第44話 戦闘員F VS タイガーマン
イエローとレグレス達が闇養殖所の仕事に行っている間に、戦闘員Fの育成を進めていた。
「F、今日はタイガーさんが非番で予定が空いていたから訓練に付き合ってくれるそうだ」
「というわけだ戦闘員F! 1日よろしくな」
「よろしくお願いします!」
今日はタイガーさんに頼んで戦闘員Fと戦闘訓練をしてもらうことにした。
正直タイガーさんは怪人としてはブラックカンパニー最弱である。
それでも高い統率力と応用力があり、若や他の怪人からの評価は高い。
そんなタイガーさんに戦闘員の状態でもある程度戦えれば、怪人になった時に例え能力の乏しい怪人になっても元のセンスで戦うことが出来る。
正直怪人化は本人の資質もそうだが薬の質と運要素も大きい。
たまたまイエローとレグレスは当たりを引いたが、Fも当たりを引けるかはわからない。
そうなった時に備えておくのも必要だ。
「場所は室内戦……どちらかが戦闘不能になるまでで、室内の物は自由に使って良いとする」
俺がそう叫び、戦闘訓練室のスイッチを入れる。
「それでは開始」
ビーっとブザーが鳴る。
それぞれ別々の場所にワープしたと想定でスタートする。
モニター室で2人の様子を伺うが、タイガーさんは早速武器になりそうな物を物色する。
するとお金の棒金を幾つか見つけて服の袖に仕舞う。
一方でFはフライパンを見つけ、足を音を殺して上の階に上がる。
現在3階にタイガーさん、2階にFという感じだ。
タイガーさんは徐ろにに窓を空けてカーテンを垂らして飛び降りると、下から攻め入ることにしたらしい。
入り口から中に入り、調理室が物色された形跡を見つけると、四つん這いになり臭いを嗅ぐ。
犬の怪人には劣るが、虎の怪人のタイガーさんも人よりも嗅覚が鋭い。
自分以外の臭いがどの様に通ったかくらいは分かる。
そしてタイガーさんはFが2階に居ることを把握すると1階にあるブレーカーを落とす。
一気に室内が暗くなる。
窓がある部屋は外からの光である程度は見えるが、廊下などは暗闇で動きにくくなる。
Fは明かりが無い場所で奇襲されたら困ると窓のある部屋に閉じこもり、窓際で構える。
一方でタイガーさんは薄暗くても活動できる夜目の能力があるので消火器を見つけ、それを持ちながら2階に上がった。
タイガーさんはFが籠もる部屋の扉を思いっきり蹴り飛ばして中に侵入する。
Fは身構えるが、すかさずタイガーさんは消火器をFに向かって投げつける。
Fはそれを避けるが、消火器が爆発する。
タイガーさんの手にはコインが握られていた。
「銭投げ……タイガーさんの十八番だな」
タイガーさんは自身に能力が虎や猫の様な動物由来の能力と肉体の強化というウルフマンの様に影を操ったり、イエローの電気、レグレスのビームやミサイルみたいなのは無かったので、身近な物を武器にする事を努力して会得していた。
その1つが銭投げである。
手に持った銭を手首のスナップだけで投げ飛ばし、対象にダメージを与える。
C級ヒーローくらいなら怯ませるのには十分に役立つ技であり、硬貨はどこでも手に入れることが出来るのでよく使っている。
なんなら手首だけでなく指先で複数枚飛ばす指弾の様な攻撃も出来る。
銭投げによって硬い消火器に穴を空けて破裂させた。
消火器から粉末が飛び散り、Fの視界を奪う。
その隙にタイガーさんは銭投げでFの体にお金を当てていく。
バコバコと体に当たると嫌な音が響く。
Fはマスクを脱ぎ捨てる事で視界を確保し、反撃に出る。
フライパンで飛んでくる銭を防ぎ、拳が当たる位置まで近づいた。
フライパンでガードしながら左手でタイガーさんのボディに殴ろうとするが、タイガーさんは右手でそれをガード。
袖からお金がジャラジャラと落ちるが、両者気にしない。
