第26話 イエローとの戦闘訓練
私ことイエローは再び博士の研究室に移動して精密検査を受けていた。
「耳みたいなのは動かせるのかい?」
「はい、自由に動かすことができます」
耳みたいなのは第三の腕みたいに自由に動かすことが出来る。
ツルッとしていて触り心地も良い。
「こう、こう内側からエネルギーを放出するみたいな事はできるかい?」
「やってみます!」
私は体の内側からエネルギーを放出する感覚で体に力を入れると……
バチバチバチ
電気が部屋を駆け巡った。
「電気系の能力っぽいねぇ……これを掴んでくれ」
博士がコードのついた棒を渡してくる。
「博士これは?」
「電気の電流や電圧の測定機だ。これを掴んで電気を流してみてくれたまぇよ」
博士にそう言われて私は電気を流してみるとメーターがぐんぐん上がる。
「ふむふむ100万ボルトに500アンペアか……5億ワットにもなるな……」
「凄いんですか?」
「1分間この電力を放電した場合、電気代は25万になる。1億ワットの電力でアニサキスを殺す機械があるが、その5倍の威力になる……直撃すれば普通の人はお陀仏だねぇ」
「某電気ネズミのキャラクターよりボルト数が高いと思うんですけど」
「そうだねぇ……確かに高いが、放電する場合空気中で分散してしまうから君の電力で相手を致死に至らせるには2mってところかな。感電させて動けなくさせるだけならもっと射程は長くなるけどねぇ」
「あれ? 思ったよりも弱い?」
博士はチッチッチと指を左右に振る。
「いやいや、電気は様々なエネルギーに変換することが出来る。道具次第で幾らでも化けるぞイエロー君!」
博士はゴソゴソとガラクタの箱をあさり始めると銃を渡してきた。
「例えば避雷針を発射する銃だ。これを当てた相手は避雷針となりこれに目掛けて電気が飛んでいくんだ。なぜか電気の空気抵抗も少なくなるからこれを落雷のある日に敵に当てたら敵が通常の雷よりも高電圧が当たって黒焦げになったから御蔵入りになったが……」
「イエロー君には相性が良いだろう」
「他にもこんなのがあるぞ! リニアシューズ! 電気を流すことでリニア新幹線の様に高速移動することができるぞ! 使用するのに外付けの発電機が大きくなりすぎて御蔵入りになったが、使えるだろう」
どちゃっと私に渡される。
ありがとうございますと博士に言ってその他の精密検査を受けていく。
全体的に身体能力も向上し、神経の伝達速度も上がった為に高速に対応出来るようになったと説明された。
あと両耳は腕より力があり、怪人になった事で100キロの重りを片手でなんとか持ち上げられるが、耳は250キロまで持ち上げる事が出来るみたいだ。
「あとは戦闘訓練室で色々試してみてくれたまぇ!」
そう言われて2時間に及ぶ精密検査は終わるのだった。
場所を移動して戦闘訓練室。
トレーニングしていたKさんやF、Mに新しい私を見てもらう。
「格好いいじゃんA……じゃなかったイエロー!」
「見違えるほど大人になったっすね!」
「中身はそのまんまだけどね……」
FとMにそう言われ、戦闘訓練の準備を整える。
リニアシューズと雷針銃を装備し、おなじみの戦闘服に身を包む。
怪人になったのでコスチュームを新しくすることが許されているが、とりあえず今はこのままでいく。
戦闘訓練の内容は河川敷にC級ヒーロー1体、勝てれば数が増えていく形式だ。
「よしじゃあ始めるぞ」
Kさんがスイッチを入れて戦闘訓練が始まる。
私は体に電気を流すとシューズが青く光り、氷の上を滑るようにスムーズに加速していく。
リニアと言っているが、電力で反重力を発生させているが近いかもしれない。
