第48話 超の1日
「おかしい……怪人化薬に関しては細心の注意を払っていたハズだ」
博士は超が大幅に弱体化してしまった責任を取って原因の解明に動いていた。
『博士こちらデータです』
「あぁ悪いねぇ」
ロボット達も総出で今保管している怪人化薬の品質を全て点検する羽目になった。
「エラー品は今のところ無し……超が飲んだ物だけがエラー品だったのか……えっと怪人についての資料が……どこだったか……」
『博士、これこれ』
「あ、そうそうこれだ」
博士は資料を開き、怪人化薬の種類についての記述を見る。
闇市場で流れているようなのは質が悪い。
能力が身につかない事も多いし、成れても動物系の怪人ばかりである。
タイガーがよい例である。
「ただ怪人化の場合基本人の姿は残る。ただ今回は明らかに全身が子狐に変化していた。全身の変化率だけならブラックカンパニーだけじゃなく、前に勤めていた会社を含めても最大だ。怪人適応率は……2%……これだ」
怪人適応率……体がいかに怪人の力を発揮出来ているかを示す値である。
成り立ての怪人は低い傾向で、これが上がっていくと強いというより完成度の高い怪人となる。
普通は50%前後である。
「体が怪人として全く馴染めてない。外人化薬云々よりも体質か。でもこうなると適合したら強くなれる可能性は秘めているし、覚醒をしなくても成長していけばある程度は戦力になれるかも? ……もう少し詳しく調べないといけないねぇ〜」
博士は過去の怪人達のデータを取り寄せたり漁ってきて例外のデータの洗い出しと対処法について研究を開始するのだった。
「ふぁー……朝っすか……」
ソファーの上でバスタオルをかけて眠っていたが、体内時計で朝を感じで起きる。
「よいしょ! よいしょ!」
タオルを畳むのも一苦労。
床に落としてから伸ばし、口に咥えて折り畳んでいく。
「ふぅ……」
「お、超おはよ~」
「おはようございますKさん!」
Kさんが起きると冷蔵庫から牛乳を出してペット用のカップに注ぐ。
注がれたのを私はペロペロと牛乳を飲んでいく。
コップを持つことができないので犬食いの様に顔をカップに突っ込んで飲むしか無いが、最初は凄い屈辱的に思えたが、1週間もするとある程度区切りが付いた。
そのままペット用のトイレに移動してトイレをする。
ザッザッと砂を被せて隠すがこればっかりは慣れないものである。
「よし行くぞー」
「はいっす!」
Kさんに玄関のドアを開けてもらい社員食堂に移動する。
「Kに超ちゃんおはよう」
「おはようっす六姉さん!」
「ういー今日の朝食って何ですか?」
「今日はいなり寿司と色々な具のおにぎり、味噌汁とソーセージに目玉焼きね。超ちゃんははい、お稲荷さんとソーセージ」
「ありがとうっす!」
平皿にいなり寿司とタコさんウインナーが盛られていた。
戦闘員の頃に比べると食は凄まじく細くなった。
前まで食いトレでどんぶり3杯を食べていたのに、今だとお稲荷さん2個で満腹になってしまう。
手で持って食べれないのでこれも犬食いで食べるしか無い。
ご丁寧に僕用に飲水のカップもあり、食べて水を飲んでを繰り返していく。
「ケプ……満腹……」
一応怪人……怪獣なので本当の狐の様にネギ系やチョコレート、加工食品系が食べられないことは無いことが博士の精密検査によって分かっているが、すっかりネギ系は狐の舌が拒絶反応を起こして苦手な食べ物に変わってしまった。
チョコレートは甘いので食べられるが、歯磨きが上手くできないし、口を水でゆすぐしかできないので虫歯になったら恐怖なので甘い物も食べすぎるわけにはいかない。
「ごちそうさまっす!」
「はーい! 今日も頑張っておいで!」
出入り口の自動ドアが偶に反応しないことがあるので、うろうろしてドアが開くのを待ち、外に出る。
「日光が気持ちいいっす!」
ペロペロと毛艶を舐めて整えて隣の会社のビルに入る。
そのまま地下の戦闘訓練室に移動して朝礼を待つ。
「はい、今日も1日頑張っていきましょう」
若さんの号令で1日の業務が始まる。
僕はそのまま地下のプールに移動して犬かきで泳いでいく。
