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第24話 怪人マッチ 2

 あの日……俺は普通に戦ったハズだ。


 ターロウ……それが俺のヒーロー名。


 里芋を意味する言葉で、里芋みたいな見た目をしていたから覚えやすいようにそんなヒーロー名にした。


 ヒーロー養成所に通い、必死に努力し、2年かけて憧れのヒーローになった日には凄く喜んだ。


 養成所でも俺を倒せる奴は居なかった。


 現場に出ても10戦10勝……見た目が凄く恐ろしい怪人でも結局はニンゲンから変化した存在。


 急所の位置は大体同じ。


 俺の貫手で相手に認識される前にを貫き、怪人を絶命させていた。


 あの日も家電量販店を襲った悪の組織を懲らしめるために意気揚々と現場に向かい、家電を奪っていた戦闘員に俺の貫手を食らわせたはずだった。


 その戦闘員……Kだったか。


 奴は俺の攻撃を見てから素早く手で払い、そのまま腹部に1撃、顎に1撃を食らわされた。


 俺は何が起こったか理解できなかった。


 自慢の貫手を防がれたことよりも自分より素早く攻撃できることにたしか驚いたハズだ。


 朦朧とする意識の中、俺は奮い立ち、必殺の両手貫手を放った。


 しかし、俺の腕をガッチリ掴まれ、Kの放った頭突きで俺は気絶し……気がついたらこの薄汚い牢屋の中にいた。


 看守からはここが闇の闘技場であること、怪人に勝てば解放するということが告げられたが、こんな場所を知って生きて返してくれるとは思えない。


 少し考えればわかるため、脱走を試みたが、床、トイレ、換気口全て特殊な金属で出来ており、道具を使っても、俺のパワーでも不可能だった。


 そうなるとやることが無くなる。


 無駄だと分かっていても体に染み付いたトレーニングの癖だけは抜けない物で、牢獄の中でトレーニングをしてしまう。


 無駄な筋肉や脂肪は削ぎ落ち、本当に必要な筋肉だけがある状態になっていった。


 約3ヶ月収容され、遂に俺が試合する日がやって来た。


 食事もいつもより豪華な物を与えられ、体にエネルギーを溜め込んでいると……俺を倒したKがやって来た。


 短い会話であったが、本当の強者であることを再認識し、奴が出てくる怪人を倒せばリベンジマッチをすると約束してくれた。


 ヒーローなんて職業を目指した身だ。


 ヒーローの殉職率の高さを考えてもこの職業を目指し、この職業になったのだ。


 1人でも多くの怪人を道連れにしてやる。


 そしてKに打ち勝ちリベンジを果たす。


 俺の頭の中はそれでいっぱいになるのだった。










 リングの上に転送されると、四方をバリアが張られており、内側から出れない仕組みになっていた。


 目の前に居るのが怪人……岩石みたいな怪人だ。


 人の形をしているが、全身を岩みたいになっている怪人だ。


 俺の貫手を警戒して防御系の怪人で来たな。


 舐めやがって……。


 カンとゴングが鳴る。


 岩怪人が俺に襲いかかってくるが、俺はファイティングポーズをとると岩の隙間部分を貫手で貫通させた。


 ドロリと血液が噴出する。


 結局のところ怪人と言っても雑魚は人の殻を破れていない。


 頭を掴み、腹部に膝蹴りを入れると岩にヒビが入る。


 岩怪人は痛みに堪えながら、ラリアットをしてこようとするが、俺はヒビが入った胸部に貫手を行う。


 グシャ……。


 臓物を引き抜いて怪人は血を噴き出しながら倒れてしまった。


「K出て来い!」


 俺は倒れた怪人を踏み台にしそう叫ぶ。


 すると他の怪人達がリングに上がってくるが、リングに上がった瞬間に俺の貫手で体を貫通させて臓物を抜き取る。


 リングの周囲には4体の怪人にリングの上には岩の怪人が転がる。


 ざわざわと会場の様子もおかしくなる。


 そんな中、髑髏のマスクをかぶった戦闘員がリングに上がる。


「待っていたぜK」


「悪いな遅くなった。随分と暴れたな。俺とのオッズが500倍になってるよ……俺の負けでな」


「おいおい、やっぱり知名度ねぇのかK」


「十分に仕事になってるからな。それにヒーロー側に知られてないアドバンテージはデカいからな。戦闘員が強かったら怪人の面子も潰してしまうからな」


「面子か……そりゃ大切だな……ヒーローも悪の組織も!」


 俺は一気に近づいて貫手を放つ。


 しかしやっぱりKはその手を掴む。


「あめぇ!」


 体の体勢から絶対に防げない位置に左手で貫手を行う。


 狙うはKの俺の手を握っている右手から死角になっている下腹部! 


