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受験にカンニングはあれどドーピングは無し

作者: ウォーカー
掲載日:2025/10/26

 大学受験を控えた受験生に休みはない。

夏休み、ハロウィン、クリスマス。

世間がお祭りで浮かれる中、受験生であるその男子生徒は、

他の受験生たちと同様、我関せずと机にかじりついて勉強していた。

しかし。

「あー!駄目だ、こんな成績じゃ!」

その男子生徒は、努力しているにも関わらず、成績が芳しくなかった。

最新の模擬試験、模試での志望校の合格判定はD、

つまり入学試験で合格する可能性は低い。

「もう秋なのにD判定なんて、やっぱり駄目なのかな。」

その男子生徒は模試の結果を見て、溜め息をついていた。


 模試の結果がよくなかったその男子生徒。

かといってまだ模試の段階で諦めるわけにもいかない。

その男子生徒は、できる限りの手を尽くそうとした。

いくつもの参考書を読み、問題集を解き、予備校にも通った。

読んだ参考書や問題集、講義を受けた先生の数も覚えてないほどだ。

それでもやはり成績は上がらない。上がる実感もなかった。

「うーん。どの参考書も講義も、なんか合わないんだよな。」

勉強法は星の数ほどあるが、合う合わないというものは存在する。

合う勉強法であれば30分で終わるものが、

合わない勉強法ではいつまでも終わらないなどということもありえる。

だから勉強は金があるほど有利になる。

幸い、その男子生徒の家は金には困っていなかったので、

その男子生徒は好きなだけの勉強法を試すことができた。

しかしやはりその男子生徒に合う勉強法は見つからない。

そんな時、予備校で気になる噂を耳にした。

「なあ、聞いたか?ドゼミの話。」

「いや、なんだそれ?」

「私立ドーピング予備校ゼミナールのこと。

 どうも最近、有名校への合格者が多数出てるって、

 密かに話題になってるらしい。」

「有名校への合格者なら、うちの予備校だっているじゃないか。」

「それがドゼミは、受講者数が少ないのに、合格者が多いんだ。」

「ほう、それはすごいな。どこにあるんだ?」

「ここからそう遠くないよ。

 ただし裏道にあるから、知らないと気が付かないだろうけどね。」

その男子生徒は、私立ドーピング予備校、

ドゼミへの道順に聞き耳を立ててメモを取った。

「なるほど、そんなところに予備校があったのか。

 今日、講義が終わったら行ってみよう。」

その男子生徒は講義のための参考書を開きつつ、その後の予定を考えていた。


 いつもの予備校での講義が終わった後。

その男子生徒は、メモの通りの道順を辿っていた。

道順は裏道に入り、寂れた中華料理屋の裏を通り、

茂みだらけのおよそ道とは思えない道を指し示していた。

「本当に、こんなところに予備校があるのか?」

その男子生徒がそう思った時。

急に茂みが切れて道が開けた。


 私立ドーピング予備校は、裏の裏の裏道にひっそりと建っていた。

ヒビの入った白い壁は、古い病院を連想させる。

現に、私立ドーピング予備校の出入り口を通る人たちは皆、

病人のような顔をしている。

「これ、病院じゃないよな?」

しかし看板には確かに、私立ドーピング予備校と書いてある。

その男子生徒は、恐る恐る私立ドーピング予備校の校舎に入っていった。


 私立ドーピング予備校に入ってまず感じたのは、臭い。

消毒薬のような臭いが漂っていて、まるで病院のようだ。

校舎内にいる生徒たちも、げっそりとしていて病人のよう。

やはりここは病院なのでは。

そう思わせるところだが、それを断ち切るように、大きな標語が貼られていた。

「受験にカンニングはあるがドーピングは無い!」

大きくて太い筆で力強く書かれた標語は、

ここが確かに予備校であることを主張していた。

パンフレットを手に取ると、大きく力強い文字で、こう書かれていた。


受験にカンニングはあれどドーピングは無し!

