第50話 教育期間の終わり
「お、おお!? 立てた! 立てたっす!」
ある日の事、僕は寝て起きると、よちよちと立ち上がる事ができた。
「立ち上がれれば!」
僕はドアノブにジャンプしてみて体重をかけるとドアを開けることができた。
「やったっす! ドアを開けることができたっす! ……当たり前の事過ぎてあまりに悲しいっすけど最低限の事が出来たっす」
ということはと思い、Kさんのトイレに行ってみてトイレが出来るかどうか試してみようと思ったが、蓋が上げられない。
「残念……まだ人のトイレは使えないっすか……」
立てるということは前足が使える。
そこから尻尾を上手く使う事で体重バランスをとり、長く立てる練習をする。
立てる様になると色々な事が出来る。
「フォークとスプーンが使えるようになったっす!」
立てる様になってから練習をしてフォークとスプーンが使えるようになり、犬食いをしなくても済むようになった。
それが出来るようになった時は人間性を取り戻せたと泣いて喜んだ。
お陰でKさんに手伝ってもらわなくてもトイレの後処理が出来るようになったのも大きい。
今まではKさんに糞尿を処理してもらっていたが、自分で穴あきスコップを使って固まった糞尿を袋に入れて、封をすることが出来るようになった。
溜まると重くて僕は運べないので、Kさんにゴミ捨て場まで運んでもらう必要があるが……。
「立てる事で色々できるっす! この調子で人間性を回復していしていくっす!」
マイナスをゼロにする作業であるが、少しでも今まで出来た事を取り戻せるように超は頑張るのだった。
「ひぎゃ!?」
私ことイエローは戦闘訓練室でレグと戦闘訓練をしていたが、レグがガトリング砲を機能の拡張をすると、負けが込むようになっていた。
理由としてはビームは直線の動きで軌道が読みやすく、ミサイルは電気を周囲に放電することで誘爆することが出来るが、弾丸を止めることが出来ていなかった。
一応解決策も考えていたが、努力の途中である。
「電磁力による砂鉄を操るねぇ〜」
「うん、室内だと砂鉄の代わりに室内の金属物質を操れば良いけど、ある程度私も5キロくらいの砂鉄を持っておく事で自由に操る事が理論上出来るはずなんだけど……」
理論上と言うように、まだ完成度は低く、砂鉄を集めて鈍器にするのがせいぜいであった。
「リニアシューズが使えているから磁力を用いた行為は出来るのよね」
「そう、出来るんだけど、盾としての操作が難しくて……」
磁力操作が上手くなれば活用できる技も増える。
例えばレールガンの要領で鉄片を発射することで、遠距離を狙撃することも出来るようになるし、体内電気を操ることで、身体能力の向上や再生能力の獲得等、出来ることは多い。
私としてはレグ以上の成長力があると自負している。
まぁ雷針銃やリニアシューズの様にサポートアイテムに頼っている部分を自力で出来るようになるだけでも大きく成長出来ると感じていた。
一応博士に電磁力操作を補助するグローブを開発してもらっていたが、サポートアイテム頼りというのもどうかと思っている。
「少しでも強くならないと! 超の分まで強く」
「そうね……でもそのうち超もきっと強くなるわよ! その前に私達が覚醒して更に差を広げましょ!」
「うん!」
正直超には悪いが、超が戦力にならない以上、私とレグの負担割合が増える。
教育期間も終わり、Kさんと一緒の仕事が徐々に減り、他の怪人やベテラン戦闘員の方と一緒に仕事に出る回数も増えていた。
非番の日はこうやってトレーニングしているが、仕事が入る回数も増え、戦力として見られている自覚がある。
それだけに超を見ると哀れむ気持ちと優越感とかの色々な思いが湧き上がってしまう。
多分レグの方がその気持ちは大きいだろう。
レグは超が強い怪人になって肩を並べて戦うことを望んでいたから……。
「イエロー、もう1戦戦う?」
「はい!」
また私達は戦闘訓練を再開するのだった。
「超以外は順調に育ってきたな」
3人娘が入社して6ヶ月。
俺は若に超以外の2人の教育期間の終了を報告した。
グレーサーモン社の養殖所での仕事でそれぞれ十分に仕事を任せられる能力と協調性があると判断したからである。
超を戦力化するのにはだいぶ時間がかかるが、きっと成長して戦力になると俺は信じているし、本人も立てる様になってから、人間性の回復に意欲的である。
「となると稼げていなかった俺の仕事に復帰する必要があるな」
俺はマスクを被り、次の仕事への準備を始める。
とあるヒーロー事務所へのカチコミである。
若から会社への貢献度が低い戦闘員を率いて向かってくれと言われた。
つまり使い潰しても問題は無いということである。
例えばギャンブル狂いで借金を抱えた、例えば女癖が悪い、例えば協調性が無い。
そういう奴らを怪人にしても将来的に会社の爆弾になることがある。
若もあんまりこういう社員の切り捨ては行いたくないと言っていたが、会社を成長させるためには見極めなければならない。
「俺含めて10名か……最終判断は俺に任されているが……さて何人合格することやら」
俺は次の仕事の計画書を熟読するのだった。