 もらった! 


「あめぇんだよ」


 ガチガチと俺の貫手が腹筋に防がれている!? 


「お前の貫手は確かに強い。貫通さえすればほぼ必殺だ。しかしな!」


 Kが掴んでいる俺の右手を下に引っ張り、俺の体勢が前傾姿勢になる。


 その瞬間にKは体を回転させ、右足で俺の頭を捉えた。


 Kの足によって俺の体も回転し、そのままコートの床が迫る。


 走馬灯が見え、ゆっくりと床が近づく中で、腕を伸ばそうと防御をしようと試みるが、掴まれた俺の右腕とクロスしている左腕はKによってロックされ、防御を体勢が取れない。


 自分の頑丈さに賭けるしか無いと思い、顔に力を入れる。


 地面に擦れた瞬間に俺の意識は途切れるのだった。











 頭が潰れたトマトみたいになった元ヒーローのターロウを見て俺はコイツも俺を楽しませてはくれなかったかと小さく呟き、リングから降りた。


 怪人達も戦闘員が怪人を5人も葬ったヒーローを一瞬で倒した事実に脳がフリーズし、道を開けた。


 まるでモーゼの海割りの様に……。


 特別観戦席に戻ると拍車が送られた。


 この席に居た人物達は俺が護衛としてこの場に居るのを知っている人達なので俺に賭けて儲けたのだろう。


 悪徳先生もホクホクした顔で嬉しそうにファイトマネーの小切手を渡してきた。


 今回の戦いで先生は200億近く稼げたらしく、1割の20億を渡してきた。


 会社に9割取られるが2億は今月の給料だし、営業成績もまた1位だろうなぁと俺は考えていると護衛の人達から


「ケケケ、お前強いな。どこの会社だ?」


 と聞かれ、ブラックカンパニーの戦闘員Kと伝え、名刺も渡す。


「何か仕事があったらよろしく頼む」


 お偉いさんの護衛をやっている怪人達なので持ってくる仕事も高額。


 こういう時に出来る伝手は本当にありがたい。


 まぁ実際に仕事をする事になるのは交換した人達から1人か2人だろうが……。


 俺は飲み物を貰って席に座る。


 すると3人娘がビクッと震える。


「おじさん滅茶苦茶強いじゃない」


「あ? 強いよ。今さらか?」


「ここまで強いとは思わなかったっす!」


「あの程度なら負けねぇよ。どうやってもな。お前らも戦闘訓練俺を殺す気でやれやれ。効かねぇから」


「うん……そうする」


 その後は試合を観戦し、特にイベントも無く帰路に着くのだった。









「お疲れK、大活躍だったね」


 会社に戻るとバニーさんにそう言われた。


 3人娘は先に帰して俺だけ報告書を作成するために残っていた。


「久しぶりに暴れましたわ」


「暴れるって……Kにとってお遊びじゃない」


「まぁ割の良い仕事でしたよ」


 バニーさんも試合の中継を観ていたらしい。


 俺がリングに上がってビックリしたと言っている。


「ダークウェブのサイトでもKの事を探る記事が色々書かれているわね。怪人の変装説が大多数だけど……賭けに負けた人達が女々しく喚いているわ」


「放っておけよ……全く……ほとぼりが冷めるまで動けねぇじゃん」


「まぁこれもまた直ぐに別の話題で沈静化するでしょう。3人の子達はどうだった?」


「まぁビビっていたよ。周りはテレビで見るようなお偉いさんばかりだったからな」


「慣れてもらわないとね。依頼者はそんなお偉いさんも多いから」


「でも良い刺激になったろう。あとは怪人になってからだな。さてどんな怪人になるのやら」


「楽しみね」


 Aの怪人化の数値が100%に今日で到達したのである。

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