12
「社交界に出たということが一つ一つの選択が命取りになるということを忘れるな」
「……どういうことです?」
私は真剣なエヴィンの瞳から目が離せなかった。
エヴィンがこんな風に私を見たことは一度もない。彼は私に一歩近付き、耳元で囁いた。
私は黙って彼のは発した言葉を聞いていた。すぐに状況が飲み込めなかった。ただ茫然とする私にエヴィンは口角を上げた。
「さぁ、パーティーを楽しもう。俺は少し踊って来る」
そう言って、彼は私を置いて去って行った。
あっという間に令嬢や子息の中に紛れ込んでいく。自分の居場所は自分で見つけろ、と言わんばかりの態度だ。
それでいい。私は自分で私の居場所を見つけられる。
そう言い聞かせながら、私は兄が言った内容が頭から離れなかった。
「お嬢さん、顔、強張っていますよ」
エヴィンが離れて、すぐに声をかけてきた男性の方へと私は視線を向けた。
暗い緑色の短髪に細い目……、誰かしら。
誰かに声をかけられるたびに「誰かしら」と思うだと思うと、急に面倒くさくなった。エヴィンがいなくなったことで近づいてきたのだろう。
「そんなに警戒しないでください。自分の今日社交界デビューした者です。ルイス・ゴーㇾイと申します」
あ! 来るときにエヴィンに教えてもらった伯爵家の子息様!
名前を顔を一致させて頭にインプットしていかなければならない。
……今日は大変だわ。私の頭の容量が足りますように。
「ニコル・グレイスです」
私は短く挨拶をした。
この男がどういう人間かを確かめる必要がある。探りを入れて、自分に害あるものかないものかを選別しないと……。
…………やっぱり、凄く面倒くさい。
社交界って全く楽しくない。むしろ、恐ろしい場所かも。
誰が敵で誰が味方かを自分の目で判断していかないといかないんだもの。ある程度の知識は頭に入っていると言えども、本人はどうか分からない。
さっきそれを身をもって知った。……って、今はエヴィンの話は置いておかないと。
私は頭をフル回転させる。グレイス家は確か中立の立場だ。
「お兄さんと喧嘩でもしたんですか?」
「ただの小さな兄妹喧嘩です」
ルイスの質問に私は小さく微笑んだ。
「知り合いもいない中で、いきなりこんな場所、疲れるでしょう?」
「……ずっと視線を感じていて、変な感覚です」
最低限の会話に抑える。
……もっとフレンドリーにした方が良い?
自分の態度をどうすればいいのか分からなかった。これ以上話を膨らませて、変に盛り上がっても困る。
…………キースはいつ現れるのかしら。
私は、ふとキースに会いたいを思った。
どれだけ愛を伝えてもずっと無視をされているのに、あのラリーがもはや私に安心感を与えている。
人の慣れって怖いものだ。会話するよりも、一方的に話しかけて無視される方が安心するって感じるのだから……。
「ただ、見惚れているだけですよ。一人だけとんでもない輝きを放っていますので」
ルイスはにこやかな笑みでそう言った。




