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第6話 新人教育開始

 戦闘訓練室の横のトレーニングルームでサイクリングマシーンを僕達はやらされていた。


「これがなんの役に立つのよ!」


 僕も前沼ちゃんが言うように学校でもやらされたようなトレーニングを会社に入社してまでやらされるとは思わなかった。


 ちなみに俺達を見ながらKさんもスクワットをしている。


「戦闘服で体を動かす事で怪人になるための適性が上がっていくのは知っているだろ。おそらく学校でもある程度やったと思うが、お前らは幹部候補生……普通の戦闘員みたいにちんたらやっているわけにはいかない。普通の戦闘員が2年かけて体に蓄積する怪人になる素養を養わなければならない」


「だからサイクリングマシーンってわけ?」


「サイクリングマシーンだけじゃなくて今日は水泳にランニングマシーンでのランニングもしてもらう」


「はぁ!? そんなにやらないといけないの!?」


「足止まってるぞ戦闘員M、文句は別に言っていいが、足は止めるな。あと不服なら俺とタイマンまたやるか」


「いや……それは良いかなって……」


「あと逃亡とかは戦闘員になったからにはできねぇからな。体内に埋め込まれた逃亡阻止の薬や位置情報を教えるチップで組織側からどこに居るか分かるし、普通に薬が起動して液体になって死ぬから」


「そんなこと……わかってるっす! 学校で習ったっす!」


「いや、戦闘員Aアリスが小卒でそんな知識無いからな。戦闘員Aは基礎体力から鍛えていく。とりあえずお前ら休憩の時はこれ飲んでおけ」


 Kさんから水筒が投げられた。


「何入ってるんすか? これ?」


「超人化薬の原液だ。博士がバナナ味にブレンドして飲みやすくなってる」


「超人化薬って飲んだら怪人化の適性が下がるじゃない! あー! おじさんこんなの飲んでるから怪人に慣れないんじゃないの?」


「あ、それ古い情報だぞ。市販の超人化薬は怪人にならない為の抑制剤が入っているから幾ら飲んでも怪人にはならないが、原液はそんな成分が入ってねぇし、なんなら博士が怪人化の適性を上げる薬品を混ぜてるから飲めば飲むほど強くなれるってわけだ。まぁ飲みすぎると体調崩すから1日ペットボトル1本分までだがな」


「なんでじゃあ学校では出さないのよ」


「そうっすよ!」


「学生だぞ。中坊に力を与えた結果教職員の制御が利かなくなって売り物にならなくなったら大損だ。だから中学では徹底して組織に歯向かわない素養と普通の戦闘員よりはマシ程度の戦闘力で出荷されるわけだ。まぁお前ら2人は忠誠度が低そうだから評価が下がって大手に買われなかったんだろうな」


「え? 学校の評価ってそう決まるの?」


「うちの社長……若に記事見せてもらったから間違いは無いはずだ」


 僕の学校の成績が平均よりやや悪かった理由がわかった。


 でも異常に強かった同級生達はじゃあなんなのだという話になる。


「そりゃ素質の差だ。一流の怪人同士だったり一流ヒーローを改造して産まされた子供だったりは元のベースが違う。超人の遺伝子を混ぜ合わせられてるんだ、そりゃ超人が産まれるわな」


「お前らが思っている以上にヒーローって血統重視だ。で、悪の組織はそんな血統だけでどうにもならない部分を怪人化薬って言うので怪人に進化させる事で超人たるヒーローとの戦力差を埋めてるんだ。B級のヒーローまでは一般人からは超人でも超人の中では普通の戦力だ。A級やS級なんかのヒーローは次元が違うからな」


「じゃあ何? 私達は才能が無いってわけ?」


 Kさんは首を横に振る。


「無いわけじゃねぇ。怪人としての才能はある方だ。天才ってだけなら学校卒業してねぇのに学校卒業のお前ら2人以上の怪人適性を示している戦闘員Aは将来有望だが、お前ら2人も普通の戦闘員からしたらエリート中のエリートだ」


「だがな、上には上が居るってことだ。学校出身者は自分がエリートだと驕って努力を辞めて、結果的に叩き上げと同程度の怪人に成り下がるケースが多々あるんだよ。まぁお前ら2人は上を学生時代に見てきたお陰で驕りは無さそうだがな……はい休憩」


