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「今、なんと言った?」
キースは顔を顰めて私を見る。
「王子と婚約できて幸せ、と」
……もしかして、王子呼びが気に食わなかった?
意外と呼び名に対してこだわり強い人もいるし……、キースもそのタイプだったのかも。
私は内心焦りながら次何か言われたら絶対に「キース様」と言おうと心に決めた。
「そんな見え透いた嘘を……」
「何故嘘だと?」
幸せ、かどうかははっきりと分からないけれど、不幸ではない。
一国の王子と婚約ができるなんて万歳三唱だ。まぁ、私はそれに興味がないってだけで……。
「僕の噂を知っているのか?」
「魔族の血が流れていることですか?」
私がサラッと答えたことにキースも隣にいた従者も目を見開いて固まった。
あ、結構タブーな内容だったか。
「魔法が使えるということですか?」
私はさっきの言葉を発言しなかったていで、遠回しに言い換えた。上書き大切!
「……なんだかタフなお嬢様ですね」
従者が私をまじまじと見つめながらそう呟いた。
「鈍いだけだろう」
キースは従者の言葉を否定するように、嫌な顔を浮かべる。
私、そんなに恨み買うようなことした? ……やっぱり、何度も心を落ち着けても、少しずつ腹が立ってくる。
仮にも私は婚約者で、今日が初対面で……、王族っていうのは礼儀を知らないのかしら!
「あ、ほら。殿下の態度が酷いからニコル様が機嫌を損ねてしまったじゃないですか」
頬を膨らませる私をキースは不思議そうにじっと見る。
「なんですか」
「僕の前でそんな態度を取る人間は珍しい」
「……どういうことです?」
私はキースの言っていることがよく分からず、首を傾げる。
もしかして、魔族の血が流れていることを気に病んでいるとか?
けど、王子と結婚したいと思っている令嬢は沢山いるし……。恐れられてはいるけれど、外見がこの美しさだから、令嬢はこぞってキースに対して目がハートになっている。
「僕が怖くないのか?」
「キース様こそ私が怖くないのですか?」
「……は?」
キースはさらに眉間に皺を寄せた。
美形が台無しだ。それになにより、婚約者に向ける顔じゃない。
「私は売られた喧嘩は勝つまで戦うタイプの女ですよ?」
「別に喧嘩を売っているわけでは……」
「もっと素直に私の言葉を信じて下さい」
「会ったばかりの女の子を信じろ、と?」
そのキースの感じで「女の子」って言うのは好感度が高い。
「じゃあ、婚約やめますか?」
言ってから気付いた。
これは絶対に私から言ってはいけない言葉だ。……ああ、極刑だ。
リトルニコルはもう神に祈りを捧げていた。この世に未練は沢山あるけれど、良い人生だったわ。
諦めの微笑みを浮かべる。少しの間、沈黙が流れ、キースが冷たい口調で言葉を発した。
「婚約解消になった場合、お前の首をはねる」
…………はい?
私は思わず微笑んだまま固まってしまった。
この王子は一体何を言っているの?
まだ彼の言ったことを理解出来ずにいた。どうやら脳の処理が追い付いていないみたい。
「どういうことですか?」
私は笑顔を硬直させたまま、声だけ出す。
「そのままの意味だ」
王子、それは横暴にもほどがある。
つまり、気に入らないことがあれば私は婚約を解消されちゃって、私の命まで消えちゃうってこと?
……なにそれ。最悪の展開じゃない。
私は従者へと助けを求める。目で訴えても彼は「王子の決めたことなので」という笑みを私に向ける。
……なんだこの二人。
「ニコル様と殿下の信頼関係が築けることを祈っております」
従者の言葉に私は思考が停止していた。
どこで道を間違えたの、私。
なんか無茶苦茶すぎない? どうして王子との婚約に私の命までかかってるの? 王族だからって何してもいいと思ってない?
ニコル・グレイス、これからどうするの~~~!!!




