第45話 サーモン尽くし
「いやぁ! 助かったよ! 今日もこんなに早くノルマを超えてくれて」
「いえいえ、仕事なので」
私ことレグレスがグレーサーモンの社長と話しているとすみませーんという声が聞こえた。
「すみませーん、鈍色スーパーの者ですが」
「あー、はいはい! 今行きます」
社長が呼ばれたので向かい、私は何処かで聞き覚えのある声がしたなぁと思い、顔を出してみると、学校でいつも成績トップ10に入っていた黒木じゃないかと思った。
「黒木? 黒木じゃん!」
「え? ん? 誰ですか?」
「同じ学校の前沼!」
「ま、前沼!? は!? え! 怪人になってる!?」
驚愕という表情を浮かべ、私は久しぶりに知り合いに会えた事を喜んだ。
「なんだレグレスさんは鈍色さんのブラック2さんと知り合いだったのか」
「はい、学校の時の同期で……」
「前沼? 私仕事中……直ぐに帰らないと怒られるから……」
「じゃぁ色々話をしたいことがあるからチャットだけ交換しよ!」
「それぐらいなら……」
私は久しぶりに会えた黒木と言う同期の子と会えて興奮するのだった。
「いやぁ1週間助かったよ。はい依頼完了の書類」
「確かに」
「またヘルプを頼むこともあると思うからよろしく頼むよ」
「わかりました! 1週間ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ……でも本当にサーモン購入で良いのかい?」
「前にも貰ってましたし、安く売ってくれるだけでありがたいです! 2尾も買って逆に申し訳ないくらいです」
「いやいや、じゃあ次もまた頼むよ」
「はい!」
というわけでグレーサーモン社での1週間の依頼は無事に終わった。
会社に戻り若さんに依頼完了の書類を提出し、イエローとT1さんと一緒に少し早く社宅にある大浴場で汚れを洗い流す。
「いやぁ〜楽な仕事だったであります!」
「T1さんお疲れ様でした……ずっと私の手伝いをしてもらって……」
「いやいや、あの量を1人でベルトコンベアに移すのは大変でありますから……でも危険度が低くてサーモン食べ放題! しかも休憩挟んでも16時に上がれたから最高の仕事だったであります!」
「男達も楽な仕事で喜んでたよね〜」
風呂に浸かりながら女3人で話す。
「あ〜これから業務報告書書かないとなぁ〜面倒くさいなぁ〜」
「怪人だから私達責任者として書かないといけないよね……初めてちゃんと書くから……」
「頑張ろイエロー……」
私達は頑張ろうと言いながら励まし合う。
「毎回こんな依頼ばっかりだとありがたいでありますが……」
「いつもT1はちなみにどんな仕事をしているの?」
「いつも……色々でありますよ。警備依頼とか謎の野菜の収穫依頼とかから武器工場襲撃しての武器奪取とか他の会社の襲撃とかでありますな」
「案外凄い物騒な仕事が多かった……」
「会社襲撃系が多いでありますよ」
「教育期間が終わったら私達もそういう仕事が回ってくるんだろうな……」
「まぁ怪人の人はまた別の種類の仕事になるらしいでありますよ」
やっぱり1年先輩のT1さん。
色々な事を知っているし、経験している。
「そう言えばレグ、今日なんか知らない人と喋ってなかった?」
「あぁ、黒木のこと?」
「なんか卸業者さんっぽい人……名前は知らないけど」
「多分黒木だ。私と同じ学校で成績優秀な人だよ」
「へぇ……でも怪人じゃなかったよね」
「うん……怪人になっていてもおかしくないと思ったんだけどなぁ〜」
「何かあるんですかね……」
「まぁ連絡先交換したから今度話してみることにするわ」
私達はそんな話をしながら風呂に浸かるのだった。
「買ってきましたデビルサーモン!」
「「おおー!」」
レグレスが仕事で養殖所に行っており、デビルサーモンを買ってきてくれた。
事前に戦闘員Fからレグレスがデビルサーモンを個人用に買ってきてくれると聞いていたので、俺の部屋を貸して料理を作り、皆で食べることになっていた。
