第95話 怪人覚醒薬
「なーに負けてるのオクタ」
「新人に負けて……先輩としての威厳が無いっすよ」
「あぅ……申し訳ありませんレグレスさん、超さん」
3人娘がオクタを冗談混じりにからかい始め、それを聞いていたホワイトがオロオロしている。
「強かったなホワイト。正直びっくりした」
「えっと……勝ったらまずかった?」
「いや、ブラックカンパニー的には良い出来事として受け取っているよ」
正直言ってしまえば若やそれを支えていたベテラン怪人、戦闘員の多くを失った事、俺とバニーの結婚、そして最近起こった博士と俺が肉体関係を持ったことで、ブラックカンパニーはバニーでは無く俺に権力が集中していた。
バニーを慕う人員もいるが、中立的なオママを除き、ブラックカンパニーに吸収や支配下になった企業の重役怪人は俺との繋がりが強いメンバーで固めている。
なのでブラックカンパニーは創業者一族から俺ことKが実権を握る体制に移行していた。
そんな中、会社内で派閥になる可能性を秘めているのが元人造ヒーローの怪人達のグループである。
今後彼らはブラックカンパニーの稼ぎ頭になっていくのは必然的であり、そうなるとどうしても発言力が強くなっていくし、彼らは俺を慕ってはいるが、バニーを総領として認めているし、今後部下の教育を任せるようになれば、派閥として機能していくことになるだろう。
そうなった場合に出生が人造ヒーロー達に近く、それでいて俺と血縁関係のあるホワイトは今後会社のパワーバランスにおける重要な役割を担うことになる。
ホワイトに会社の簒奪をさせるつもりは無いが、バニーと俺の子供を支えるのがホワイトの役割になる。
その場合ホワイトが強く、会社内である程度の発言力を持っていた方が都合が良い。
「はぁ……全く、俺も幹部としての自覚が芽生えたか?」
「お父様?」
「なんでもない。ホワイトはよくやった。オクタやあそこで喋っているイエロー、レグレス、超の3人に挨拶してきなさい」
「はい!」
バニーは正直組織運営能力は最低限持ち合わせているが、カリスマ性は無い。
大企業になった以上、前の様な親族経営の和気あいあいといった感じの若が居た頃の様な会社運営は出来ないだろう。
日本が安定した状態で、長期的な視野で活動できればまだしも、今の日本は表裏問わずごちゃごちゃで戦国時代の様相を呈している。
日本円の信用が崩壊して紙くずになり、ハイパーインフレーションが発生してもおかしくない状況で、ブラックカンパニーはたまたま大金を米ドルで交換していたお陰で致命傷にならずに済んだし、会社の給料や個人の貯金も1ドル150円かつ1億円までは会社がレートを固定して交換を保証すると約束したことで、イエロー、レグレス、超の3人が怪人マッチで稼いだお金の半分が日本円に交換していたので大損した以外は社員の個人資産を守ることに成功したし、不満もそうたまらなかった。
この日本円の崩壊にバニーは右往左往していただけだったが、博士と協議して素早く日本円の価値は無くなったが、日本の持つ技術や製品は価値が下がってない事に気が付き、電撃的に車や家電製品の製造ラインごと買収することで、ブラックカンパニーの技術力を上げる事と外貨獲得手段を得ることが出来たが、主導したのは俺である。
ここでバニーが指導力を見せてくれていれば良かったが、事務能力が高くても指導者にバニーが向いていない事が露呈していた。
だから博士は自身が切られないと判断して俺との子供の暴露に繋がったと俺は考えている。
(組織が拡大すれば派閥争いとはなぁ……)
とは言え組織としても樺太統一を目標としているし、戦力の更なる拡張はしなければなならない。
切り札の電磁パルス爆弾があるとは言え、軍事基地や周辺の街を完全制圧するには300人ちょっとの人員では足りない。
「全く、柄じゃないんだけどなぁ……」
俺が周りから指導者としての資質が求められていると感じずには居られなかった。
「怪人覚醒薬……」
「すまないねぇテレキマン、呼び出して早々実験に協力してもらって」
ホワイトが覚醒をし、皆の目がホワイトに向いていた時、私こと博士はテレキに怪人覚醒薬の実験に協力してもらっていた。
これは怪人の覚醒を促す薬であり、アメリカ宇宙軍からKが奪取してきた神のエキスを元に作られた薬である。
新型怪人化薬と同時期に出来てはいたが、改良を繰り返してようやく実用化にこぎつけた。
「これも怪人化薬と同様に全身に痛みを伴うと思うが……覚悟はいいかい」
「勿論、これで俺もブラックカンパニーの戦力になるんだったらやる価値はあるだろう!」
「その意気だ。ではこのビーカーに入った液体をグイッといってくれ」
ゴクゴクとテレキが飲んでいく。
テレキは唯一残ったブラックカンパニー古参の怪人である。
Kより年下であるが、Kよりも他の怪人……今は亡きタイガーマンを慕っていた為に急速に変化していくブラックカンパニーでの立場も激変していた。
当初怪人の纏め役とKから任されていたが、元人造ヒーロー達を統率する立場を超に取られ、新しく加入してきた怪人達からもブラックカンパニーの怪人なのに弱いことを陰口を言われたりしていた。
それでも毅然とした振る舞いをし、縁の下の力持ちとして雑務や事務作業をこなし、ブラックカンパニーを支えてくれていた為に、Kとバニーの2人と協議してテレキを最初の怪人覚醒薬の被験体に選んだ。
目の前で苦しんでいるテレキの顔面に徐々に変化が起こり、体から貝殻の様な物質が下半身を巻き出し、顔も第三の目が開眼。
腕も脇から両腕2本ずつ、合計6本となり全身の色が黄色に変色した。
「ぜはぁ……ぜはぁ……」
「無事に覚醒の完了だよテレキ」
「すげぇよ……博士……身体中からサイキックエネルギーが湧き出てくる」
ベッドからずり落ちる様に転がると、地面に倒れる寸前で浮き上がり、バイ貝の様な見た目になった下半身を器用に浮かし、浮遊しながら体勢を整える。
「今の君の瞳は3つになったが、何が見える?」
「不思議な感覚だよ。四角が無い……全周囲360度球体状に世界が見える。サイコパワーの高まりがこうしているのかな」
「今の体は気に入ったかい?」
「ああ、これならA級怪人相当の活躍はできそうだ」
「それでS級と言わない当たりが謙虚だねぇ」
「事実だろ。元々の怪人としての能力がC級なんだから……でも今なら」
そう言うと私の体が浮き上がる。
「おや、私の体を浮かべるか」
「あぁ、博士くらい軽かったら何百人と浮かべることができそうだ。それに念力の力で物理攻撃も効きづらくなった。これなら戦えそうだ」
「ふむ、覚醒は無事にできたようだねぇ」
そう言うと私は床に下ろされた。
「一応精密検査をさせてくれ。体内のエネルギーがどう変化したかどうかを測定して観測しなければなならないからねぇ〜」
「あぁ、ありがとうな博士」
「礼には及ばないよ」