか。



「ここは最低でもレベル70が必要な洞窟だぞ」


「わかってます! どうしてもツキシマさんに会いたくて、ここで待ってました!」 



なぜか名前を知られている。


先月、優勝した大会のおかげかもしれない。


喜ぶべきか悲しむべきかは判断に困るが。



「待ってましたじゃないって……ユナセさんのレベルじゃ、パーティ組んでも即死だって言ってるんだ。ここじゃなくて、もっと初心者用のダンジョン行ったほうがいいよ」



俺は少女――ユナセにカーソルを合わし、名前を確認しながら、注意してやった。


すると、ユナセは一瞬キョトンとして、何か合点が言ったように首を横に振ったのだ。



「ち、ちがうんです! 一緒にダンジョンに入ってほしいんじゃなくて、付き合ってほしいんです!」



ここで俺は合点がいった。



「恋人システムのことか」


「はい!」



恋人システム。MMORPGじゃもはや定番といっても過言ではないシステムだろう。


異性キャラ同士がお互いのアイテムや所持金を共有し合える。


あまり興味がないから、詳しくは知らないが、簡単に説明すると、こんなところだろう。


なるほど、ユナセは俺に恋人になれと言っていたのか。



「断る」


「えぇっ、何でですか!」



何でもなにもない。


恋人システムはゲーム内で信頼しあった者同士の行為だ。


初対面で申し込まれても断るしかないだろう。


初心者がアイテムほしさに迫っているだけではないか。


いるんだよなぁ、女性キャラだったら、何でも恵んでもらえると思ってる勘違い初心者。


俺はユナセを無視して、洞窟へと足を運んだ。




おかしい。おかしい。なぜ勝てない。


俺はレベル120の双剣士。相手はレベル70の『ドラゴニッカー』。


ふつう一時間も戦えば勝てる相手なのに、俺は未だに戦っていた。


やけに硬いのだ。必殺技や呪文を使ってもビクともしない。


バトル開始直後から、おかしさは感じていた。


しかし、それを無視し、いつも勝っているから大丈夫だろうという油断がアダになった。


MPが切れて回復できず、ポーションも底を尽きかけている。


ボス戦なので、バトルから逃げられもしない。


どういう理屈で倒せないのかわからない。バグかもしれない。


経験値は惜しいが、ここは素直にHPをゼロにし、タウンに戻るが吉だろう。


あとで、運営にメールして対処してもらうか。



「ツキシマさん大丈夫? 手伝ってあげようか?」



勝ちを諦めて攻撃をやめると、よくわからんストーカーが話しかけてきた。



「アホか、貴様。今のバトル見てなかったのか」



ダメージが入らんのだぞ。


せいぜいレベル20程度の剣士がどうこうできる問題じゃない。



「いやぁ、私ならできるんですけど」



片手剣を勢いよくスウィングしながら自信満々に宣言するユナセ。


その声は虚勢ではなく、本当のことを言っているように思えた。


こちらは絶体絶命、猫の手も借りたい状況。


だとしたら、答えは決まっている。



「どうやるのか知らんが、頼む。手伝ってくれ!」



俺は『ドラゴニッカー』が吐き出した毒効果があるブレスを避けながら叫んだ。



「はーい。わかりました! じゃあ、ツキシマさんはアイテムボックスから<<Not Foundバッヂ>>を使用してください」


「<<Not Foundバッヂ>>だと!?」



<<Not Foundバッヂ>>とは先月開催された大会で優勝商品だ。


しかし、あれには何の効果もなく、『優勝した』という名誉だけのバッヂだったはず。



「必要なんです。早く使ってください」



近くに寄ってきたユナセが真剣に言う。


なんだかわからんが、ここはユナセの言うことを聞くしか道はなさそうだ。


俺はユナセに『ドラゴニッカー』の相手を任せ安全圏に退避した。


そして、ウィンドウを開き、アイテム欄から<<Not Foundバッヂ>>を選択し、使用ボタンを押す。



「……何も起こらないぞ?」



使用ボタンを押して数秒、周りを注意して見るも変化はない。


やはり、タダのバッヂだったんじゃ――。



「いえ、上出来です!」



今まで防御一辺倒だったユナセが声をあげ、片手剣を『ドラゴニッカー』の胸元へ一撃入れた。



「何……だと……!?」



どういうことだ……『ドラゴニッカー』のHPが減っている?


