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聖鱗の守護者 〜失われた女神と受け継ぎし巫女〜  作者: 島津恭介


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第二十話 聖刀ハーファザート

ザーミーン 守護者 上級神官 神殿聖衛隊

挿絵(By みてみん)

べバール 隻目 隻眼の狼隊隊長

挿絵(By みてみん)

キミヤー ティラーズ神殿長補佐 上級神官

挿絵(By みてみん)

バーバク 勇敢なる獅子隊隊長

挿絵(By みてみん)8>

ニザール 独角族 カーバーザルト砦守将

挿絵(By みてみん) 

エスファンディアル 旧王国神官長

挿絵(By みてみん)

マージド 双角族 魔人

挿絵(By みてみん)

タイシル 独角族 サドゥシュトゥン砦守将

挿絵(By みてみん)

 黄金の光輝が視界を遮る。


 その輝きが消えたとき、ザーミーンの右手には、光り輝く秀麗な刀が握られていた。

 守護者(ハーファザート)の名を冠したザーミーンだけの刀。

 かつて、ハームーンの封印された神殿で、ザーミーンに授けられた女神の神具。

 百年前の大戦以来抜いていなかった刀を、今こそザーミーンは抜き放った。


 空中で、二人の姿が重なる。

 ザーミーンは、刃を合わせない。

 回転する斧が少女を捉え、激しい衝撃とともに地面に叩き落される。

 だが、起き上がったザーミーンの身体の周囲には、輝く鱗の紋様が浮き出ていた。


「ひゃははは、てめえ、預言者(アルンナビ)が探していた女だな! いいところに来た。おれの手でぶち殺して、死体をやつに届けてやる……」


 着地したニザールは、笑いながらザーミーンに追撃をかけようとする。

 だが、違和感に気づき、目をぱちくりと数度瞬かせた。


 それを見て、ザーミーンが笑った。


「不思議ですか。わかっていないんですね。もう、終わりじゃけん。ハーファザートの刃は、もうあなたに届いている」


 ニザールの胴が、斜めにずれた。

 上半身がずり落ち、地面に落ちる。

 頑強な独角族(ワヒドルクン)の身体を一刀で斬る斬れ味。

 守護者の刀は、王国の武器でも有数の鋭さを持っている。

 遅れて、泉のように血が噴き出した。


「なるほどなあ。その守りあっての攻撃か。気に入らねえなあ」


 上半身だけになってなお、ニザールの口が動く。

 岩の上にできた血溜まりの上で、独角族はまだ闘志を衰えさせない。

 不気味な光景に、ザーミーンも思わず身体を強張らせた。


「自分の力じゃねえ。借り物の力じゃねえか。そんなの、認められねえよなあ」


 ニザールの下半身がしゃがむと、上半身が地面に腕を突き、その上へと戻る。

 額の角が黒く輝くと、切断した臓物や筋肉が粘体のように蠢き、接合し始めた。


「──化物じゃけん……。独角族っていうのは、みんなそんなことができるんですか?」

「さあなあ。だが、おれはできる。胴を斬られた程度じゃ、終わってやらねえぜ?」


 ぱん、とニザールは自分の腹を叩く。

 その様子では、先ほどの傷の影響はあまり見られない。

 不死身とでも言うのだろうか。


(いや……少なくても、百年前の大戦で独角族にそんな力はなかったけん)


 ザーミーンは、ここが砦の内部だということを思い出す。

 黒炎珠(アルナール・サウド)の力が、ここには及んでいる。

 独角族だけでは、こんな不死性は出ない。

 神脈から吸い上げた力を、侵食して自己のものとしているのではないか。


「ザーミーン!」


 洞窟の中に、キミヤーの声が響き渡る。

 その声には、複雑な感情がにじみ出ていた。


「角よ! べバールは、タイシルの角を斬り落としていたわ!」


 額の角。

 確かに、独角族の力の源泉はあの角だ。

 だが、バーバクの大刀の一撃を受け止めた硬度を考えると、簡単に斬れるとは思えない。

 ザーミーンの膂力は、バーバクに比べれば半分もないであろう。


(べバールさんは、どうやって斬ったんじゃろ)