最初500メートルくらい離れていたヒーローに対して私は一瞬で近づいてラリアットしながら放電する。
するとヒーローの色が灰色に変色して戦闘不能になった事がわかる。
「あれだけ強かったヒーローを一瞬で!」
「す、凄いっす! 滅茶苦茶強くなってるじゃないっすか!」
モニター越しに観ていた俺達3人は、イエローの戦闘に歓声を上げていた。
ただ最初のヒーローを倒して勢いが止まらないで橋に高速で突っ込み、イエローも1回重傷を負っていたが、戦闘訓練室なので少ししたら回復し、数分ほど新しいシューズの調整をしてからリスタートした。
今度はヒーローの数が増えて3人。
イエローはヒーロー目掛けて銃を発射した。
ヒーローはそれをマントで防ぐが、マントに針が刺さる。
ピカっとイエローの耳がヒーローを指さす様に突き出して放電すると、雷の様にヒーローに向かっていき、50メートルは離れていたヒーロー達は感電して動きが一瞬とまる。
一気に距離を詰めて近づいたイエローは3人のヒーローを一瞬触れると、ヒーロー達は灰色に変色するのだった。
また3人のヒーローが出現するが、イエローは今度は近接格闘の構えを取り、シューズで高速になった蹴りを叩き込んだり、耳に付いている突起を首に差し込んで殺したり、殴ってきたヒーローの拳を掴むと放電して逆に倒してしまうとやりたい放題である。
「無茶苦茶じゃないっすか!」
「怪人ってこんなに強くなれるものなの!?」
「道具の力を借りているとはいえここまで強くなれるのはなかなか無いな。実力的にはA-の怪人ってところか?」
「これでA-なの?」
「Sだと思ったっすが……」
俺はマイクを付けてイエローに話しかける。
「次の相手で俺が出る。調子に乗るのも大概にしろー」
と軽口を叩きながら俺はモニター室から出て戦闘訓練室に飛び込んだ。
「Kさん! 今の私は強いですよ!」
「怪人になったばかりの全能感って奴だ。格下には滅法強いタイプだなイエロー」
俺が次の言葉を言う前にイエローが突っ込んできた。
まずはラリアットから。
俺はそれをブリッジして躱すとイエローはターンして今度は蹴りを放ってきた。
「弱点その1、シューズの制御に慣れてないから動きが大雑把」
蹴りに合わせて俺も蹴りでイエローを逆に吹き飛ばす。
「弱点その2、放電するのに僅かなタイムラグがある。こちらから一瞬触れても反射的に放電することができない」
イエローは銃を取り出して俺に針を発射してくるが、俺は全て避ける。
「雑魚には当たるが、強い怪人やヒーローには銃は効かねぇぞ」
俺は地面を踏み込んで、イエローに一瞬で距離を詰める。
イエローは長い耳を前に突き出す事で俺の蹴りを防ぎ、耳を地面に突き刺す事で支柱にし、体を持ち上げて前に一回転。
そのまま俺に抱きつくと放電を開始した。
「これで! ……え!?」
「常人が死ぬ電流が500アンペア。それに大電圧が加われば普通はおじゃんだが、超人、怪人のキャパはそれを超える事もある」
俺は抱きついたイエロー足を掴み、前に投げて地面に叩きつける。
「かは!?」
地面に当たり、跳ねた瞬間に思いっきり蹴り飛ばすと、体がくの字に折れ曲がって吹き飛び、土手に突っ込んだ。
「強くはなったがもっと努力しろ。格上を倒せる力はねぇからな……って聞こえてねぇか」
土手に埋まったイエローはびくびくと痙攣して真っ赤な泡を口から噴き出していた。
数十秒後に復活したが、戦意喪失していたので戦闘訓練は終了。
「強くなってもKさんの足元にも及ばない……グスン」
「日々精進。まぁまだ訓練期間だ。戦闘員の運用方法や怪人になったから出来ること、能力を生かした戦い方を覚えていくぞ」
「……はい!」
こうしてイエローは怪人になったのだった。