驚いて呆然としていると、ユナセが笑って俺の疑問に答えてくれた。



「そうです。<<Not Foundバッヂ>>はこのバグモンスターに対抗できる唯一の手段」



そう言いながらも一撃、二撃、三撃。


ユナセが『ドラゴニッカー』の周りをすばやく動きながら、斬り刻んでいく。


その動きはレベル20のそれじゃなかった。


とてもじゃないがニュービーには見えない。


剣を振り、相手の攻撃をかわしながら呪文を唱え、また剣を振る。


まさに廃人クラスのプレイスタイルだ。


初心者だと思っていたユナセがこんなに手馴れていることにも驚いたが、そ『ドラゴニッカー』のHPが減っていることにも、肝を抜いた。


理解不能だった。


戦場でしてはいけないことはいくつかあるが、混乱での行動不能はその代表たる一つだろう。


不意打ちはもちろん、目の前の敵にも対処できず、パーティプレイでは仲間の命にも関わる。


しかし、俺は行動不能に陥るしかなかった。目前で繰り広げられるバトル。


いや、完全なるワンサイドゲームを呆然としながら、見つめることしかできなかった。


幸いだったことは、ボスバトルだから、雑魚モンスターに襲われることはなかったことだ。


数分後。『ドラゴニッカー』が地に伏し、消滅した。





「Welcome to Underground!」



戦闘を終えたユナセが俺を見て口走った。



「……厨二おつ」



苦し紛れに言い返したが、俺はこいつに不信感を抱き始めていた。


バトル中は気にもしていなかったが、さっきのバグモンスターは異常だ。


そのバグモンスターを華麗に倒してみせたユナセもまた異常。


しかもレベル20。


普通ではない。


関わり合いにならないほうが身のためだと、俺の直感が告げている。



「いやぁ、時間かかっちゃいましたね。ごめんなさい。でも、ツキシマさんが悪いんですよ。私と付き合ってくれないから」


「……お前、何者だ?」



オレがやっとの思いで搾り出した言葉にユナセは吹き出した。


腹を抱えて、ひとしきり笑った後の一言がまたひどい。



「ごめんなさい。でも、『何者だ』なんてマジで言っちゃう人いるんですね」



しかも、声がうわずっていた。一生、許さん。



「説明しましょう。まず、さっきの『ドラゴニッカー』はバグってました」



俺の攻撃でダメージが入らないのだ。それは察していた。


問題はなぜユナセがそのバグを倒せたかということだろう。



「そして、私はそのバグモンスターに対処していたプレイヤーです」


「プレイヤー? GMとか運営じゃないのか?」



俺はユナセをてっきり運営サイドの人間かと予想していた。


運営に雇われたバイトなら、バグを消せる方法を知っていても不思議ではないからだ。



「歴としたプレイヤーですよ」



ユナセが人差し指を立てて、口の前に持っていきながら、上目使いにこちらを見てきた。



「この世界の秘密、知りたいですか?」



知りたくないといえば、嘘になる。


ゲーマーとしての好奇心が『教えろ』と心の中で暴れている。


しかし、好奇心は猫を殺す。


これは俺が関わっちゃいけない問題だと直感が告げている。


聞くな聞くな、話を聞くな。



「聞かせてくれ」



俺は心とは裏腹に聞くほうを選んだ。


だって、そうだろう。


こんなに面白そうなことはない。この機を逃せば、一生後悔する。


ログアウト後に眠れもしないだろう。



「さっきのボスがバグってたって話しましたよね」



俺は無言でうなずく。



「最初に確認されたのは二ヶ月前だったらしいです。攻撃は効かない。ツキシマさんが選んだように、みんな『死』を選びました」



確かに、攻撃が効かない。しかも逃げられないボス戦ともなれば、死んでホームタウンに戻るしか道はない。



「それまではよかった。でも、ある日、敵の攻撃を受けたプレイヤーのレベルが下がっていたんです」


「レベル・ドレインか?」


「ええ。普通じゃありえないほどのレベルを吸収されました」



俺はユナセを見る。


そのレベルは20。



「もしかして、ユナセは――」


「現場に居合わせたプレイヤーはふたり。ツキシマさんと同じ<<Not Foundバッヂ>>を持ったプレイヤーとその仲間」



俺の言葉をさえぎるようにユナセが声を荒げた。



「その戦いで<<バッヂ>>を持ったプレイヤーは、レベル1まで下がり、ショックで引退。仲間のほうは見てのとおり……レベル20です」


「運営に連絡はしたのか? 何かしらの対処してくれるはずじゃ」


「運営は何かを隠しています」



ユナセは強い口調でハッキリと糾弾した。



「バグが見つかった当初、もちろん私たちは運営にメールしました。しかし帰ってきたのは『知らぬ存ぜぬ調査します』の一点張り。バグに<<バッヂ>>が有効だと気がついたのも偶然なんです。運営に教えてもらったわけじゃない」


「運営のイベントってこともないか」



<<バッヂ>>所有者専用のイベントとも考えたが、俺は告知も何もされていない。



「ともかく、あのバグモンスターは進化しています」


「進化……」



ただ倒せない敵からレベル・ドレインしてくる敵への進化。



「攻撃を受けたプレイヤーの意識不明。そんな事態になるかもしれません」


「そんな漫画じゃないんだから」


「現実です。オンラインゲームでも現実なんです。だからこそ怖い。このままあのバグが進化を続けたら、どうなるのか」



本当にフィクションみたいなことが事態になる。


これ以上、進化しないという保障はどこにもない。


そういうことか。



「私は<<バッヂ>>を持っていません。勝手なお願いだってこともわかっています」


「協力するよ」



即決だった。



「話を聞こうと思ったときから覚悟は決まってるよ。たとえ危険が伴うとしてもな」



俺は手を差しだす。



「ツキシマさん……ありがとう……」



ユナセがその手を取った。


こうして俺たちの冒険が始まった。




つづく?


感想まってます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編はあまり読まないのですが、読んでしまった。 しかも面白い。 続けて下さい。
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