第32話 ヒーロー協会
日本ヒーロー協会……それは日本の治安を守る組織である。
警察や自衛隊では対処できない悪の組織や凶悪犯罪に国から権限が与えられた暴力装置……それがヒーロー。
そんなヒーロー協会では近年のヒーローの質の低下が議論されていた。
「このままでは、日本は悪の組織によって支配されるぞ!」
「そうなれば日本という国家は終わりだ」
議論は白熱しているが、有効的な手段がなかなか挙げられなかった。
「悪の組織が非合法な方法で技術開発を進めているのはわかる。それに追いつくには資金と人員がより多く必要になる。しかし……怪人の質が近年急激に上がり、ヒーローの質は一定……その差が現在のヒーロー達の苦境を表しています」
「ヒーローを捕まえ、怪人とのハーフを産ませることでより質の高い怪人を生み出しているとも聞く……しかもそういった生産拠点は日本国外にも多く存在し、我々協会が手出しできなくなっている」
「ヒーローの実力を上げるためのサポートアイテムの開発にも力を入れている……いや、悪の組織の技術を転用して開発しているが、それでもだいぶ厳しいのが現状だ」
うむむ……と役員達は黙ってしまうが、1人の男が発言する。
「もうこの際四の五の言っていられません。いったん倫理観は取っ払いましょう」
彼はNH計画(ニューヒーロー計画)と称してプランを提示した。
そこには既存のS級ヒーローの細胞から試験管ベイビーを作り、ヒーローへの適性が高い超人を創る計画と書かれていた。
「わ、我々に悪の組織と同じ事をやれと言うのか!」
「こうでもしないと悪の組織の拡大を止めることができない! ヒーローを超えるスーパーヒーローが我々には必要なのです!」
役員の1人は熱弁する。
事実彼以外有効的な手段を表明できない。
ヒーローを育成する学校の拡大やヒーローを賛美する世論誘導。
補助金を出してヒーローへの資金援助……やるべきことはやって来た。
しかし、結果は悪の組織に負けそうという事実である。
悪の組織が一枚岩でないので辛うじて拮抗という状態であるが、年々被害が大きくなっているし、悪の組織が学校を襲い始めた事でなりふり構っていられなくなってきていた。
「とりあえずNH計画に予算を投入し、S級ヒーローを増やす事、S級ヒーローに悪の組織の拠点が判明次第襲撃させること、ヒーローの対象年齢を今までの12歳から10歳に引き下げること……以上でよろしいか」
「いや、あとはヒーローへの素養が低い者を戦力化するための魔法少女的なヒーローを増やすべきだ」
「しかしあれは材料が……」
「それこそ試験管ベイビーを使えば良い。クローンよりもしっかりとした人間に人権をだ!」
魔法少女的なヒーローに配られている変身バンド……それには秘密がありなかなか増産に至れない理由があったが、クローンを大々的に使うと決めた以上、倫理観は取っ払った。
協会の会長もGOサインを出し、ヒーロー側はなりふり構わない戦力増強策を繰り出すのであった。
「トホホ、今月の給料がさがっちゃったっす……」
「銀行強盗が失敗した以上覚悟していたけど……基本給だけだと今月はあんまり使えないねぇ〜」
「なんかごめん、私だけ先に怪人になったから給料高くて」
「いやいや、その代わりにご飯おごってくれるからチャラっすよ!」
「そうそう! こっちが悪いわ! 奢ってもらって」
私ことイエローは戦闘員FとMの2人と一緒に闇市場に来ていた。
今日は給料が入って最初の休日であり、美味しい食べ物を食べるために闇市場でぶらぶら歩いていた。
「ねぇ見て見てイエロー! F! 孔雀料理だって!」
「孔雀っすか……中国の料理で孔雀を使うのがあるって聞いていたっすが……ここも中華料理っぽいっすね」
「ここにしない?」
「ちょっと待った! M! 今日はKさんが絶賛していたとある料理を食べるんだから! 他の料理はそれからにしようよ」
「う! それもそうね……」
闇市場を歩いていくと怪獣屋という料理屋に到着した。
この店は文字通り怪獣の様な見た目の食材を使っており、その中でもオオサンショウウオの定食が絶品だと教わっていた。
値段はお高く1食1万と高いが天然記念物のオオサンショウウオを食べられるというので人気のある店だった。
ただこの店のオオサンショウウオは養殖しているので、天然物では無いのだとか……。
お店にはワニの剥製が置かれており、それが看板代わりになっていた。
並ぶこと30分。
店内に入ると美味しそうな匂いがプンプンする。
怪獣みたいな見た目の料理が多数なのでウミガメやワニ、スッポン、コモドドラゴンなんかの料理も出している。
私達はオオサンショウウオ定食を頼み、20分ほど待つと、オオサンショウウオの料理が運ばれてきた。
ステーキと煮物とスープにご飯である。
ステーキから食べるが、これは塩味で歯ごたえがあり、食べるのに一苦労するが、味は悪くない。
白身魚と牛肉を合わせた様な味だった。
続いて煮物を食べるが、これがKさんが絶賛していた理由がよくわかる。
ステーキは歯ごたえが凄かったが、これはとても柔らかくてプリッとした食感……歯ごたえ的には前に食べたホルモンに近い歯ごたえがする。
何より皮が美味しい。
煮られて味がしみしみの皮は身より口の中でほろほろと崩れ、ご飯が進む進む。
そしてスープはオオサンショウウオの尻尾と頭で出汁を取ったとメニュー表に書かれており、さっぱりとした味わいがする。
何よりほのかに柑橘系の仄かな香りが口の中に広がる。
ステーキや煮物は焼いたり煮たりしている間に匂いが飛んでしまうが、スープにすると匂いが残るのだろう。
「オオサンショウウオの山椒ってこの匂いからなのかな?」
「じゃないっすか? ネットで体を切ると山椒の匂いがするって書かれていたっすよ」
「へぇ~……おじさんが絶品って言うだけあって滅茶苦茶美味しいわね」
こうして私達はオオサンショウウオの定食を満喫するのだった。
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用語解説
·変身バンド(ヒーローアイテム)
素養が低いかったり、年齢的に素質が開花していないヒーローに対して配られる変身アイテム。
魔法少女とかに出てくる宝石みたいなアイテムのそれ。
中身は人間が使われており、犯罪者や怪人を捕まえると変身バンドに加工し、ヒーローの強化アイテムにされる。
今回の話ではクローンを使うことで変身バンドの量産を更に増産するべしという話。