これが当、私立ドーピング予備校の格言です。

受験にはカンニングは許されません。

ですが、ドーピングは特に禁止されていません。

当校はそこに目を付けました。

熟練の講師たちによる的確な講義はもちろんの事、

当校指定の医師による、成績向上のための投薬を行います。

複数の薬を用いて、誰もが勉強に集中できるようにします。

薬により集中力や記憶力、受験に向けた能力を向上させます。

更には催眠療法、睡眠学習、心療内科的見地からもサポート。

成績に伸び悩む、あなた!是非、当校の勉強法を試してください!

必ず合格できること間違いなし!


パンフレットには終始、有無を言わさぬ力強さがあった。

通常ならば、こんな病院のような怪しい予備校には通わないだろう。

しかし、成績に伸び悩む受験生は、心が脆くなっている。

強く言われてしまうと流されてしまう人もいるだろう。

今のその男子生徒もそうだった。

「誰でも必ず合格できるって、本当かな?

 もしそうなら、僕も試してみようかな。」

結局、その男子生徒は、まずは体験入学の申込みをすることにした。


 体験入学とはいえ、ここは予備校なのでやることは講義だけ。

講義を受けるだけでも入学したのとほとんど変わらない。

複数の予備校の講義をハシゴする受験生もいるくらいだ。

だから、その男子生徒は、すぐに講義を受けることになった。

講義室に入ろうとすると、医者だろうか、

白衣の男から何やら錠剤を渡された。

「はい、講義の前にこの薬を飲んで。集中力を強化するからね。」

講義の前に薬など不審極まりないが、

この私立ドーピング予備校の格言を思い出す。

受験にカンニングはあれどドーピングは無し。

薬を使うことを禁止する法は無いのだから、使っても問題ないだろう。

その男子生徒は渡された錠剤を水も無しに飲み込んだ。

ゴクン。飲み終わってすぐに、体が火照ってきた気がする。

適当な席に座って渡されたプリントを見ると、

文字がはっきり見えるような気がする。文章が頭に直接入ってくるようだ。

「では講義を始める!」

講師の声が、脳に直接響いてくる。

そうしてその男子生徒は、早くも私立ドーピング予備校の効果を実感した。

講義は体験入学者も参加できるよう、プリントを使用した内容。

それなのに、まるで分厚い参考書でも読んでいるかのように、

プリントの内容が頭の中で膨れ上がっていくように感じられた。

集中力も強化されていて、講義はあっという間に終わった。

「これはすごい。

 今までの勉強法とはまるで別物だ。

 まるで脳に直接、勉強内容を書き込んでいるみたいだ。」

すると先程の白衣の男がやってきて言った。

「君、当校の講義が合ったみたいだね。

 仮入学から本入学への手続きはすぐ出来るよ。」

「本当ですか!?入ります!僕、この私立ドーピング予備校に!」

「よし、ではこちらに付いてきてくれ。」

その男子生徒が連れて行かれたのは、

書類を書くための部屋ではなく、医務室だった。

「すまない、注射といくつかの投薬を行うよ。」

それからその男子生徒は、注射を打たれ、いくつもの薬を飲まされた。

さきほどの講義の前に薬は飲んでいたので、その効果には疑いはなかった。

注射を打たれ、薬を飲まされる度に、体が研ぎ澄まされていくような気がした。

そして本入学の書類を書き、講義で使う参考書を買うことになった。

ずっしりと重い参考書は、込められた知識の重さのように感じられた。


 こうしてその男子生徒は、私立ドーピング予備校に入学した。

入学して講義を数日受けただけで、その効果ははっきりと実感できた。

授業のわかりやすさ、集中力、効率などがまるで違う。

毎日注射をされる苦痛も気にならないほどで、

もう他の予備校に通う必要はないと感じさせるものだった。

そしてその男子生徒が私立ドーピング予備校に通えば通うほど、

成績は上がっていき、体には変化が現れ始めていた。

学校に行きたい。勉強したくてたまらない。

心からそう感じて体が止まらない。

成績が上がれば勉強が楽しくなるというのは理解できること。

しかし、今、その男子生徒が感じているのは、少し違う。

正確に言うと、予備校に行きたい。それは、薬が欲しいから。

予備校で打たれる注射には、強烈な集中効果などがある。

