第20話 ご褒美
「金で分断して競争を狙ったが、まさかその金を報酬としてやりとりするとは思いつかなかったわ……俺もまだまだだな」
モニターから様子を見ていた俺は3人娘がヒーロー相手に役割を分担して倒す激アツ展開に、少し興奮していた。
「さて、これ以上やらせても蛇足だな」
俺はマイクのスイッチを入れると訓練終了をアナウンスするのだった。
「いやぁお疲れさん、まさかヒーロー倒すとはね」
「当然でしょ! 私達にかかればヒーローなんてボッコボコよ!」
「でも実際のヒーローってもっと強いんじゃ……」
戦闘員Aことアリスが心配そうに俺に聞いてくる。
「確かにヒーローとしてはC級の平均的な強さをしている。もっと強いヒーローはゴロゴロ居るが、ヒーローはヒーロー。お前らでも工夫と協力すればヒーローが倒せるって証明になったな」
俺はパチパチと拍手をする。
「いやぁ当初の予定のヒーローにボコされる展開からはハズレたが、力を示した以上ボーナスを与えないとな。俺のボーナスで裏取引していたろ」
「「「……」」」
ヤベ、バレたみたいな顔を3人はする。
しかし俺はにっこりと笑いながら
「いや、別に怒っているわけじゃない。普通に立派な取引だ。悪の組織の戦闘員らしくて良い判断だと断言できる。それに俺の予想じゃヒーローに殺られると予想していたのに打ち勝った。それだけお前らがこの1ヶ月と3週間で成長したのが分かるな」
「お前らはちゃんと強くなってる。どうしてもトレーニングだけだと強くなっているか分からねーし、仕事も安全優先で取ってきたから実力を発揮する機会が無かったからな」
「ご褒美だ。3人に1人10万やる! それに明後日の給料日の後焼肉に連れて行ってやる」
「マジっすか!」
「男に二言は無い」
「「「やったー!」」っす!」
まさかの戦闘訓練の褒美で焼肉に連れて行ってくれることやボーナスが1人10万に増えたことに3人娘は喜んだ。
「午前中は休憩、午後からプールで泳いでからサイクリングマシンとマシーンで筋トレ一通りやるぞ」
「「「はーい」」っす!」
俺の予想より実力が付いていたが、今の実力を感じる事はできたハズだ。
頑張れば実力が付くことが分かれば辛いトレーニングでも進んでやるようになるだろうという俺の思惑通り、3人娘のやる気は更に上がるのだった。
バシャバシャとプールで僕は泳ぐが、1ヶ月半で戦闘員Aことアリスもクロールと平泳ぎ、背泳ぎの3種類の泳ぎを習得していた。
あと推進力はほぼ無いが立ち泳ぎも。
「片手5キロ、合計10キロの重りを持って立ち泳ぎ10分いくぞ」
「「「はい!」」っす!」
今日の想定は盗んだ物品を持って逃走をしている想定で、ワープのジャミングがされていて、10分後に水上バイクで仲間が救援に駆けつけてくれる……という設定だった。
重りを持って立ち泳ぎをしろと言うのは難しく、足を底に付けてはいけないから余計に疲れるし、海を想定しているから波が発生する。
泳げるようになったばかりのアリスは重さを1キロずつの2キロに負荷を減らされているが、10分の立ち泳ぎをしなければならない。
「波がめんどくさいっす!」
「実際に有りそうな想定ね!」
泳ぎながら無駄口を叩く余裕が僕とMこと前沼ちゃんにはあるが、アリスは泳ぐだけで精一杯で声を発することができない。
「実際には荷物を亜空間袋の中に入れるから、袋の中に空気入ってるし、浮袋として使えるがな。本番より難しい想定でやっているが大丈夫そうだな」
「これぐらい大丈夫っす!」
「なんとかね!」
「言う割には辛そうだな。戦闘員Aは……キツそうだな」
「あっぷ! あっぷ!」
「戦闘員A、お前だけ重り軽いんだから頑張れ。実力もお前は普通の戦闘員にも殺られる程度なんだから気合い入れろ!」
「あっぷ! はい!」
