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聖鱗の守護者 〜失われた女神と受け継ぎし巫女〜  作者: 島津恭介


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第十話 編成の決定

ザーミーン 守護者 上級神官 神殿聖衛隊

挿絵(By みてみん)

べバール 隻目 隻眼の狼隊隊長

挿絵(By みてみん)

キミヤー ティラーズ神殿長補佐 上級神官

挿絵(By みてみん)

フィルーズ 王国神官長 ティラーズ神殿長

挿絵(By みてみん)

バーバク 勇敢なる獅子隊隊長

挿絵(By みてみん)

カイバード 巨人の一撃隊隊長

挿絵(By みてみん)

フォルーハル 美しき静寂隊隊長

挿絵(By みてみん)

マージアール ティラーズ副神殿長 上級神官

挿絵(By みてみん)

ナスリーン グアシール神殿長

挿絵(By みてみん)

ケイヴァーン クーサ神殿長

挿絵(By みてみん)

「このうち、北部三都市を除く六都市は、わしらに協力を約束しておる」


 フィルーズの言葉に、ザーミーンは頷いた。

 当然だろう。

 王都を奪還するには、王国全体の力が必要だ。

 ティラーズだけでどうこうできる相手ではない。

 だが、次の言葉を聞いたとき、その認識が甘かったと思い知らされる。


「だが、アレイヴァ、ハームーン、ドズターヴは遠すぎる。砂漠は行き来だけでも大変でな。そう簡単に戦力を送ってこられん。ホルマガンは海賊の脅威を言い立てて身動きができんと。物資の協力だけは言ってきている。結局、いまあてにできるのは、グアシールのナスリーンと、クーサのケイヴァーン師だけだ」

