第90話 日本内戦の開始
「ふふーんふんふん」
オハ基地の地下20メートル……そこに作られた巨大空洞の天井には無数の人工太陽に見立てた光源が幾つも設置されており、地熱の力を使い室温は20度に設定されていた。
「ケケ、今日も畑の手入れかい? テト」
「あら〜シックスどうしたの? こんな所に」
「軽く日光浴……外雨降っているからこっちで読書しながら時間を潰そうと思ってな」
「暇だったら手伝ってはくれないかしら〜……駄目?」
「いや、駄目じゃないが……怪人になってからテト口調変わったよな」
「そうかしら? まぁちょっと背も伸びたし、思考も変わったかもしれないわね〜」
「手伝うよ。何すれば良い?」
「肥料散布機に肥料をセットしてくれないかしら」
「あいよ」
元々花弁を発生させて操れる能力を持っていたテトだが、植物を自在に成長させて操る能力を怪人になったことで得た。
元々のんびりとした性格であったが口調までのんびりになり、今日も地下で植物を育てている。
見た目は桜の木のドライアドという印象が強く、足や手の一部が木の様な材質に変わり、桜の花弁の様な物と蔓で出来たビキニで陰部や胸を隠していた。
露出している皮膚もなんだかんだ防御力があり、レグレスさんのビームくらいなら多少の火傷で済んでしまう。
「ケケ、テトー、お前の力で一気に作物を実らせたりはしないのか?」
「うーん、それをやると作物が変化してしまうわ。美味しく無かったり、硬くなったり……普通に育てるから美味しい味になるのであって、時間をかけて育てないと不味いのしかできないわよ」
「ケケ、そりゃ成長促進薬を大量に使っている闇市場にでまわる安い野菜や穀物への皮肉か?」
「あれはあれで美味しいのもあるけど、やっぱりちゃんと管理されて育てられている作物には敵わないわよ。うーんこの芋は間引いた方が良いかしら?」
「肥料散布機にセット終わったぞ」
「ありがとう。水と一緒に散布するわね」
すると散布機が動き始め、水と肥料が混ざった液体がタイヤの付いたスプリンクラーから散布される。
畑は道楽の範囲なのでそんなに広く無く、直ぐに散布が終わった。
ちなみに今はテトが畑として活用しているが、将来的には漁業型ハウニブこと円盤型漁船の製造施設になる予定であり、その空き地をテトが会社から借りて菜園にしていた。
ブラックカンパニーに新しく所属した戦闘員の方達にも家庭菜園程度であればやりたいという人達がいたので、テトが全体の管理をしながら各々育てたい作物を植えていた。
ちょうど植えてから数週間という感じで芽が出始めた頃であり、緑の絨毯とは言わないが、小さな芽が次々に芽吹いていた。
「ふと私達がKさんに救助されなかったら今頃ヒーローとして使い潰されていたのかな」
「ケケ、さぁな。まぁ花弁を鋭利にして殺傷出来たテトはヒーローとしても活躍出来たと思うが……僕の能力はこれだからな」
ハッキング……それが僕の能力。
電子機器を自在に操れる能力であるが、戦闘向きでは無い。
後方要員として使われれば上々、敵に渡ると不味いと処分されていた可能性もある。
「社会的には悪いことをしている側だけど、個人的にはブラックカンパニーやKさんに忠誠を誓うに値するんだよな」
「そうね~……ニュースで見るヒーロー側の動きは凄いことになっているけど」
衛生の電波をジャックして日本のテレビ放送がちゃっかり見られるオハの基地では、ダークウェブ上の情報サイトと合わさり、日本の情勢を結構詳しく知ることが出来る。