なんとか泳ぎ終えた次は、少し休憩して遠泳。
3時間で5キロを休憩無しで泳がなければならない。
いや、泳いでいれば良いので、背泳ぎになって途中水上で休憩は許されているが、あまり時間をかけ過ぎると制限時間を超えてしまうので結局クロールが殆どの泳ぎになる。
レーンに分かれて皆で泳ぐし、Kさんは倍の10キロを10分で泳ぐ……人間水上バイクである。
時速60キロとか特化した怪人でも出せる人は限られているし、なんならKさんは僕達が泳いでいる間ずっとその速度で泳ぎ続けることも出来る。
やっぱりKさんって戦闘員じゃなくて擬態出来る怪人なんじゃないかと思えてくる。
「じゃあ開始!」
スタート台から飛び込んで泳ぎを開始する。
ブラックカンパニーの地下プールは50掛ける50メートルの正方形のプールで深さが2メートルあり、波を起こす機能も付いている。
温水で泳ぎやすい様になっており、休みや非番の戦闘員や怪人もやってくることが多かった。
「お、Kさん今日もプールで新人教育か?」
ぞろぞろと10人くらいの戦闘員達がプールにやって来た。
泳いでいたKさんは泳ぐのを中断し、プールから上がって戦闘員達の方に行くのだった。
「悪いな、端の3レーンは新人教育に使わせてくれ」
「そりゃ勿論。訓練の方が優先ですから」
「今日は皆どうしたんだ?」
「夏にこのグループで海の監視員の仕事が入ってるんで、その前にプールで救助訓練をと」
「真面目だねぇ」
「一番真面目なKさんには言われたくないですよ。というかKさんも来てくださいよ監視員の仕事。ラブプラネットとカラーコミュニティの抗争が絶対海で起こりますって」
「怪人は誰行くんだ?」
「タイガーさんとテレキさんの2人です。2人は屋台やるって張り切ってましたよ」
「相変わらず自由な2人だな」
「Kさん、レスキューの手本見せてくださいよ」
「ええ〜俺やるの? まあ良いや。遠泳やらせて時間余ってるし……」
俺はその場のノリで海上レスキューの手本を見せることになり、2時間半ほど他の戦闘員達の面倒を見るのだった。
「はぁ……はぁ……だる……」
「泳ぎきったっす!」
「5キロ泳げた! やったー!」
2時間半ほどで3人娘も泳ぎきり、プールサイドでくたばって居るが、呼吸を整えたらシャワー浴びてから休憩しろと言う。
「30分後にトレーニングルーム集合な」
「「「はーい」」っす!」
俺は先にシャワーを浴びてトレーニングルームで3人娘の為にドリンクを作っておく。
水泳で水分補給が必要になっているし、1日1回の超人化薬の原液をスポドリで割って与えるため、超人化薬の摂取もやらせる。
「ふぅ……疲れたっす!」
「おじさんドリンク作ってくれたの? サンキュー」
「ありがとうございます」
シャワーを浴びた3人が丁度ドリンクを作り終わったくらいにトレーニングルームにやって来てドリンクを飲ませていく。
「かぁ! 体に染みる味がする!」
「スポーツドリンクで割ってるのに超人化薬の原液特有のコンソメスープみたいな味がパンチを与えてくるっす」
「お腹に溜まる……でも走ったりしてもお腹が痛くなったりはしない……不思議」
「体に直ぐに吸収されるからな。液体だからスルスルッと胃から腸に流れていくし、胃でも吸収されるから10分もすれば吸収されるってどっかで読んだな」
「おじさん、サイクリングマシンはどれぐらいやるの?」
「今日は時間無いから1人10キロ、筋トレもマシンを一通り1セットで終わりだ。17時の定時には終わりにするから……Aは時間がかかるから最初にマシンやれ。俺補助するから。他の2人はサイクリングマシンで先にやってろ。Aの次Fな。最後M」
「「「はーい」」っす」
この日も筋トレとサイクリングマシンを使ったトレーニングをして業務を終えるのだった。