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「キース様、私と踊っていただけませんか?」
女性からダンスを申し込むなどなんてはしたない、と思われるかもしれない。……が、しょうがない!!
今のこの空気を打破するにはそれぐらいしか思いつかない。
キースは固まったまま私を見つめている。そして、暫くすると小さくため息をついた。
……どういう意味のため息!?
私は心の中でそう叫ぶ。本当は声に出したかったけれど、大勢人がいる前ではある程度の理性は働く。
キースはゆっくりと私に手を差し出した。
それがどういう意味かを理解するまで少し時間がかかった。
……え? これは、キースがダンスを踊ってくれる……ってこと?
天変地異? 明日、この国が滅びちゃう?
私は目を丸くしてキースの手を見つめた。まさかの展開だった。また、無視されるかと思っていた。
大勢人がいるから? 私を無下にできないって思ったのかしら? …………そんなことどうでもいい。キースが私とダンスをしてくれるというのだから、なんだっていいわ。
私は体に絡めていた白いファーのストールを取り、「これお願い」とクリスに渡した。
「行きましょ!」
私はキースの手を取り、心からの笑顔を浮かべた。
キースは私を会場の真ん中へと手を引いてゆっくりと連れて行く。
みんな私たちのためにお辞儀をしたまま道をあける。そして、定位置に来ると、彼は私の腰に手を回した。
ドクンッと心臓が跳ねあがる。思えば、初めて肌が触れた。不思議な感覚だった。達成感なのか、高揚感なのか分からない。とりあえず、このパーティーに来てよかった。
お互いの手のひらを合わす。お互いの呼吸が聞こえる距離になる。
……こんなに!! キースに近付いているなんて!!
てか、めちゃくちゃ良い匂いするな。
至近距離にいる王子様相手に私は平静を保った。……いつもの威圧は感じられなかった。
演奏者たちが楽器を持って、会場に再び音楽が流れた。私はキースにリードされながら体を動かした。それと同時に、周りも頭を上げて、私たちのダンスを鑑賞する。
 




