第19話 模擬ヒーローとの戦闘訓練
2日間の休みも終わり、出勤日。
普通の社会人なら億劫かもしれないが、僕達は気合いが入っていた。
前の仕事での失敗やT1さんの話を聞いて、鍛える期間は徹底して鍛えることに集中するべきと3人で結論を出して、今一度頑張ろうと気合いを入れたのだった。
「やってやるっすよ!」
僕達が更衣室で着替え終わり、待機室の扉を開くとKさんが欠伸をしながら新聞を読んでいた。
「おはようございますっす! Kさん!」
「あぁ、おはようF(藤原)、相変わらず元気だな」
「元気が取り柄っすからね! ……何読んでたんすか?」
「あぁ、裏社会の新聞。闇市場で破壊活動をやった馬鹿が出て、一部区画が通行止めになってるってさ」
「闇市場を使っている人達には迷惑な話っすね」
「まぁ俺達は表を使えば良いから特に影響はねーよ……っと、始業5分前、F、戦闘訓練室に移動するぞ」
「はいっす!」
始業が始まるが若からの一言で
「えー、ラブプラネットとそれに敵対するカラーコミュニティという組織が大規模な抗争状態に入った。うちにも飛び火してくるかもしれないが、仕事中に抗争に巻き込まれた場合なるべく命優先で行動するように。違約金は割り切る。次点で雇い主の安全を確保。以上に気をつけてくれ」
そんな事を言われた。
始業が終わり、トレーニングルームに移動しようとしたら、Kさんからこの場に残るように言われた。
「えー、君達が入社して1ヶ月と3週間が経過しました……どれだけ自分が変わったか分からないと思うので戦闘訓練を今日はしてもらおうと思います」
Kさんがスイッチを押すと戦闘訓練室の内装が変わり、ショッピングモールの中みたいに変わる。
「えー、今から3人には仮想の敵と戦ってもらいます。簡単な点取りゲームだ。緑の敵が1点、黄色が3点、赤が5点……緑は一般人程度の戦闘能力、黄色は入社したての戦闘員の戦闘力、赤は訓練を受けた戦闘員の戦闘力……そして50点の敵として一般的なC級ヒーローの敵も投入する」
「一番得点を獲得した人は明後日の給料に10万のボーナスを付けてやる。やる気出るだろ」
Kさんは他にルールとして戦闘員が普通に持っている捕獲銃は基本装備として使ってもよく、捕獲銃で捕まえた場合も得点に加えると言われたし、ショッピングモールの中にある物品は自由に使って良いとも言われた。
あと死んだ時点で脱落。
制限時間は2時間とも言われ、それぞれ場所に移動するのだった。
1階に僕、2階にMこと前沼ちゃん、3階にAことアリスが初期配置になり、Kさんがアナウンスをする。
『じゃあ始めるぞ……スタート』
すると目の前に緑色の敵がショッピングモールを歩き始めた。
誰も攻撃をしていないからか普通に買い物をしたり、歩いて移動していて、こちらを攻撃してくる感じではない。
「これなら捕獲銃で捕獲していった方が早いっすね!」
僕は移動を始めると、通行人に攻撃を開始した。
ビビビと捕獲銃が光と緑色の敵が次々に捕まっていき、直ぐにカプセルが満タンになってしまう。
緑色の敵もこちらが攻撃されているとわかると逃げ惑い始めたり、攻撃を開始した。
緑色の敵は消化器だったり、売り物の傘や酒瓶で武装して襲いかかってくるが
「遅いっす!」
僕は襲いかかってきた緑色の敵の攻撃を避けると、腹部や胸部に思いっきり攻撃を加える。
すると緑色だった敵が灰色に変わり、動かなくなる。
「倒した敵は色が灰色に変わるっすね」
僕はそのまま緑色の敵を倒し続けると、黄色の敵や赤の敵が現れ始めた。
「まずは黄色からっす!」
黄色の敵に走って近づくと、黄色の敵と格闘戦を始めるが、1対1だったら負けることはない程度の強さだ。
殴りかかってきた腕をを掴んで引っ張ると、前のめりになり、それを足で払うと簡単に転ぶ。
転んだ瞬間に胸部を思いっきり踏みつければ黄色だった敵は灰色に変色する。
「よし!」
と思った瞬間に腹部に痛みが走る。
赤い敵が銃を発砲してきた。