「えっほ! えっほ!」
後ろ足の使い方が慣れてないので泳ぐ事で感覚を掴む。
Kさん曰く溺れてる様にしか見えないらしいが、前足と後ろ足をバタつかせて浮力を確保して泳いでいく。
戦闘員の頃は2時間で4キロ泳いでいたが、今では30分かけて50メートル泳ぐのが精一杯である。
しかも滅茶苦茶疲れる。
数時間ぶっ通しで前までは泳げていたのに、50メートル泳いだら今は息絶え絶え……プールサイドで20分くらい休憩を入れないととてもではないが疲れ果てて泳げない。
「それでもきっと!」
博士が成長すれば前のように過ごす事ができるかもしれないとこの前言われたので、リハビリをする感覚でとにかく頑張る。
プールで3時間ほど過ごし(実際に泳いだのは1時間半ほど)、シャワーを浴びる。
シャワーと言っても手洗い場の水をお湯にしてシンクの中に入って浴びるだけであるが……。
ブルブルと体を震わせて水を吹き飛ばし、若さんが買ってくれた僕用のタオルにダイブして体を拭いていく。
普通のタオルで拭くと抜け毛が酷いことになるので、その対策である。
「よし!」
体がピカピカになったところで昼食を食べに食堂に移動する。
「はい、お待ち」
「六姉さんありがとう!」
今日の皆のメニューは焼きそばであるが、六姉さんが僕のために焼きそばに使っていた豚バラ肉にもやしの炒め物、お味噌汁の中にお米を入れたねこまんま、キューブ状のチーズが皿に並んでいた。
「美味しい……美味しいっす」
僕はそれを食べていく。
綺麗に舐め取り、皿を重ねて端に寄せて片付けるとまた会社のビルの地下に移動して、今度はトレーニングルームに移動する。
そこでKさんが博士に言って作ってもらったフリスビー射出装着で発射されるフリスビーを走って咥えられるように頑張る。
足がこんがらがって上手く前に進めないが、とりあえず走れるようにならないと何も始まらないので、頑張って前後の足を動かす。
時折フォームを確認したりするが、二足歩行の感覚があるのに体の構造上二足が難しく、かといって四足歩行も慣れてないのは違和感が凄い。
時には犬が走っている映像を見ながら走り方を研究したりもする。
「今までマシンを使って体を鍛えていたのにな……」
走ることが上手くできないのでランニングマシンの速度についていくのもやっとである。
ふらっとやって来たKさんに
「能力系はやっぱり難しいか?」
と聞かれ、今のところ体から湧き上がる力は無いと答える。
走り回って疲労困憊で動けなくなったところをKさんに抱きかかえられて博士のところまで運ばれ、ベッドの上に寝かせられて薬を飲まされたり、注射を打たれたりする。
「いたたたた!」
「あ、すまない。筋肉注射で超人薬の原液を濃くした液体を体内に注入しているがどうかな?」
「毎日筋肉痛っす! 寝れば治るっすけど注射後は凄い疲れるっすよ!」
「順調に成長はしているからこの調子で頑張っていこう」
チラリとラベルが見えたが、成長薬って書かれていた。
「あの~博士、それ本当に超人薬っすか? 成長薬って見えるっすが」
「あぁ、多少成長薬を混ぜているんだ。赤ん坊を幼児に成長させる薬だねぇ〜別名老化薬。成長するけど少し寿命を前借りする薬品さ」
「それ大丈夫なんすか!」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと成長を促す効果もあるからねぇ。怪人の寿命は個々によって違う。超は覚醒できなかったら狐の寿命か、人間の寿命か……」
「狐って寿命どれくらいっすか?」
「3年から4年さ! 飼育されているのなら10年生きる個体もいるけど」
「まずいまずいまずいっす! そんなに早く死ぬっすか!」
「大丈夫、それまでに成長できなければ見込み無しだから」
「博士の薬の可能性まだ僕疑ってるんですよ!」
「そんな事言ったら投薬やめるよ!」
「……すみませんっす」
「いやいや、私も熱くなってしまった。申し訳ない」
そんなこんなで博士の診断が終わり、食堂で夕食を食べる。
焼き魚を1匹丸々食べ、Kさんの部屋でお世話になるのだった。