第15話 次なる仕事は闇養殖所 1
「くぅぅ! キツイっす!」
「オラオラ、頑張れあと10回頑張れー」
初仕事を終えて僕達はこれからガンガン仕事が入るのかと思ったらまた訓練の日々に戻ってしまった。
「おじさん! 仕事入れてよ! 私達もっと仕事入りたいんですけど!」
「任せられそうな仕事がねぇんだよ。6月までは我慢しろ」
6月? 何で6月と思い、僕はKさんに聞いてみるとこんな風に返された。
「4月に入社したヒーロー達が活動し始めるのが7月だ。7月になれば新しいヒーローが増えてヒーローの質が低下するからな」
とのこと。
ちなみにこれは日本だけの話でもある。
海外だとその国々によってバラバラだが、海外の依頼は海外とのコネが必要になってくるのでKさんが引っ張ってくるくらいしかブラックカンパニーに伝手は無いらしい。
「いや、お前らが普通の戦闘員だったらもっと現場でガンガン育てても良いんだが、怪人に短期間でしないといけないからな」
会社からも言われているが、僕達は怪人になって怪人として稼ぐのが求められている。
だからM(前沼ちゃん)が言うように現場で働いた方が良いと思うが……。
まぁ1ヶ月ちょっとでKさんの凄さみたいなのがなんとなく分かって来たが……まだ何処かKさんの本当の実力みたいなのは全く捉えきれていない気がする。
「うっ! はぁ!」
「はぃOK、一旦休憩! 休憩終わったら5キロランニングマシンで走ってこい」
「はいっす……」
「ねぇKさん」
「ん? なんだ戦闘員A」
「道具の扱いとかってどうやっておぼえたの?」
確かに小物の使い方がKさんは上手かった。
この前の仕事でも指向性ガム爆弾とかもいきなり取り出してびっくりしたり……。
「あー、裏でちょっとな。一応練習はしてる。道具の扱いはそんなに上手いわけじゃねぇぞ」
「でも瞬時に道具を使って、状況を打破したのかっこよかった!」
「道具と言えば銃は使わないっすか! 銃!」
僕が銃って言うとKさんは渋い顔をする。
「銃に頼ると上限が決まるがそれでも良いのか?」
「上限がきまる?」
Kさんはかつかつと腕を組むと悩みながら話始めた。
「戦闘員が銃を使うのはごく普通だ。他の悪の組織とかは積極的に銃を使わせるところもあるけど、怪人になった時に戦い方を見失うんだよな」
「見失う?」
「今まで銃に頼った戦い方をしていたのに、怪人になったら能力を頼る戦い方に変わる。そうなると銃が足枷になってしまうんだよ。だったら格闘戦をしていたほうが怪人になった時に繋がるんだよ」
「なるほどっす……捕獲銃とか使ってるのに更に銃を使うとなったらかさばるのもあるっすからね」
「勿論銃を使うのが凄い上手い怪人も居るから俺は銃を扱い始めるんなら怪人になってからの方が良いとも思う。まぁ俺の教育方針だし、ブラックカンパニーにはガンスミス居ないから供給を外部に頼ることになる。というかヒーローに効く様な銃って戦闘員の給料だと厳しいし」
「え? 経費じゃないっすか!」
「経費で落ちなくは無いがバニーさんとか若からは良い顔されないからな……。後で経費として払い戻しがあるとしても、購入費は自分で出さないといけないからな。まぁ銃に頼るよりも強くなれるようにトレーニングしてやるから安心しろ」
いや、現状でも厳しいトレーニング受けてるのに更に密度が上がるのかとげっそりする僕達であった。
ある日事務所に行くと知らない戦闘員が増えていた。
「バニーさん、また戦闘員増やしたの?」
「いや、C2とO2の2人が殉職したから補充よ」
「あー、抗争中の悪の組織に捕まった2人か……やっぱり駄目だったか」
「液体になった信号が入ったから死亡確定してね。だから新しい人を募集したの」
「2人殉職だよな? 5人も増やすのか?」
「業務が拡大しているし、ウルフが新しい戦力になったからウルフの直属の部下を増やしたくてね」
「ほーん、どこから引っ張ってきたの?」
「今回は全員オママの所から買ったわ。素養は普通だから時間をかけて育てる必要があるけど、疑似人格注入済みよ」
「疑似人格かぁ……定着するまでロボットみたいなんだよな……」
俺がバニーさんと喋っている間も5人の新人達は直立不動で待機している。
すると戦闘員A、F、Mが同時に入ってきた。
「おはようございます!」
「おはようっす!」
「おはよう〜……て、あれ? 見覚えの無い人達が居る〜」
「ガキどもおはよう。良かったな新しく新人が入ってきたぞ」
「へぇ……じゃあ私達先輩になったってこと?」
「よろしくっす」
「よろしくお願いします」
「「「「よろしくお願いします」」」」
Fが挨拶すると、機械みたいな感じで返事を繰り返す。
「……Kさん、なんかこの人達機械みたいっす!」
「元の人格抜かれて疑似人格を注入したばっかりだからほぼロボットみたいなもんだ。こういうのは現場で生き残った奴だけ育てる」
「え? じゃあ元の人格は?」
「知らね。あぁ、最近生命エネルギーを物理エネルギーに変換させることに成功した会社があったからそこに買い取られてるかもしれねぇな」
俺も詳しくは知らん。
「オママに聞けオママに」
「いや、なんか聞くの戸惑うっす……」
「ちょっと怖いわね……」
「うん、不気味」
「まぁ今回は緊急の人員追加だからだが、普通の人も入ってくる事がある。その時は仲良くしてやれ」
「「「はーい」」っす」
「それと喜べ、明日から1週間仕事が入ったぞ」
「本当! やった!」
「1週間も! これでトレーニング地獄から少し解放されるっす!」
「どんな仕事?」
「養殖所の水揚げ補助だ」
「いやぁブラックカンパニーさん悪いな。急な依頼で」
「いやいや、グレーサーモンさんにはお世話になってるので」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! えっと」
「俺は戦闘員K、右からA、F、Mです」
「「「よろしくお願いします」」っす!」
「あぁ、よろしく。今日からやってもらいたいのはこの生簀で泳いでいるデビルサーモンを網で掬ってもらいたい。こうやって」
社員さんがいきなり縛られた人を生簀の中に蹴り落とすとビチビチと魚が落ちた人に群がって捕食し始める。
それを社員さんが大きな虫取り網みたいなので掬って水槽の中に入れる。
すると水槽がバチバチと光出して魚がぷかぁと浮かび上がり、それをベルトコンベアに運ぶ。
「これだけだ。簡単だろ」
「いやいや、人がいきなり死んだっすよ!」
「あー、デビルサーモンは最後に食った餌で味が変わるんだ。人肉を食べると人にとって最上の味に変換する。大丈夫、殆ど人格を抜いた抜け殻だったり失敗したクローン人間だから」
「殆どってことは少しは生きた人間がいるってこと?」
「あー、借金漬けにされて保険金かけられた奴がごく少数混じってる。たまにうめき声がするけど気にするな」
「「めっちゃ気になるわ!」っす!」
「くれぐれも生簀に落ちないようにな。落ちたら本人が餌になっちまうから……じゃあ初めましょうか」
とんでもない仕事を任された。
何で僕らの仕事ってