第40話 夏だ!海だ! 1
ヒーロー協会のとある町の支部では阿鼻叫喚になっていた。
「うちの町の最高戦力であるビートルマンにヒーローとして人気の高かったマジックガールズ……それにC級ヒーロー4人の合計10人が……ぜ、全滅!?」
「目撃者も大勢居ますし、亡骸のDNAからもヒーロー達の遺伝子と一致します」
「どうするのだ! 今回のは小規模の悪の組織を倒すだけの簡単な作戦じゃなかったのか!」
「戦力を分析した奴を呼べ! 責任を取らせるべきだ!」
「それよりもその悪の組織はダメージが与えられたのですよね!?」
そう言う職員が縋るように別の職員に問いかけるが
「いえ……悪の組織側の損害は確認できず……事務に警察が突入しましたが、目ぼしい書類はありませんでした……そして戦った怪人も逃がしています」
「くそったれ!」
とある職員はペンを机に投げる。
「嘆いていても仕方がない。その怪人の写真とかは無いのか」
「街灯の監視カメラに一部映っていました。映像を出します」
そこにはレグレスの姿が映っていた。
「目撃者の証言によると両手からビームを出していたと言われており、ヒーロー達の亡骸の多くもビームで焼き切られた形跡が多数ありました」
「ビームが効かないビートルマンはどうやって倒されたのだ?」
「おそらく近接攻撃による人体の破壊と思われます。やったのはこのロボットみたいな怪人かと」
「本当に怪人なのか? 悪の組織が開発したロボット兵器の可能性もあるのではないのか?」
「その線も捨てきれませんが、そうなった場合、悪の組織はあれを量産出来るということにもなります。他の地域で目撃情報も無いので、その線は薄いかと」
「うむむ……他に情報は無いのか」
「感電死したヒーローも居たのですが、これは別の怪人によるもので、今回襲った悪の組織には怪人が2人居たと、最初の戦力調査とは別の結果だったことになります」
「やはり情報部の責任なのでは!」
「責任問題は後で幾らでもできる。問題は我らの担当エリアのヒーローが質、量共に危険水準を超えてしまっていることだ。まだこのエリアには悪の組織と思われる会社は幾つかあるのだぞ」
「他所もいっぱいいっぱい……新しいヒーローを生み出すしか……」
「悪いが学徒出陣だ。学生ヒーローの数を増やす。カリキュラムを調整しろ」
「しかしそれは最終手段なのでは!」
「今がその最終手段を使う場面だろ!」
こうしてこのエリアでは学生ヒーローが現場に投入されることになるのだった。
「夏だ!」
「海だ!」
「労働っす!」
怪人達が集う海浜浴場にブラックカンパニーの社員達は働きに来ていた。
「今週から2週間、海の家の助っ人を頼まれている。他の悪の組織の人達が慰安として押し寄せてくる。ブラックカンパニーも持ち回りで海の家の管理とライフセーバーとして活動する。他の悪の組織と揉め事のないように稼ぎましょう」
「「「おー!」」」
というわけでブラックカンパニー約60名は海の家やライフセーバーとして駆り出されていた。
「僕らどうした方が良いっすか?」
「お前らは地獄のトレーニングだ。せっかく広い場所が確保できているからな。砂浜走り込み20キロ、遠泳2時間……それが終わったら自由に遊んで良いぞ」
「マジ!」
「気を張りっぱなしも疲れるだろ。2週間はノルマさえ終われば自由にしていいぞ。あと重力ベルトは今回は無しだ。砂と塩水だと壊れる可能性があるからな」
「「「はーい!」」っす」
「来年からはこっち側で働いて貰うからめいいっぱい遊んでこい」
「「「はーい」」っす!」
というわけで3人娘はトレーニングと遊ばせて、俺は海の家の準備を始めるのだった。
「Kさん焼きそば3つ、焼きイカ1つ、焼きとうもろこし3本」
「あいよー」
俺は海の家の料理担当で、鉄板の上に食材を広げながら、料理を作っていた。
「大盛況ズラね!」
やって来たのはペココ総帥のところの魚の怪人ボニートさん。
よくお世話になっている方である。
