第53話 イエローとレグレスの部下
ある日、俺がオママの所に新入社員予定の人物を受け取りに行くと、オママが会わせたい人が居ると言われて個室に移動してきた。
するとくたびれたおじさんが座っていた。
「紹介するわ。ヒーロー専門の情報屋をしている黒さんよ」
「黒だ」
「こっちはブラックカンパニーで戦闘員をしているKさん」
「どうもKです」
「2人なら望む取引が出来るんじゃないかと思って引き合わせたの。私もちょっと噛みたい情報があってね」
オママは飲み物をテーブルに並べる。
場所はカラオケルームみたいな場所で密室。
防音室故に音が外に漏れる心配も無い。
「ブラックカンパニーか。悪の組織としちゃ中堅だが、異様に生還率が高い組織だな。この前のマジカルクインテット襲撃事件でも損害を出しながらも怪人や一部戦闘員は脱出に成功していると聞くが」
「よく調べてるな。まぁそんな感じだ」
「実は仕入れたい情報がある」
「ほう?」
「今日本のヒーロー協会ではS級ヒーローの子供を体外受精させ、促成教育をすることで強力なヒーローを量産しようという計画が存在する。その情報を掴んだは良いが、どこまで計画が進んでいるのかまでは掴めていない。ブラックカンパニーには凄腕の社員が居ると聞くがそいつか社長にこの情報の探りを入れることは出来ないか頼んで欲しい」
「金額は?」
「研究施設の内情が分かれば1億出す。それだけの価値がある」
「わかった。社長に伝えておこう」
「よろしく頼む」
「と、言われましたが、どう思います?」
若は総領室のソファーに座りながら俺の話を聞く。
「まぁ間違いなく捨て石だろうな」
「ですよね……」
「この研究施設が本物だったらもっと特化している悪の組織に向かうハズだ。それが人材派遣のうちに来たということは何か別のことが知りたいんだろう。おそらくKの実力を測りに来ていると見えるぞ」
「ですよねー、でもこの情報が本当だった場合面倒くさい事になりますが」
「人造ヒーロー……か、また面倒くさい事を……Kも潜入任務が得意とは言えないからな」
「それでは断りますか?」
「そうだな。悪いが断りを入れてくれ」
「わかりました」
オママ経由で情報屋の黒さんに断りを入れたが、相手方も受けてくれたら良い程度の認識だったのだろう。
すんなり折れてくれた。
それよりも……
「おじさんコイツら使えないよ……言った事は聞くけどそれ以上の行動をしないし!」
「うんうん!」
新しく部下を与えられたイエローとレグレスが泣きついてきた。
まぁ擬似人格を入れられたばかりだと定着しておらず、命令は聞くがそれ以上はしない肉人形であるからな。
「擬似人格を馴染ませるには感情を育む方が良いぞ。感情を揺さぶると覚醒するからな。まぁ色々試してみろ。それも仕事だ」
「「はーい……」」
それよりも俺は教育期間中にできないで溜まっていた仕事の処理をしなければならない。
「こりゃ結構頑張らねぇといけねぇな」
俺は早速ワープベルトでベトナムに飛ぶのだった。
「感情を揺さぶるねぇ……」
私ことイエローはKさんに言われて感情が揺さぶられることを考える。
私が与えられた戦闘員は皆高校から大学生くらいの人物で、一応日本人で固められているが、容姿も性別もバラバラ。
男1人に女2人という感じで、名前もA1(男)、B1、C1と量産型の名前である。
「えっと一応資料が……」
私はそれぞれの資料をめくっていく。
「A1は中学、高校でイジメを受け、闇サイトで戦闘員の登録を行うものの、戦闘員への性格的な適性が無かった為に騙して人格を抜き取られた……怪人適性は2%」
「B1は妹の病気の治療費が膨大であり、両親が闇サイトで治療費を借りてしまい、結局妹も含めて全員借金取りに売られてしまうねぇ……」
「最後のC1は大学で悪い男に引っかかり、闇市場に売られる……かぁ……言っちゃ悪いけど皆どうしようも無いね」
人格を抜き取られた時点で過去の自分は死んでしまったと言える。
まぁA1はなるべくしてなった気もするが、悪の組織は騙される方も悪いという感じである。
「とりあえず走ろうか」
私はランニングマシンで3人を走らせる事にした。
Kさんに沢山しごかれたなぁと思いながら、ランニングマシンに新人戦闘員達を乗せて走らせる。
擬似人格が定着していないので、言われるがまま走り始めるが、5キロほど走ると命令に体がついてこなくて、走ろうとするが、疲労で動けない状態になる。
「「「ゼヒューゼヒュー……」」」
「はい超人化薬……ゆっくりで良いから飲んでね!」
私がやるのは自分が受けた教育と同じこと。
毎日死にそうになるならがのトレーニングは感情を揺さぶるのでは無く生にしがみつこうとする本性が出てくる。
若さんからどういう風に教育しても良いと言われているので、私は飴と鞭でやらせてもらう。
体をめいいっぱい動かして疲れたところに疲労回復のマッサージをオママのところに受けに行く。
そして美味しい物を食べたり、部屋で映画鑑賞をしたりする。
「まぁレグよりはマシなやり方だろう……」
イエローから言われたレグレスは戦闘員を戦闘訓練室で逃げさせてビームやミサイル、ガトリング砲から逃げることをやらせていた。
再生の設定を上げて、殺られても即座に回復するが、激痛が走るように設定されており、死ぬ恐怖で感情を揺さぶり、擬似人格を無理やり定着させるやり方をしていた。
「ほらほら! 逃げないと死ぬよ!」
足が止まればビームが体を貫き、隠れればミサイルが飛んでくる。
目立つ場所に出てしまえばガトリング砲で穴だらけにされる。
「ゆ、許してください!」
「嫌だぁ! 死にたくない! 死にたくない!」
「うぎゃぁぁぁ!」
「ほらほら悲鳴を上げなさい! 逃げ惑いなさい!」
レグレスはこれにより人格を5日で定着させる離れ業をやってのけたのだが、1人は発狂して処分される事になり、残った2人もレグレスに忠実な下僕の様な存在になるのだった。
「やらかしたなレグレス」
「すみません……」
私は部下を発狂させて処分する羽目になった事を若からこってり叱られた。
「まぁ俺も自由に育てろと言った手前、責任はあるが……限度というのがある。レグレス。お前の部下と言えど、会社の社員だ。Kがお前にそんな扱いをしたか? そう教えたか?」
「違います」
「だろ? 成果を求めるのは良いが、人を消耗品の様に扱うのはまた別だ。それに戦闘員としてお前以外の怪人の下で任務を行う場合もあるが、恐怖で縛れば他の人物のやり方に不満をもってしまう場合が殆どだ。それは会社にとって不利益だし、人材派遣を主事業としているうちにとってデメリット足りうる」
「感情が定着しても指示待ち人間が出来るのは困るのだよ。分かるかレグレス」
「はぃ……」
「残ったD1とE1の2名のメンタルケア及びトレーニングはイエローにやらせる。お前はウルフの下で部下の育成方法を学んでこい」
「はい……申し訳ありませんでした……」
こうして私は部下を持つことを許されずに、部下の教育法をベテランの戦闘員の方々や先輩怪人の人達に教わるのだった。