 サイクリングマシーンとはいえ、ずっと坂道を登っている強度で設定されているので普通に疲れる。


「怪人になるために戦闘服の成分を体に吸収させるためにいっぱい動くってのは大切だが、今の新人達は体力がとにかくねぇ……ヨーイドンの模擬戦じゃねぇ、ヒーローとの戦いは命懸けだ。体力がねぇ奴からバテて動きが鈍くなった所を殺られる。若年ヒーローって言われる連中の倒し方は体力を削るって言われるくらいだ。お前ら3人も若年ヒーローと同じ事が言える。だから体力を付けろ。危なっかしくて現場に出せるレベルじゃねぇってこった」


「ぐぬぬ!」


「ハァハァ……じゃあどうすれば現場に出れるわけっすか?」


「俺が良しって思うまで……と言いたいがそんな事を言ってたら一生現場に出れねぇからな。難易度の低い仕事が来たら普通にやってもらう。まぁ1ヶ月はトレーニング期間だと割り切れ。1ヶ月後から徐々に現場に出てもらう」


「わかったっす!」


「ゼヒューゼヒュー」


「アリス大丈夫っすか?」


「戦闘員F、名前で呼ぶな。戦闘員になったら一度名前を捨てたんだからな」


「なんで呼んじゃいけないんっすか! 学校でも言われたっすが絶対名前で呼びあった方が連携取れるっすよ!」


「1つは悪の組織の組合での決まりだ。戦闘員はアルファベットか数字で呼びましょうって全体で決まってる。もう一つは戦闘員は消耗品だ。死ぬのがお仕事と言っても良い。食用の牛に名前を付けるか? 個体番号さえ分かれば良いの」


「そんな……悪の組織って命が軽すぎませんか?」


「戦闘員Aの言うようにすっごい軽いぞ。ヒーロー達は悪の組織の人間を人と思ってないからな。容赦なく殺すからな。大手でも戦闘員は消耗品って割り切ってるから怪人に成れないと蘇生されないし、中堅のうちみたいに戦闘員を大切に扱ってなるべく怪人に育てましょうっていうのが業界からしたら稀だ」


「戦闘員Aは学校行ってないから知らないと思うけどブラックカンパニーは学校側からも戦闘員の死亡率が低い会社なのよ……もっと低い会社もあるけど競争率が凄かったから私やFはこの会社に応募した経緯もあるの」


「成績によって行ける会社のランクを学校側が決めて、その中から学生が選ぶ方式なんっすよね……」


「まぁ俺が戦闘員としての生き方を徹底的に叩き込んでちゃんと怪人にはしてやるから頑張れ、はい、休憩終わり。マシーンスタートしろ」












「今日の業務終わり、社宅の浴場で汗流して食堂で飯食って寝ろ」


「ハァハァ……」


「し、死ぬっす……」


「……」


「返事は!」


「「「はいっ……」」す」


 俺は事務所のシャワールームで汗を流し、戦闘服を脱いで、今日の報告書を書くためデスクスペースに座る。


「お疲れK」


「バニーさんもお疲れ様」


「どう? 新人達は」


「クソ生意気かつガキ。まぁ言った事をやる真面目さだけは評価しますよ」


「潰さないように頼むわね」


「わかってますよ。結構給料もらってるんで、その分以上会社に利益になるように働きますから」


「よろしい……そう言えばKは結婚とかはどうなの?」


「まだ俺23ですよ。考えて無いです」


「そう。でも怪人に成れないなら早めにパートナーは決めておいた方が良いわよ。私とかどう?」


「なんすか? 告白ですか? バニーさんと俺は若が許しませんよ。俺若に殺されたくないんで」


「あはは……そうよね……」


「じゃあこれ今日の報告書です。また明日よろしくお願いします」


「あ、はい。確かに」


 俺が事務室のドアを閉めると後ろから微かに


「私は本気なんだけどなぁ」


 と聞こえた。


 強くても戦闘員で才能が止まっている俺よりもっと良い人にバニーさんは結ばれて欲しい。


 俺はそう思いながら会社を後にするんだった。






----

 用語解説


 ·ブラックカンパニー製戦闘訓練室


 博士が作った戦闘訓練室……実のところ訓練室に入ると肉体と魂が分離させられ、アバターに切り替わる。


 始業などで使われる時は、電源が切られているので普通に肉体のままであるが、戦闘訓練で使う時には電源が入れられる。


 なので経験値を積むには良いが、肉体的なトレーニングをしても効果は無い。


 肉体を鍛える時は隣のトレーニングルームや社内プールが使われる。


 あと戦闘訓練室では障害物を擬似的に作り出すことが出来るので、市街地戦や室内戦のトレーニングをすることも可能。

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