第74話 悪徳先生との買い物
ある日俺は悪徳先生から連絡があり、護衛任務をしていた。
「いやぁK君のブラックカンパニーが崩壊したと聞いて肝が冷えたぞ」
「申し訳ありません。この様にちゃんと組織は復活していますので安心してください」
悪徳先生と話をしながら今日は人身売買の売り場を見ていく。
「悪徳先生が人身売買売り場に来るのは珍しいですね。どういう風の吹き回しですか?」
「知り合いの政治家が綺麗な女性が好きでね。それでお祝いとして女性を紹介しようと思ってね。悪の組織は得意だろう? 擬似人格を入れた都合の良い女性を作るのは」
「ええまぁ……」
とある廃ビルの中に入ると円柱状の機械の中……液体に漬けられた綺麗な男女が丸くなりながら浮かんでいた。
「こういうのはやはり大陸系の組織が強いか」
「えぇ、人間の売買系はやはり大陸の方が安いですね。ブラックカンパニーも今回のを契機にロシアの方に進出しましたが……安かろう悪かろうといった感じで」
「まぁ相手方の先生が求めているのはコレクション。言うことを聞いて最低限の人間性と日本語が通じれば良いからな。安くても問題は無い」
ちなみに今日来ているのは大陸にある人身売買の売り場である。
予定では大陸で購入し、日本で加工して贈るらしい。
「K君のブラックカンパニーは今どうなっているんだ? ロシア進出したということは兵器系に手を広げるのか?」
「まさか……そんな技術力は無いですよ。とりあえず土地を抑えて天然資源系を加工して闇市場に流すことが出来れば良いなぁと思ってますが」
「ふむ……今度見に行っても良いか?」
「先生だったら是非来てください。歓迎しますよ」
そんなことを喋りながら進んでいく。
店員は中国語で話してくるが、俺は戦闘員のマスクが自動通訳機能が付いているので聞き取れるし、悪徳先生は外交系に強い政治家として売っているので7カ国語を操れるためちゃんと聞き取ることも交渉もしていた。
「先生のご友人はどんな女性が好みなので?」
「綺麗系かつ清楚系が好きだったな。大陸系だと韓流が好みだろうが……」
「韓国は無理ですなぁ。悪の組織が手出しできないくらい治安が良いですから」
「だよなぁ……ちょっと商品を物色するか」
円柱状の機械の中に浮かべられた商品(人)を眺めるのだった。
「なぁ、K君」
「なんでしょうか先生」
「うちの党で幹部達がそろそろ引退が迫ってきている。そうなると私が派閥を引き継ぐ予定だ」
「悪徳先生が派閥の長にですか?」
「ああ、本来ならば私よりも相応しい人員が多数居た。私はよくて7番目……普通なら長になることなど出来ない立場だった」
「裏社会にかかわるようになって大火傷を負い、政治生命が終わりかけたこともあったが……そんな時にK君とたまたま出会うことができた」
「4年前ですか……私が20歳だった時ですね」
「そうか……まだK君は24歳か……良いなぁ若くて」
「先生もまだ50前半じゃないですか。見た目は30半ばくらいですし、まだまだやれますよ」
「まぁ肉体の年齢を維持するために原液に近い超人薬を飲んでいるのが良かったかも知れんがな……K君との4年で私は権謀術数を使い、政敵を追い落とし、のし上がることができた。K君のお陰で資金的にも他の候補者に比べて優位に立ち回る事ができた。本当に感謝しているよ」
「悪徳先生、次は政権中枢に入る感じですか?」
「派閥の長になれば何処かの大臣職は得ることが出来るだろう。政治力を行使してブラックカンパニーを優遇することも出来るがどうする?」
俺はとあるUSBメモリを悪徳先生に渡す。
「ヒーロー側が人造ヒーローの製造に着手しています。恐らく既に数十人がロールアウトしたかと」
「ふむ……私の政治力でこの動きを潰すべきかな?」
「いえ、逆に推奨させても良いくらいです。ブラックカンパニーは更に怪人の質を上げる事に成功しましたし、長期的な事を考えると同業他社が潰れた方がありがたいのでヒーロー側をなるべく強化して欲しいくらいです。まぁ悪の組織が表の産業に食い込んでいる以上、潰れるのは困りますが、現状日本のヒーローは弱すぎるのでね……韓国みたいにヒーロー側の圧勝は困りますが、ヒーロー側がある程度強くないと悪の組織ばかり強いと内輪揉めを始めてしまってね」
「ふむ……この情報は有効的に使わせてもらうよ。他にはまだあるかい?」
「アメリカ宇宙軍の機密情報です。先生も欲しいでしょ月面基地の情報」
俺は神のエキスについての情報を削除し、アメリカ宇宙軍の内部情報について纏められたデータをついでに渡した。
「現状月面くらいしか悪の組織が完全に入り込めてない場所は無いからな。しかもアメリカが世界に先駆けて月面基地を整備したお陰で月の事実上の支配者になってしまった。月面だけでなく月の地下でどれほどの基地ができているかもわからんな」
「俺的には火星に地下基地を築いた方が良い気がしますが」
「日本にはそんな技術は無いよ。それよりも海底都市の方がコスパが良い」
「海底都市ねぇ……」
日本では宇宙進出は宇宙ステーションで止まっており、それよりも海底資源を採掘するための海底都市の建設が行われていた。
「まぁその都市計画はマーレという組織が権利を固めてしまったがな」
日本の造船業界の4割と東アジア、東南アジア、オセアニア周辺の海運を担うマーレコーポレーション。
勿論裏の顔は悪の組織であり、売上は中堅国家の国家予算に匹敵する規模である。
そんな大企業が行っているのが日本海底都市建設計画である。
この計画が成功すれば日本は資源輸出国になれると言われるくらいの巨大プロジェクトであるが、マーレが権利を独占したことで何処までプロジェクトが進行しているのか不透明になっていた。
噂では既に東京都23区並の海底都市が出来上がって海底資源の採掘が行われているとか何とか……。
「海底都市だとヒーロー側にバレないぞ」
「ブラックカンパニーにそんな資金は無いですよ」
「K君の実力なら幾らでも引っ張ってこれるだろうに?」
「限度がありますし、俺だって無敵では無いんですから」
「本当かな~。まあいい。今回はこの子を購入することにしよう」
「では店員に伝えてきます」
久しぶりの悪徳先生との時間であった。