「赤色の敵は銃を持ってるっすか!?」
パンパンと発砲してくる敵に対して、壁に隠れてやり過ごし、弾丸がかすった腹部を救急ポーチから取り出した包帯で止血し、痛み止めを腕に注射する。
「……よし、痛みは無くなった。まだ動けるっすね」
柱の影から銃を持つ敵を見てどう動くか考える。
「通路をバカ正直に進めば近づくまでに5発以上は撃たれるっすね……となれば!」
僕は柱に隠れながら障害物の多い、奥の店に飛び込んだ。
商品棚に隠れながら赤の敵を商品棚の隙間から見ると、敵は店に近づいてきていた。
「何か使えるものは」
売り場には野菜みたいなオブジェクトや缶みたいなオブジェクトが並んでいた。
缶のオブジェクトを1つ手に取ると、商品棚に隠れながら場所を移動する。
赤色の敵が店の通路を確認しながら近づいてくるので、上手く視界に入らないように移動しながら、赤色の敵の側面を取る。
赤色の敵が商品コーナーを確認して次の列に移動しようとした瞬間に缶を赤色の敵に向かって投げて走り出した。
缶が赤色の敵の肩に当たると、痛がる様子をして銃を降ろしてしまう。
走って近づくがまだ距離があると感じた僕は商品棚を踏み台にして、商品棚の上を走る。
商品棚は赤色の敵の背丈より上にあるので射線が通って居らず、銃を構えるよりも前に赤色の敵の顔面にライダーキックをお見舞いしてやった。
赤色の敵の首が変な方向に折れて灰色に変色する。
「ラッキーっす! 銃ゲット」
Kさんから銃に頼るなと言われては居るが、こういう乱戦かつ、味方と離れている時に飛び道具はありがたい。
拳銃を手に取り、弾丸を確認すると残り5発。
大切に使わないと。
そうこうしているとスマホが鳴る。
Aことアリスからだ。
『3階でヒーロー出現、注意されたし』
今競い合うライバルであるにも関わらずヒーローの姿を写真に取り、チャットで教えてくれた。
Aに対して大きな貸しができたことになる。
こういう時にこの行動を取るということは実際の戦闘でもAはサポート的な行動を行うだろう。
続いてメッセージが届く。
『協力して欲しい。私が倒せても取り分は1割で良い』
50点の敵を倒せればほぼその人物が勝者になることは間違いない。
ただ倒せなくて僕とAがくたばった場合、生き残ったMこと前沼が総取りになる可能性が高い。
僕は直ぐにMに連絡を入れる。
『Aの救援に僕が行くからその間に他の敵が3階に近づかない様にして欲しい。成功したら2万支払う』
と頼む。
直ぐに連絡があり
『一番弱いアリスにその役目をやらせた方が勝てる可能性が高くなる。私とFがヒーロー倒して折半、2万をアリスに支払う』
と提案され、僕はそれを呑んだ。
お店から廊下に移動すると、緑色の敵は無視し、赤い敵だけ注意してエレベーターを登って2階、3階に移動する。
すると黒いマントを靡かせた黒い敵……ヒーローがそこにいた。
出る位置が悪く、ヒーローに直ぐ認識されると、僕に襲いかかってきた。
パンチの1発1発が威力が強く、上手くガードしているが、防御をミスれば体を容易にめり込む威力をしている。
10秒間の攻防、すると死角からMがヒーローに攻撃を仕掛ける。
僕からの注意がされた瞬間に、僕は握っていた拳銃でヒーローを攻撃する。
ヒーローはMの蹴りを受け止めつつ、マントで弾丸を受け流して体から逸らす。
しかし、僕の前にマントが来た事で僕の事が見えなくなった。
その瞬間に僕は拳銃をヒーローの頭に投げて、体を低くして通路を駆ける。
ゴンとヒーローに拳銃が当たった瞬間に、僕はヒーローの死角から足払いをする。
鉄柱を蹴ったかのように硬いが、僕は足が砕けそうな痛みをこらえながらも足を振り抜いた。
するとヒーローの体勢が崩れ、ヒーローは地面に転ぶ。
そして投げた拳銃はヒーローに当たった後にMが空中でキャッチし、転んだヒーローの頭に近づけた。
「チェックメイト」
バンバン……発射音が響く。
ヒーローは黒色から灰色に変色し、動かなくなった。
僕らの勝ちだ。