第38話 簡単のはずだった警備依頼
「Kさん! ヒーローがわらわらと!」
「職員を避難させろ……全く! 最近は楽な依頼が地雷になってやがる!」
俺達はヒーロー達の襲撃を受けていた……。
時間を遡ること5時間前。
「イエロー、レグレス。仕事が入ったぞー」
「お? どんな仕事ですか?」
「あれ? Fは行かないの?」
「Fは怪人になれるまで仕事は無しで徹底的にトレーニングするから、今日は3人で仕事をするぞ」
「了解〜」
「わかりました!」
「ちなみに仕事内容は悪の組織の警備だ」
「悪の組織の警備? そんなの非番の人達にやらせれば良いのでは?」
「それが出来るのは中堅以上の悪の組織だ。小さい悪の組織だったりすると怪人が1人だけなところもある。そんな怪人が出払ってしまったら基地を守る人員が居なくなるからな。そういう時に助っ人を頼む事はままある」
「でもそういう依頼なら料金は高く無さそうですね」
「実際安い。だがこういう依頼でコネを作っておけば割の良い仕事に呼ばれたりするから大切なんだぞ。まぁ簡単な仕事だから控え室で待機しておけば大丈夫だ。時間はかかるが他所の非番の戦闘員と交流してみろ」
「「はーい」」
というわけで今日担当する小悪魔カンパニーにワープをして中に入った。
「今日はよろしくお願いします」
「助かります! うちみたいな小さい会社だと警備員の確保もなかなかできなくて……でもよかったのですか? 怪人を2人も来ていただいて」
「怪人になりたてで研修中なんですよ。一応職歴の長い私こと戦闘員Kが代表ですが、実力ある新人なんでヒーローに襲われても守り切りますので」
「助かります! うちの怪人が前のヒーローとの戦闘で毒をもらってしまい、解毒治療に時間がかかってまして……今日だけでもよろしくお願いします」
「待機場所は何処の方が良いですかね」
「応接室を貸しますのでそこでお茶やお菓子でも食べて時間を潰してください」
「わかりました」
というわけで応接室に案内され、そこのソファーに座ってお茶を飲んだり、お菓子を食べたりする。
ちなみに2人は非番の戦闘員とお喋りを楽しんでいた。
小悪魔カンパニーは戦闘員や怪人含め全員女性で統一していた。
社長の方針もあるが、戦闘員にパパ活や出会い系のサクラ、結婚詐欺をさせることで金を稼いでいるらしい。
「ねぇブラックカンパニーの人、私と今晩遊ばない? 1発1万で良いわよ」
「あはは、間に合ってるよ……それよりもイエローとレグレスの相手をしてやってくれよ」
「ええ〜えっと……名前聞いても?」
「Kだが?」
「Kさんとお喋りしたいなぁーって」
「営業の練習か?」
「そうそう! そんな感じ〜で、夜駄目?」
「だーめ、君非番なんだからゆっくり休んだ方が良いよ」
「ちぇー」
見え見えのハニートラップである。
時間外で交わったりしたら口が緩くなり、情報を引き出そうとするのは結構どこでもやる手口である。
俺みたいにブラックカンパニーの機密情報を色々知っている立場だとそういうのに敏感になる。
これが何も責任が無かったら遊んでも良いんだがな……。
イエローとレグレスの方を見ると楽しそうに戦闘員の方達と喋っていた。
相性的にも今日の依頼は2人にも居心地の良い依頼だろう。
流石に同じ女性かつ、怪人の人にはハニートラップは仕掛けないだろうしな。
俺は社長さんに言って自分達の昼メシをコンビニで買ってきますと言い、コンビニに向かうのだった。
コンビニに入ると、イートインコーナーで何処か見覚えのある顔を見つけた。
俺はスマホでヒーローの紹介ページを探すとヒットした。
(A級ヒーローのビートルマンにB級ヒーローグループのマジックガールズ……人気ヒーローがどうして?)
