第1話 空の上の非日常
「ふぁ……なんで旅行って、こんなに暇なんだろう」
神谷カケル、17歳。平凡すぎる高校生。
家族旅行のために乗った飛行機の座席で、退屈にまどろんでいた。
──そのとき、スピーカーから信じられない声が流れた。
『機長は我々が預かった。この飛行機は、今より我々〈スカイシェイド〉が制圧する』
「え、えええ!? 何このラノベ展開!?」
俺の目の前で、黒ずくめの男たちが通路を塞ぐ。
乗客は悲鳴を上げ、CAたちは凍りつく。
だが、隣の席の少女は動じない。
長い黒髪、鋭い金色の瞳。制服姿のまま、場違いなほど落ち着いている。
「……冗談じゃないわね」
少女は立ち上がり、ゆっくりと通路を進む。
その歩幅に、何か“普通じゃないオーラ”が漂っていた。
「ちょ、やめ……!?」
「あなたは座ってて。一般人でしょう?」
「いや俺、一般人だけど!」
「知ってるわ。だから助けるの」
彼女の名は 氷室リリア。高校生でありながら、公安特殊対策班《第七課》のエージェント。
機内ジャック事件も、彼女にかかれば“たかが前座”に過ぎないらしい。
黒ずくめの男が彼女に気づき、銃口を向けた瞬間、リリアは驚くべき動きを見せる。
「三……二……一」
――一撃。
男は床に倒れ、意識を失った。
「え、ちょ、今なにしたの!?」
「ただの急所攻撃よ。教えればあなたでもできるわ」
「いや絶対無理!!」
その瞬間、無線から聞こえてきた声が、カケルの心を凍らせた。
『標的はまだ見つからないのか?あの“赤いタグの乗客”を確保しろ。消えているようなら、排除しても構わん』
「……赤いタグ?」
リリアの金色の瞳が俺を射抜く。
「あなた、巻き込まれ体質ね」
「な、なんで俺だけ……」
「生き延びたいなら、私から離れないことね」
こうして平凡な旅行のはずが、命を懸けた空の上の事件に変わる――。
そしてカケルの隣の席には、最強すぎるJK公安が座っていたのだった。




