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灯火の輪のリオ ~亡霊の罠で女になったD級探索者の迷宮譚~  作者: アサトン


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第21章 加減

砕け散った黒鉄樹の的を見ながら、リオは言葉を失っていた。


自分では、少し強めに殴った程度のつもりだった。


だが結果はこれだ。


「仲間を殺すって……」


リオが顔をしかめる。


「いくらなんでも――」


「ないと言い切れますか?」


セレナは静かに遮った。


訓練場の空気が少し張り詰める。


「誰かが苦戦している時」


「助けようとして、力を込めすぎないと断言できますか?」


リオが言葉を詰まらせる。


「魔物ごと、仲間を斬らないと」


「本当に言い切れますか?」


静かな声。


だが、一つ一つが重かった。


「あるいは」


「吹き飛ばした魔物が、一般市民を押し潰さないよう制御できますか?」


リオは答えられなかった。


今の自分は。


強く殴るか。


もっと強く殴るか。


それしかできていない。


「力とは、本来そういうものです」


セレナは静かに言う。


「制御できて、初めて意味があります」


そこから訓練内容が変わる。


今度の課題は、“壊しすぎない”ことだった。


ドルクが新しい黒鉄樹の的を設置する。


「次は、表面だけ」


短く言う。


「割るな」


リオは思わず顔をしかめた。


「そっちの方が難しくないですか……?」


「当然です」


セレナが頷く。


「威力を上げるだけなら、魔力を流せば済みます」


「ですが、制御は違う」


「今のリオは、“強い”こと自体はもう問題ありません」


セレナは静かに続ける。


「ですが、相手や状況を見極めて、力を精緻に制御できていない」


「必要以上に強く」


「あるいは弱く」


「極端になりすぎています」


「それでは、実戦では危険です」


最初の問題は、“加減”だった。


表面だけを削る。


そのつもりでも。


少し集中を誤れば、黒鉄樹の的が深く抉れる。


逆に抑えすぎれば傷一つ付かない。


「出力が安定していません」


セレナが静かに言う。


「必要な威力へ、正確に合わせられていない状態です」


「うっ……」


ミアが苦笑する。


「まぁでも、数日でここまで来てる時点で普通じゃないけどね」


レオルも腕を組む。


「普通なら、部分強化だけでもっと時間かかるしな」


リオは改めて、自分が異常側なのだと理解し始める。


数日後。


訓練場。


リオは再び黒鉄樹の的の前に立っていた。


拳へ流す魔力を、少しずつ調整する。


熱い流れ。


それを細く。


さらに細く。


殴る瞬間だけ、ほんの少しだけ増やす。


ゴッ。


鈍い音。


黒鉄樹の的の表面だけが、小さく抉れた。


訓練場が静まり返る。


ミアが目を丸くする。


「……え?」


レオルも引きつった顔になる。


「おい待て」


「まだ数日だぞ?」


ドルクが無言で的を見る。


表面だけ。


狙った通りに削れていた。


セレナだけが静かにため息を吐いた。


「……本当に規格外ですね」


さらに数日後。


リオは、戦闘中でも部分強化を使えるようになり始めていた。


踏み込み。


斬撃。


防御。


必要な瞬間へだけ魔力を流す。


まだ蒼天の軌跡ほど滑らかではない。


だが。


以前の“全身全力”とは、明らかに違っていた。


「軽い……」


リオは自分の手を見つめる。


無駄が減っている。


魔力も。


身体も。


そして何より。


周囲が、前よりずっとよく見えていた。


セレナが静かに頷く。


「ようやく、“戦える”ようになってきましたね」


その言葉に。


リオは少しだけ複雑そうな顔をした。


今までは戦えていなかったのか。


そう思う一方で。


どこか納得している自分もいた。


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