6人達の視線の先には小悪魔カンパニーのビルを見ていた。
(……ちっ……厄介なことになりそうだな)
俺はおにぎりを多数買うと、すぐにビルに戻り、イエローとレグレスにすぐに昼食を食べるように指示をだし、社長さんにヒーローが近くで張り込みをしていた事を話した。
「A級ヒーローが! うちの戦力じゃ勝てませんよ!」
「分かってます。一応逃げる準備を進めておいてください。俺達で迎撃しますので……他に拠点はありますか?」
「今は使ってない拠点がありますが」
「A級ヒーローと対峙することになりますので基地が壊れることは覚悟しておいてください」
「勿論……今出払っている子達にも避難指示を出しておきますね」
「杞憂だったら良いんですがね」
そう言っているとピンポーンとチャイムが鳴った。
「俺が見てきます」
そう言って俺が入り口に向かい、出ると宅配員をした人物が立っていた。
「すみません小悪ビル宛に荷物が届いています」
「はい」
ただの宅配員だと思い、俺がサインを書こうとするとボールペンを差し出してきた宅配員がいきなりナイフで襲いかかってきた。
「ちっ! 宅配ヒーローキャリーマン!」
「あんまり知名度無いヒーローだと自負していたが知っていたか!」
俺は入り口の警報ボタンを押す。
そして叫ぶ!
「敵襲!」
俺は宅配ヒーローの荷物ごと蹴り飛ばすとビルの中に走った。
後から
「奇襲失敗! 武力制圧に移行!」
と宅配ヒーローが叫んでいる。
「おじさん! 敵襲!?」
「ヒーローが最低7人。A級も混じってる。イエロー、社員達の避難済ませたら戻ってきて撃退するぞ。レグレス! サポートするから暴れてこい」
「「了解!」」
俺はマスクを被るとヒーロー達に対峙するのだった。
「悪の組織って言っても弱小組織でしょ? それにヒーロー10人も投入必要あるのビートルマンさん」
「無い……と言いたいが、本拠地に乗り込む以上何があるか分からないからな。警戒して損は無いだろう」
すると通信が入る。
『奇襲失敗、武力制圧に移行する!』
「キャリーマンが失敗したっぽいわね! マジックガールズ出動! ちゃっちゃと悪の組織を壊滅させるわよ!」
「「「「「おおー!」」」」」
ヒーロー側が入り口近くに集まり、突入のタイミングを計っていると、入り口から人影が現れた。
UFOの様に浮かび、虹色にゴーグルが光る。
誰かが言った
「ジ◯ング?」
その瞬間にレグレスのお腹が光る。
ジュワ
腹部のビーム発射口が光った瞬間にマジックガールズの黄色担当が下半身を残して消失した。
残された下半身は腰が抜ける様に倒れるとジタバタ痙攣した後に動かなくなる。
「レモン!?」
「レモンが一瞬で!?」
「ビームに気をつけろ! 当たれば一瞬で殺されるぞ!」
ビートルマンがそう叫ぶ。
レグレスのゴーグルが七色に光り、一気に浮上する。
ヒーロー達の頭上を取ると両手を射出して色々な角度にビームを発射し始めた。
「そんなのありかよ!」
ヒーロー達は逃げ惑うが、ビートルマンは自慢の甲羅でビームを弾く。
ビームが効かないと分かると、他のヒーローをビームで追いかけながら、スカートの中からミサイルを30発発射する。
ビートルマンに大量のミサイルが命中するが、効いている様子は無い。
「効かねぇよ!」
「あ、お前終わりだからな」
「え?」
ドゴンと真横に近づいていた戦闘員Kがビートルマンの甲羅ごとぶん殴ると、甲羅が粉砕されて、拳がビートルマンの体をえぐり取る。
右腹部から胸部が吹き飛び、臓物をまき散らしながらビートルマンは絶命。
「ビ、ビートルマンが殺られた!?」
「うわぁ!?」
ジャワっと逃げ惑っていたヒーロー達を次々にレグレスは捕らえ、ビームで体に穴を空けていく。
「イエロー戻りました!」
「イエロー、残りを倒すぞ」
「はい!」
イエローが到着すると逃げ惑っていたヒーロー達が地上からイエローが襲いかかり、触れられた瞬間に感電して絶命していく。
最後に残ったヒーローもレグレスのビームが体を貫いて殲滅に成功する。
「目撃者が多いな。撤退するぞ」
「「はい!」」
俺達は小悪魔カンパニーの人達が逃げた場所にワープするのだった。
「いやぁ助かりました! 必要な物は回収する事が出来ましたし、人的損害が0で」
「いや、災難でしたね。ただ元の基地は警察達が来ているので使えないと思いますが」
「それは仕方がありません……幸い立て直しは可能な範囲の損害ですので」
「じゃぁ依頼完了のサインを」
「はい、ありがとう御座いました。またよろしくお願いします」
こうして簡単なハズの警備依頼はヒーローとの戦闘で幕を下ろすのだった。