そこで映し出されていたのは人造ヒーロー以前にヒーローとして認められる年齢の引き下げ……具体的には以前までは12歳以上とされていたのが8歳以上と4歳も下げられたこと、適齢期のヒーローの健康診断と称して卵子の摘出が行われていること、僕達が製造されていた研究所の他に大々的な製造ラインが作られたらしく、倍々にヒーローが増え続け、一度撃退しても第二波、第三波と波状攻撃を仕掛けられて中小の悪の組織が次々にダメージを受けていることが分かっていた。
対抗するために大企業の参加に加わったり同盟を結んでカラーコミュニティの様な連合企業が複数出来上がっていた。
ヒーロー側が活気づいたことで足の引っ張り合いをしていた悪の組織側も急に手を取り合い迎撃に出ており、日本人を攫うだけでは戦闘員の補充が追いつかなくなり、海外からも人の輸入を行い始めていた。
お陰で移転したばかりのオママさんの人身売買の業績が例年に比べで3倍近く儲かっているという話も聞いていたり……。
「日本という国がどんどん混沌としてきている……」
「しかも政府が警察を武装化した武装警察を作って特高警察の様な運用を始めたから表の顔を持っていた悪の組織も容赦なく武力鎮圧されてるしね〜」
「人造ヒーローに武装警察……悪の組織にとって生きにくい世の中ね〜」
「まぁ樺太に逃げているこっちには関係無い話だけど……」
そんな事を言っているとワンが何やら慌てて地下空間に入ってきた。
「大変だ! 大変な事が起こった! 2人共テレビのある部屋に来てくれ!」
そう言って僕らをテレビのある部屋に連れて行くと、悪の組織の1つがテレビで堂々と映って演説をしていた。
『諸君! 日本の政治権力は失墜した! ヒーロー協会は人を人工的に作るという禁忌を犯し、警察は1世紀は遡る悪名高き特高警察と同じ事をし始めた!』
『今の日本産業は悪の組織無くして立ち行かないのを分かっての狼藉か! 地域に密着し、地域産業を活性化させていた悪の組織未満の者達まで攻撃する始末! 倫理観を失った国は諸外国からの信頼を失い! 大和民族が絶滅する日も近い!』
『それを憂いた我が組織大和連合は現時刻を持って日本国に対して宣戦を布告する!』
等と激ヤバの発現を公共の電波放送をジャックして行い、実際に和歌山県の5割を支配下に収めたと発現。
「大和連合なんて組織ありましたか?」
僕は近くに居た最近ブラックカンパニーに吸収された組織の怪人のおじさんに聞くと
「大和連合……調べたら和製重工が中小企業を吸収して肥大化し、改名した組織らしい。怪人の数は1000人を超える大企業だ」
「過激派に実権を握られたんだろうなぁ……」
「この規模だと自衛隊も出動するしヒーロー側も全力投入すると思うから……もっても1ヶ月くらいじゃないかな」
等と他の怪人達は呑気に語っていた。
「これ大丈夫なんですか?」
「わかんない。まぁ大ニュースは確定だけど、これは明確な内乱に当たるから日本政府もブチギレでしょうね……まぁブラックカンパニーには影響は無いわよ」
と言われてしまった。
が、実には影響が出まくり、人造ヒーローに攻撃を受けた企業達やカラーコミュニティの残党等がこの大和連合に同調して日本に対して反乱を各地で起こし、15の県が大和連合に同調する勢力に攻撃を受け、自衛隊の基地が襲撃され、基地内にて銃撃戦が行われるというえげつない事になり始めていた。
しかもその大和連合に大規模な資金や技術援助をマーレ(日本最大規模の悪の組織)がしており、この混乱に応じてマーレは日本の海底都市ネオ東京を制圧し、地上との連絡通路を破壊して海底国家ネオジャパンを誕生させる等やりたい放題。
様子見を決め込んでいた悪の組織達も次々に独自陣営を作り、日本国内で反乱を起こしまくり、1ヶ月の間に日本は悪の組織達によってバラバラに分断され各個撃破されるという最悪の内乱へと突入していくのであった。