「話にならないわね」


 ばっさりとキミヤーが斬り捨てる。


「その戦力では、大規模な反攻は無理よ。まずはティラーズの戦力で地道に相手の拠点を牽制する程度にとどめるべきだわ」

「キミヤー君の言うとおりですね。ホルマガンの助力があるとはいえ、物資は潤沢ではないのです。大軍は編成できません。次の出撃に出せるのは、せいぜい二部隊」


 眼鏡の副神殿長がキミヤーに同調する。

 猜疑心は強そうだけれど、バーバクのような感情優先型ではないようだ。


「だから、おれが行くと言っているだろう!」


 長く黙っていられないのか、またバーバクが割って入ってくる。

 騒音がやかましく、ザーミーンは眉をひそめた。


「なあ、ザーミーン、鴉がギャーギャー鳴くとどう思うよ」

「え、うるさい、ですかね」


 耳をほじりながら、唐突にべバールが振ってくる。

 ザーミーンは、思わず正直に返答した。


「ほらよ、バーバク。ザーミーンもうるさいって言っているぞ。いつまでも同じこと言ってんな。やまびこか」

「おお、やるかべバール! 喧嘩ならいつでも買ってやるぞ!」


 卓を叩いて立ち上がるバーバク。

 慌てて、巨漢のカイバードがバーバクを押しとどめようとする。

 べバールは足を投げ出したまま、ぼりぼりと髪を掻いた。


「おい、フィルーズ。クーサの御老体はともかく、双剣の舞姫ラクサンデ・シャムシールドには出張ってもらえないのか? ナスリーン嬢がいれば百人力なんだが」

「話はしているが、今回は間に合わぬ。次回だろうな」

「は、両手はないけど剣を持てってか? いまから念動でも習うか。学費くらい出してくれるよな」

「言うてくれるの。だが、ない袖は振れぬ」


 フィルーズは、右手をひらふらと振った。


「副神殿長、今回はおぬしに行ってもらう。動かす傭兵部隊は、おぬしが決めよ」

「小職が、ですか」


 娘のキミヤーではなく、副神殿長に任せた。

 フィルーズが副神殿長の能力を信頼している証と同時に、これは政治的決断でもあるだろう。

 批判的な姿勢が見える副神殿長にあえて任せることで、その批判を封じるつもりなのだ。

 老獪なフィルーズらしい配慮である。


「そうだ。おぬしも、そろそろこういう決断を学んでもいい頃だからな」

「は……。ならば、奇襲を仕掛けるならば部隊に斥候の多いフォルーハルと──」

「おれ、おれだよな!」

「──突撃兵に特化したバーバクの部隊に任せたいと思います」


 カイバードの部隊は重装甲で機動力が遅いので奇襲には向かず、前回出撃したべバールの部隊に休憩を与えるならこの選択しかない。

 だが、それでもバーバクはわが意を得たりと喜んだ。


「よし、よし! いい決断だぜ、副神殿長!」

「神殿からは、小職と中級神官から一名、下級神官を二名連れて行きます。人選は後ほど」

「よかろう。ただ、ザーミーンにも砦攻めを見学させたい。彼女も連れていけ。護衛として、べバール、キミヤー、ティグヘフの三人を付ける」


 最後に、フィルーズが付け加える。

 べバールは、足を投げ出したまま天井を仰いだ。

 神官長は、マージアールがどう選ぼうと、べバールを保険に使うつもりでいたのだ。

 食えないじじいだ、と口の中でべバールは呟いた。


「指揮権は副神殿長が持つものとする。バーバクとフォルーハルは、マージアールの指示に従うように」

「なんでだよ。前回は、べバールが指揮権持ってたじゃないか。キミヤー様は、べバールの指揮下だっただろう」


 カイバードの拘束を解こうともがきながら、神官長の命にバーバクが反発する。


(神官長じゃなくても、あん人に指揮権は渡せんけん)


 ザーミーンは、戦場の経験が何度もある。

 その経験からいうと、バーバクは命を預けるに足る上官には思えなかった。

 前線で剣を振るう一兵としては優秀なのかもしれないが……。


「年齢と経験だ。キミヤーは若く、べバールは老練。キミヤーには、べバールの下で勉強する必要がある。だが、マージアールはわしの下で十分に経験を積んだ神官。問題なかろう」


 神官長の整然とした説明に、バーバクも反論できず黙り込む。

 それを見て、フィルーズはこの話は終わったと判断したようだ。

 再び水晶に再度手をかざすと、投影されていた映像が拡大され、ティラーズ周辺に焦点が当てられる。


(地図が大きくなったけん! もんげんかあ)


 ザーミーンの目が丸くなる。

 ティラーズの魔道具の技術が高いのか、フィルーズの魔術の腕が優れているのか、彼女には判別すらできなかった。


「ここがティラーズ。そして、ここが前回落としたサドシュトゥン砦の跡。ザーミーンを救出した湧き水(ケシュメフ)がある。そして、ここがカーバーザルト砦」


 サドシュトゥン砦は、ティラーズがある大山脈の中に築かれていた。

 だが、カーバーザルト砦は山脈から平地への出口に築かれている。

 高原から平野部に出るためには、押さえていかないといけない地であった。


「問題は、カーバーザルト砦の西の山中にあるセミロム砦。ここに、黒翼族(シヤ・カナトラル)の部隊がいる。魔力で飛翔する連中だから、砦を長時間離れることはない。だが、たまに哨戒する兵がいると、ティグヘフから報告が上がっている。運が悪いと、奇襲が察知されかねない」

「厄介だな。だが、連中も哨戒の時間制限があるはずだ。フォルーハルの部隊に哨戒が来ない時間を探ってもらうべきだな」


 べバールが卓から足を下ろし、身を乗り出した。

 作戦行動に話題が移り、やる気が出てきたのだろう。


 べバールが視線を向けると、フォルーハルが頷いた。

 相変わらず言葉は少ないが、べバールとの信頼関係は見て取れる。

 彼が参加していることで、ザーミーンは少し安心できた。

 実行部隊がバーバクの部隊だけだったら、不安で自分が前線に出ると言っていたかもしれない。


「砦と言っても、大きな建造物があるわけではない。黒炎珠(アルナール・サウド)で作られた空間が、地下の神脈に向けて広がっておる。そこに侵入し、黒炎珠を破壊する。それが目的だ」


 攻城戦のようなものを想定していたが、どうやら違うようだ。

 拠点への潜入と破壊工作。

 確かに、それなら傭兵二部隊でも可能かもしれない。


「サドシュトゥン砦の経験から言うと、中の兵力は百前後ってところだ。外で正面からぶつかると厄介だが、一度に出てこないなら対処はできる。事前に察知されなきゃ、成功するさ」


 兵力は相手が上。

 だが、それでもべバールはやってのけた。

 不測の事態が起きても、彼がいるなら何とかしてくれるだろう。

 そんな安心感があった。

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