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第3話 若からの呼び出し

 ある日若から呼び出しがあり、俺は総領室に来ていた。


 コンコンコンコン……ドアを4回ノックする。


「入れ」


「失礼します」


 見知った仲とは言え社長と部下、最低限のマナーは守る。


 若の容姿は銀髪をオールバックにしており、灰色のスーツを着て、いかにも若いヤクザと言う感じである。


 細目なのが若干の胡散臭さが醸し出されても居るが。


「まぁ座れ」


「はいはい。俺に指名の依頼でも入りましたか?」


「うーん、仕事と関係はあるけどちょっと違う……Kお前に新人教育をやってもらおうと思ってな」


「新人教育って戦闘員の現場教育は今に始まったことじゃないですが」


「あー、いや、今回は怪人適性の高い子だ。うちとしては将来の幹部候補として育てたいんだが……K、お前の実力を把握しないで幹部になられると困った事になるのは前の事例でわかるだろ?」


「あーサーモンレッド君か。俺の意見ガン無視で仕事始めて死んだ新人……尻拭い大変だったので覚えてます」


「この業界死ぬ事は普通だが、会社としては長く人材を使いたい。しかも怪人がポンポン死なれると困るんだよ」


「そりゃそうっすね」


「だから今回当たりを3人も確保できたから3人育ててくれ。どんな方向で売り出すかは任せるから」


「うっす。じゃあ指導方針も自由で?」


「最終的に怪人として一人前にできればそれでいい。明日から出社だ。一応3人のプロフィールだ」


 若は3人の履歴書を俺に見せてきた。


「藤原勇気……前沼リサ……アリス·スチュワート……なんですか、全員女でアリスは最終学歴小卒って」


「簡単に経緯を話すと藤原……今後戦闘員Fと前沼……戦闘員Mは幼少期に誘拐されて裏社会の中学を卒業したエリートだ。成績はそこまで良くは無いが、一定の質は担保されてるし、中堅の我が社ではなかなか得難い人材だから将来性込みで確保した。アリス……戦闘員Aは違法難民でお世話になってる孤児院で人身売買してたから引っこ抜いてきた。怪人適性SSの超逸材だ」


「そりゃまた……育て甲斐の有りそうな子達だ」


「だろ? やってくれるか」


「できる限りの事はします。下っ端なんで」


「Kが下っ端と思っている奴はこの会社には居ないがな。怪人になれなくても十分に幹部だよ君は」


「そう言っていただけるとありがたいです。話は以上で?」


「ああ。あと今後の仕事も教育優先で回す。いいかげんKにどっぷりの幹部や戦闘員達にも負担を分散させないとKに何か起こったら困るからな」


「確かに……わかりました」


「それじゃあ頼むわ」


 俺は履歴書のコピーを貰って総領室を出るのだった。







 この会社……いや、悪の組織では基本普通の名前は捨てさせられる。


 うちの会社でも俺がKと呼ばれているように戦闘員は苗字か名前のイニシャル1文字、これにダブりが居た場合区別するために数字が後ろに付く。


 戦闘員Z1が良い例だ。


 彼は先任戦闘員にZが居たからZ1となっていた。


 怪人になると新しいコードネームが与えられるのである。


「Kお疲れ、兄さんから?」


「うっすバニーさん。新しい業務で新人教育を任された」


「どんな子か見ても良い?」


「あぁ、良いですよ。ほら」


 履歴書のコピーを回す


「へぇ裏中(裏社会中学校の略)出身が2人も! 長期のすり込みをするから殺人への忌避感が無いのが魅力的だよねあそこ」


「まぁ怪人になれるかどうかは殺人への忌避感で変わってきますからね。どうしてもヒーローとは裏で繋がっている場合を除いて殺し合いですし……あっちはこっちが液体に変わるのを良いことに本気で倒しに来るからな」


「怪人化薬の欠点よね……死体が液体でしか残らない。博士が液体になった怪人の復活できないか研究しているからそれが実ってくれたら良いけど」


「大手企業はそれができるから大手なんですよね……人材の消耗スピードが段違い。まぁ液体になった怪人を回収して逃亡できる特殊技能持ちの人材も必要になりますけど」


「そうなのよねぇ……」


 バニーさんは怪人になってからは基本事務仕事をしている。


 怪人になった影響で頭の処理速度も上がり、だいたいの事務仕事を処理しているし、現場に出られても創業者の一族なので万が一が起こっても困るため、本当に人手が足りない時にしか現場には行かない。