「私も良いでありますか?」
「おう、T1もお疲れ様な」
ちなみにメンバーは俺ことKとT1、F、イエロー、レグレスの5人である。
今回養殖所に行っていた男2人も誘ったが、2人でオママの所に行って夜を楽しんでくると言って断られた。
「プリップリだな。良いサーモン買ってきたな」
「見る目あるでしょ〜!」
「お! 子持ちじゃん! イクラ楽しめるぞ」
「え! 本当! やったー!」
料理担当は俺と戦闘員Fで、俺がデビルサーモンを捌いて、スジの子を取り出し、Fがスジの子をイクラに加工していく。
デビルサーモンを3枚におろして身の部分を切り分けていく。
まずは無難にアボカドと調味料で混ぜたポキ。
続いてブロック状に切ってクリームチーズと麺つゆを混ぜたサーモンのクリームチーズ和え。
サーモンを揚げた揚げサーモン。
サーモンのカルパッチョも作ったりしていく。
流石にサーモンだけってのもあれなので胃もたれ対策にあさりの味噌汁を用意したところでFがイクラの準備が出来たと教えてくれた。
本当は醤油で漬ける工程が必要だが、今回は省略してサーモンとイクラの親子丼を作り、わさび醤油をたっぷりとかける。
「へいお待ち!」
ダイニングテーブルに並べられたサーモン料理は美しいオレンジ色の色合いからも食欲をそそる。
「いただきます!」
「「「「いただきます」」」」
本当に美味しいと無言になって食べてしまう。
1尾丸々調理したが、全員勢いよく食べて一瞬で無くなっていく。
更にここでレグレスが持ってきた缶ビールを開ける。
シュポっとガスが抜ける良い音が響き、グビッと一気に飲んでいく。
「くぅ! たまんねぇ!」
「Kさん明日僕らは仕事っすよ」
「分かってるよ。飲みすぎないようにするよ」
酒のつまみとしては最高で、サーモンとイクラの親子丼を食べて空になったどんぶりに、ご飯をおかわりして他のをおかずに食べていく。
「一応焼き鮭用の切り身とイクラの残りをビニール袋に入れておいたから帰りに持っていってくれ」
「「「「はーい」」」っす!」
ひとしきり料理を食べ終わりゆっくりしていると、3人娘達が
「Kさんのお部屋チェックっす!」
と俺の部屋を物色し始めた。
「散らかすなよ〜」
と俺は酒の飲み過ぎで出来上がったT1をソファーに寝かせて、食器を洗っていく。
「エロ本とかあるっすかね!」
「わかんない! でも滅茶苦茶広い!」
「1フロア丸々Kさんの部屋だもんね!」
まず見ていくのはKさんのトレーニングルーム。
流石に会社のトレーニング機材に比べれば数は少ないが、トレーニングジムに有りそうな機材は一通り揃っていた。
サイクリングマシンは無いが、ランニングマシンはちゃっかりあった。
続いてはルームシアターっぽい部屋。
壁に掛けるタイプのスクリーンに、部屋の後にプロジェクターが置かれていた。
「うわ、リッチっすねぇ……」
ちなみに側面の壁には集めたディスクの棚が出来上がっており、綺麗にジャンルごとに並んでいた。
「ちゃっかりアメコミヒーロー物が多いっすね」
「次に洋画のSFで、邦画はドラマ系が多いわね」
「アダルト系が全然ない……」
「枯れてるっすかね?」
「そんな事はないんじゃない? アイドル系のも多少あるし」
「意外にもアニメ系が結構あるっすね」
「あ、キュアキュアの映画だ……孤児院でよく見てたな〜」
続いて寝室。
「普通っすね」
「普通ね」
「普通だね」
シックなシングルベッドに小さな本棚と照明があるだけの部屋だった。
あとは書斎とゲーム機とパソコンが置かれたゲーミングルーム、書類が沢山ある部屋と物置だった。
「思ったよりも普通の部屋ばっかり」
「つまんないっすね!」
「エロ本無かったな〜。電子タイプだったか」
「お前らそろそろ帰れ」
「「「はーい」」っす」
こうして楽しい食事会は終わるのだった。