「ボニートさんお久しぶりです。最近援軍に行けなくて申し訳ない」
「いやいや、他のブラックカンパニーの怪人や戦闘員を派遣してもらっているから大丈夫ズラよ」
「今日は慰安旅行ですか?」
「ペココ総帥のお孫さんが海に行きたいって言ったから会社が休みになったズラよ。で、社員達もせっかくだからって連れてきてもらったズラ」
「良かっだゃ無いですか」
「そうズラ! ところでそっちは大丈夫ズラか?」
「大丈夫とは?」
「カラーコミュニティと敵対したって聞いたズラよ。一応ペココ総帥も嫌々だけどカラーコミュニティに参加させられている立場ズラ……」
「あぁ、別にボニートさん達と敵対する気はありませんよ。依頼もいつも通り受けますし。ただ俺達をハメようとした馬鹿が居たので壊滅してもらいましたが」
「カラーコミュニティでも話題になってたズラよ。やっぱりKのところがやったズラね。グルト社襲撃」
「あれ? カラーコミュニティの方ではバレてないんです?」
「バレてないバレてない。というかカラーコミュニティでも取引先の銀行を囮に使ったグルト社の評価は割れていたから壊滅したことで良かったと思っているグループもあるくらいズラ」
「でもここだけの話……カラーコミュニティって泥船じゃないですか? 学校襲撃やった時点でだいぶアレですよ」
「そうなんズラよね。一応半数がラブプラネット憎しで動いているズラが、残り半数は巻き込まれた感じズラ。所属しないと襲うと脅されているから従っているだけで、過激派が力を失えば瓦解すると思うズラ」
「捨て駒にされないように立ち回ってくださいよ。俺いやですよボニートさんが死ぬの」
「俺も嫌ズラよ。結婚したばっかりなのに……」
そのまま結婚した奥さんの話になり、俺は料理を作りながら話す。
「そう言えば俺に会いに来ただけですか? ボニートさん」
「話に熱が入ったズラ。焼きおにぎり5つとイカ焼き2つ頼むズラ」
「ういー、まいど。お金はレジでお願いします」
「わかったズラ!」
こんな感じで料理を作っていると知り合いが来て喋ることがあった。
「スペシャルマッチだよ〜S級怪人のマッチョカスと対決してみたい戦闘員や怪人募集だよ!」
怪人達が集まる場所なのでこんな野良試合が行われることもしばしば。
この浜辺で殺人はご法度なのでボコボコにされることはあれどトドメを刺されることはない。
「イエローあの怪人と戦ってみない?」
「S級怪人だよ……今の私達じゃ倒せないって……」
「やってみなくちゃ分からないよ! はいはーい! 私参加します!」
というわけでレグレスがリングに上がる。
僕達は少し離れた位置で見守ることに……。
「あら、ずいぶんとメカメカしい子が来たわね」
「名前とは裏腹にずいぶん綺麗なお姉さんが……」
「あら嬉しい。ルールは簡単よ。私は能力を使わないけどあなたは使って良いわ。ギブアップ、気絶した場合とレフリーストップが入ったら決着ね。私に勝てたら10万円、負けたら試合料の1万円を支払う……良いわね」
「はい!」
「じゃぁレフリーちゃんお願い」
「それでは始めます……レディファイト!」
「いきます!」
そう言うとレグは指を射出して四方八方からビームを放出する。
しかし流石S級怪人、それを何事も無いように防ぐ。
「良いビームね! 浴び続けたら肌が焼けちゃいそう! まだ何かあるでしょ!」
煽るマッチョカスにレグはミサイルを大量に発射するが、マッチョカスは拳を振るうとミサイルが次々に爆発していく。
横で見ていたイエローが
「凄い! ミサイル全てに拳を当てて防いでいる!」
そう叫ぶ。
「そろそろこっちからも行くわね!」
マッチョカスが一気にレグに距離を詰めると、レグは待ってましたとばかりに胸部と腹部の太いビームを発射するが、マッチョカスはそれを両手で掻き分けながら突き進む。
慌ててレグが飛行しようとすると、飛んだ瞬間にマッチョカスもジャンプして上を取ると、拳を振り下ろし、一撃でレグを砂浜に沈めた。
レグは目を回して気絶し、マッチョカスが勝つのだった。