それらが無いと、勉強がはかどらない。苦しい。

薬の効果は、そう長くは続かない。せいぜい一日ほど。

だから、その男子生徒は今日も予備校に通う。薬をもらうために。

薬をもらえば苦しみから解放され、勉強もはかどって成績も上がる。

「そうだよ。ドゼミに通えばいい事尽くめだ。

 成績も上がるし、苦しさからも解放される。」

ある日など、その男子生徒は、高熱を出しながらも予備校に通った。

それほどまでに、その男子生徒にとって、

私立ドーピング予備校は必要不可欠なものになっていった。


 それからもその男子生徒は私立ドーピング予備校に通い続けた。

成績は上がり続け、今や模擬試験でも志望校合格判定はA判定、

ほぼ合格できるというところまできた。

それでもその男子生徒は勉強を続けている。

何故なら、勉強に熱心なのは、他の受験生も同じだから。

模擬試験の合格判定というものは、

あくまでも今この瞬間に入学試験をした結果を予想した場合。

もしもその後で自分だけが勉強に手を抜いてしまえば、

あっという間に他の受験生に置いて行かれてしまう。

そうすればA判定だったとしても不合格になってしまう。

だから受験生に立ち止まることは許されない。走り続けなければならない。

その動機を与えてくれるのもまた、私立ドーピング予備校のすごいところ。

ただし薬にはもちろん、いい効果ばかりだけではない。

その男子生徒は今や頬は痩せこけ、全身もやせ細っていた。

最近、尿の色が変わったような気もする。

しかしそれでも薬欲しさに私立ドーピング予備校に通い続けていた。


 季節は巡って春。

その男子生徒は志望校の入学試験に合格し、新入生になっていた。

間もなく大学での講義も本格的に始まった。

その男子生徒は学生となり、講義に出席するようになった。

しかし困ったことに、何も頭に入ってこない。

講義の内容がわからない。

その理由はすぐにわかった。

その男子生徒が志望校に合格できたのは、私立ドーピング予備校があったから。

私立ドーピング予備校で貰える薬があったから、この学校に合格できたのだ。

大学は入学試験に合格して、それで終わりではない。むしろそこからが始まり。

大学に入学すれば、入学試験と同様の勉強を、

卒業するまで続けなければならない。

無理をして志望校に入学したその男子生徒は、その事に気が付いた。

どうしようもなくなって私立ドーピング予備校に泣きついたが、

取り付く島もなく追い返されてしまった。

「当校は大学受験のための予備校です。

 大学生向けの講義はしていませんので、悪しからず。」

大学の入学試験のための予備校は存在しても、

大学の講義についていくための予備校は存在しないのだ。

薬を使ってドーピングをして志望校に合格しても、

薬がなくなれば大学の講義についていくことはできない。

大学に入学すれば、予備校はもう助けてはくれない。

「僕はどうすればいいんだ!」

その男子生徒は大学で頭を抱えていた。


 それから数週間後。

その男子生徒は、予備校に戻ってきていた。

今度は薬など使わず、自分の実力に見合った大学に合格できるように。

薬が欲しくないと言えば嘘になる。今でも薬が欲しくなる。

でも、禁止されていなくとも、ドーピングの結果がどうなるかは、

身を持って知ったばかりだ。

たとえ成績がなかなか伸びなくとも、

その男子生徒はもう薬に手を出したりしない。

身の丈に合った学校に通えるよう、今日も勉強を続けていた。



終わり。


 何事も身の丈に合った物が良い。

その事を表したくて、この話を書きました。


世はハロウィン一色ですが、受験生の人たちは、

そのようなお祭りにも参加せず、勉強していることと思います。

でも、無理をして志望校に合格しても、無理は続けられません。

入学試験は学校生活全体の試験であり、その場だけでは終わりません。

学校に入学した後も、受験勉強並の勉強を要求されます。

そのことを考えた上で、志望校を決めると良いでしょう。

何事も身の丈に合った物が良い。

これは学校にも言えることだと思います。

受験生のみなさんも、ほどほどに頑張って欲しいと思います。


お読み頂きありがとうございました。


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