 べバールも、バーバクほどの力はないはずだ。

 すでに初老を迎え、全盛期の筋肉はあるまい。

 それでも、あの角を斬ったというのだから恐れ入る。


(うちには、そこまでの技の冴えはないけん)


 聖刀を構えつつ、ザーミーンはニザールの左へと回り込む。

 独角族は、身体の感触を試すようにこきこきと首を鳴らした。


「角ねえ。──面白え。その刀で、おれの角が斬れるかねえ。双角神(クァーニアン)に与えられしこの角を」


 腰を落とし、斧を持った両手を前に出す。


「てめえの竜の鱗(マワーズ・アルティン)、攻略できねえ無敵の鎧ってわけじゃあねえぜ」


 ニザールの角が、再び黒く輝く。

 神脈から吸い上げられた膨大な魔力が、額の角に集結しているのがわかる。

 その魔力が、ニザールの斧を黒く覆っていく。

 それは、黒衣の魔術師たちが使用していた侵食せよアズ・ディアブロソーメの魔術と同じ輝き。

 独角族は、それを呪文ではなく、角を媒介として行使できるのか。


(──闇の魔術。双角神の信者は、炎と雷と闇と死の魔術を得意とするけん、使って当然なのだけれど……)


 この独角族はマージドの部下だから、使うのは炎の魔術だと思っていた。

 だが、見たところ闇と死の魔術が得手なのか。


(このふたつの魔術は、面倒な術が多いから厄介じゃけん)


 警戒度を、上げる必要がある。

 迂闊に聖鱗(モギアス・アレイエ)に頼った戦い方をすれば、足もとを(すく)われかねない。


「行くぜ!」


 大地を蹴って、ニザールが突っ込んでくる。

 旋風のような斧の連撃。

 軽く見えて、一撃一撃が必殺だ。

 刃を合わせれば、刀ごとザーミーンは吹き飛ばされる。

 だから、回避するしかない。


 ザーミーンの動きは羽根のごとき軽さで、踊っているかのようであった。

 黒く尾を引くニザールの斧を、最小限の動きで鮮やかにかわす。

 そうしながらも、冷静にニザールの動きを観察していた。


(目えと足なら、うちも負けないけん)


 ニザールの攻撃は、竜巻のように矢継ぎ早で終わりがない。

 驚異的な体力である。

 ただでさえ重い斧を二丁も持って、これだけの連続攻撃を仕掛けているのだ。

 必ず、どこかで息をつくはずである。

 勝機があるとしたら、その一瞬。

 だが、ニザールの動きに衰えは見えない。


「ちょこまかと逃げ回るだけか! へっ、それでも英雄の子かよ。父親が泣くぜ」


 猛攻をしのぐザーミーンに苛立ったか、ニザールが挑発する。

 きゅっとザーミーンの唇が固く結ばれた。

 父エスファンディアルは、ザーミーンの憧れであり、誇りでもある。

 英雄の名を出されると、心穏やかではいられない。

 しかし、ここで冷静さを失っては負けである。

 ザーミーンは自分の頰を叩くと、ぎりぎりと歯を噛みしめた。


「くそっ!」


 挑発が通じないことに焦ったか、ニザールが跳躍して前転する。

 遠心力を乗せた斧の連撃。

 必殺を狙ったのは、ニザールも連続攻撃の限界が近づいていたのか。

 ここで決めようと、技が大きくなった。


(ここじゃけん)


 上空から斧が降ってくる。

 これを大きく回避したら、次に繋がらない。

 だが、小さく避けたらもう一本の斧が来る。


光翼(バル・サバール)


 唱えたるは、輝く翼を背に出す魔術。

 同時に、ハーファザートを掲げて飛び上がる。

 飛び続けることはできないが、瞬間的にニザールの上に出ることはできる。

 前転しているニザールの弱点は、その頭上。

 回転の頂点を見切り、横に一閃。

 角自体ではなく、額ごと角を斬り飛ばした。


「が……あ……」


 着地したニザールは、限界がきて一瞬息を吸う。

 その硬直の一瞬。

 頭上から降下したザーミーンが、ニザールを両断した。

 

 



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