フライパンでタイガーさんの視界を隠しつつ蹴りを入れようとするが、タイガーさんはそれすらも読み切り、逆にフライパンを押し込む事で、Fの顔にフライパンを押し当てて距離感を見誤らせ、蹴りの威力を殺した。
そのままタイガーさんは握っているFの左手を返すことでFを転ばせると思いっきり蹴り上げた。
『ぐぇ!?』
Fから苦痛の声が漏れ出る。
フライパンも今ので離してしまい、武器を失った。
ゴキっと今の衝撃でFの左腕が関節から外れてしまったらしい。
タイガーさんはFの左手を離し、もう一発顔面に蹴りを入れる。
すると首がグルンと曲がってはいけない方向に曲がってしまい、Fはビクビクと痙攣をして動かなくなるのだった。
ビーっとブザーが鳴り、戦闘訓練終了。
元の広い部屋に戻り、色々ぐちゃぐちゃに曲がっていたFも再生する。
俺がモニタールームから戻ると、Fがしょんぼりしていた。
「残念だったなF。俺になら勝てると思ったか?」
「正直勝てるかもと希望を抱いていたっすけど……強かった……」
「伊達にブラックカンパニー最年長の怪人をやってねぇよ。戦闘経験の差が出た訓練だったな」
「それよりあの銭投げ! すごかったっす! 練習すれば出来るっすか!」
「あぁ、五指あれば出来る技だ。Fが怪人になって強さで悩む様なら教えてやるよ」
「ありがとうございます!」
「K、お前的にはどうだった今の訓練」
「いや~タイガーさん本気でやってるなぁ〜って」
「じゃねぇと勝てねぇだろ。手加減できるほど戦闘員Fは弱くねぇからな」
「おりょ? 褒められたっすか?」
「逆にF! 相手は怪人だぞ? なんでバカ正直に近接戦闘に移行してるんだよ。あの場面は視界が防げるた時点で不利取られてるんだから窓から脱出するのが正解だ。というかなんで待ち構えている段階で窓開けておかねぇんだよ」
「す、すみません!」
「しかも近接戦闘を挑むんならフライパンは無いだろう。大きすぎて邪魔だ。使い捨てくらいの勢いでやらねぇと右手がフライパン握ってたから使えなくなってたし……タイガーさんはそれで蹴りが来るって推測してたぞ」
「あの一瞬でそこまで考えてたっすか!」
「まぁ、蹴りだろうなってのは読んでたわな。多少戦闘経験があればわかるぞ」
「うう……完敗っす……」
「F、今日はタイガーさんにみっちり近接戦闘を仕込んでもらえ。タイガーさんもよろしくお願いします」
「おう、まかせろ」
というわけでFは連続で、タイガーさんと俺は交代しながら全員プロテクターを装着したスパークリングをFがぶっ倒れるまで続けるのであった。
「今日のトレーニングは終了。タイガーさんありがとうございました」
「いやいや、俺も良いトレーニングになった。また時間があれば協力するよ」
「助かります……死人ーそろそろ生き返れー」
「ゼヒューゼヒュー……」
「……だめだこりゃ。タイガーさん後始末はやっておくので業務日報書いてきて良いですよ」
「お、悪いな。じゃぁまた今度」
そう言ってタイガーさんはトレーニングルームから出ていった。
「……正直今日の戦闘訓練Fが勝てると思ってたんだぜ。それがまだ色々足りてないのが露呈したなF」
「ゼヒュー……申し訳ないっす……」
「俺は心配だ。怪人になっても強くなれなかった時にFが心が折れるんじゃないかってな」
「……強くなれないことあるんすか?」
「タイガーさんがいい例だ。あの人は怪人になった当初は強さがあまり変わらなかった。努力してもブラックカンパニー最弱の怪人って言われてる」
「……私もなると?」
「わかんねぇ。こればっかりは運だ。滅茶苦茶強くなるかもしれないし、弱いかもしれない……順調にいけば今月中には怪人になれる。それまで足掻けよ……F」
「……はいっす!」