 その分事務仕事や給料計算等をしてくれるので、誰も文句は言わないが。


「バニ〜お腹空いた……」


 ぴょこぴょこと白衣を着た緑髪の子供っぽい人物が扉から出てきた。


「博士、またバニーさんに飯たかってるのか?」


「おや? Kじゃないか! 丁度いい、私に飯を何か作ってくれ!」


「お料理ロボットはどうしたんです? 前に博士が作ってこれで飯には困らないってはしゃいでいたじゃないですか」


「自我が芽生えてロボット達にストライキ起こされた。労働環境が改善されるまでストライキを続けるだそうだ」


「何やってるんですか……待っててください何か作りますから」


「やった! Kの料理は美味いからな!」


「あ、私も何かついでに作ってよK」


「冷蔵庫見てきますからちょっと待っててください」


 先程から喋っているのは博士。


 普段はもじゃもじゃの髪に瓶底メガネで色気も何も無い子供体型の女性だが、髪を整えてコンタクトにすると凄い美少女に変貌する……生活力は皆無だし、戦闘員をモルモット扱いするので怪人のメンバー以外からは距離を取られているが、博士が加入したお陰でこの会社はここまで成長することができたし、我が社の怪人化薬を作ったのも彼女。


 ただ博士がやるのは大抵気まぐれなので何を作ったり改造したりしているかは博士の気分次第……大企業は博士の気質を嫌って首にされ、弱小だったうちが拾うことができたのだが……。


「冷凍の米に桜エビ、焼肉の残りの肉に紅生姜、卵も少しあるな。こりゃチャーハンできるな」


 まず米をレンチンし、溶き卵を作っておき、桜エビをフライパンでからいりする。


 肉を1口サイズに切ってフライパンに油を投入し、肉を軽く焼いたら、レンチンした米を投入し、溶き卵、紅生姜も投入。


 調味料で味付けしたら即席チャーハンの出来上がりである。


「パラパラしていて美味しい〜」


「相変わらず器用ねKは」


「自炊するのが楽しくて……簡単なのだったら作れるんですが、どうしても男飯って感じになって」


「博士はKの男飯って感じが好き! 今度は博士の好物のハンバーグ作ってよ!」


「じゃあ博士、戦闘服のポケット拡張できませんか? 博士の道具をしまうの亜空間袋からいちいち取り出すのが面倒くさくて」


「うーん、考えておく!」









「じゃあバイバイ! 仕事頑張って!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら博士は研究室に戻り、バニーさんも事務仕事に戻った。


 俺はこの後は暇なのでぶらりと散歩に出かける事にした。


「普通に暮らそうと思えば暮らせるけど……」


 ヒーローに悪の組織が普通に居る世界だ。


 一見平和そうなこの国でも色々な組織が暗躍している。


 それを守るための様々なヒーローが所属するヒーロー協会があったり、悪の組織側にも最低限の利害調整を行う悪人協会があったり……。


「あっと……」


 俺はそんな事を考えていると誰かとぶつかってしまった。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 凄い荷物を抱えた少女が俺に謝ってくる。


「大丈夫ですけど荷物凄いですね……良ければ運びますよ」


「ほ、本当ですか! でも悪いですよ」


「いえ、散歩していただけなので」


 俺は散らばった荷物を纏めるとヒョイッと荷物の袋を持ち上げた。


「ありがとうございます! 助かります」


 人助けもたまには悪くないなと思いながら荷物を運ぶと事務所近くのマンションだった。


「ありがとうございます」


「いえどういたしまして」


 普通に挨拶して帰ろうとした時、なぜかドアが開かない。


「ん?」


「あの〜一つお尋ねします……ブラックカンパニーの社員さんであってますよね〜」


 殺気がしたので俺は天井に跳躍で張り付く。


 俺が居た場所を氷柱が飛んできて、ドアに突き刺さっていた。


「あれ? 戦闘員の方だと思ったけど変身できるタイプの怪人さんだったかな?」


「お前、ヒーローか」


「ええ、ヒーローアイスフラワーです。まぁ苦しまずに逝ってください」


 ビュンビュンと氷柱が俺めがけて飛んで来るが、俺はその氷柱を拳で粉砕する。


「え!?」


「あ~実力差も分からない雑魚か。いやまぁ俺が弱く見えるだけか?」


「ならこれで「遅い」」


 ドンと首に一発手刀を振り抜く。


 するとヒーローと名乗った少女は膝から崩れて気絶してしまった。


「たまに居るんだよなぁ闇討ちしてくるヒーローが。と、捕獲銃っと」


 気絶していれば普段は抵抗できるヒーローも捕獲銃に捕獲されてしまう。


 俺は凍りついて開けなくなったドアを放置し、窓から少女の部屋を脱出するのだった。



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