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「王子~~! 今日もビッグラブです!!」
晴天の中、今日もよく声が通っている。王子の代わりに小鳥がチュンチュンと返事をしてくれる。
ありがとう、小鳥たち。
そう、今日も王子は私の叫び声にとても顔を顰めている。
私は毎日のように王子に愛を伝えて、王子は私の愛を毎日のように嫌がっている。
悲しきかな、ちょっとぐらいスマイルをくれてもいいのに! ほんの小さく、ニコッと微笑んでくれるだけで私の人生は好転のに!
そんなことを思いながら私は今日も王子に投げキッスを送った。
……あ、無視された。
遡ること、十年前。
そう、それは私がまだ六歳の頃の出来事の話だ。
私ことニコル・グレイスは公爵令嬢はこの国――アルドニア王国の王子キース・アルドとの婚約が決定いたしました。
おめでとう!! 祝!婚約! スーパーハッピーライフへようこそ! ……とはいきませんでした。
つまり、王子との婚約はちっとも甘くないということだ。
三つ上の兄エヴィンとキースが同い年で仲が良くて、何故か私が巻き込み事故にあったってわけ☆
こんな感じに軽く言っているけれど、実際は結構シビアな話なんだよね。
というわけで、私が人生で最も衝撃を受けたワンシーンを見てもらおうと思う。
レッツ、スタート!!
キース・アルドと初対面の日、私は緊張で目が覚めた。
朝から私はキースと会う準備にとりかかる。ただの婚約の顔合わせなのに、一大イベントだ。
侍女のジュリエットに服を新しいドレスを着させてもらいながら、私は鏡で自分の姿を見ていた。
私の瞳の色と同じ深い紫色の色ドレスが我ながら良く似合っている。肩にかかるほどの艶やかな金髪をジュリエットは丁寧に櫛でとく。
「ねぇ、ジュリエット」
「なんでしょう、お嬢様」
「キース王子はどんな方なの?」
「まさに文武両道で、とても冷血で、極度の女嫌いで、周囲が引くぐらいの無口……の美しい顔を持った方だそうです」
顔が良ければ全て良し! と思って喋ってるのかしら。
ジュリエットの容赦ないところが好きだけど、それ絶対王子の前で言ったらだめよ。明日には首だけになっていると思うわ。
「まぁ、実際お会いしたことがないので、なんとも言えませんが……」
「噂なんてあてにしちゃダメよね」
私はそう言って、フフッと上品に笑った。
この時の私は間違っていた。噂はあてにしておくべきだった。
王宮で初めてキースと出会った時、この世の人とは思えないほど…………表情が一切変わらなかった。
なんて無愛想な男なの! それは流石に無礼だろ! と拳を入れたくなったほどだ。
黒髪サラサラヘア、ブルーアイの美形王子かなんだかしらないけれど、婚約者に対してその態度はアウトです!
「初めましてキース様」
「…………」
「……えっと、キース様は何のスイーツがお好きですか?」
「…………」
「私は桃を丸かじりするのが好きです」
「…………」
桃を丸かじりは流石に突っ込むべきでしょ。
淑女としてはしたない、とかいろいろ。……けど、桃を丸かじりするのは好きなのは本当のこと。
王子のとなりにいる従者は全く動じていない。赤髪の短髪に柔らかな茶色の目をしていた。彼は王子と正反対でずっと私に向かってニコニコと微笑み続けている。
……なんなの、このラリーは! てか、ラリーじゃないし!
お互いの両親はここにはおらず、応接間にいるのは私と王子と王子の従者の三人だけだった。
大きな窓からは温かな陽光が差し込んでくる。王子の透き通った青い瞳が輝く。
黙っていれば、凄くカッコいい。ただ、黙り過ぎているせいでストレスが溜まる。
私はニコッと微笑んで嫌味を言うことにした。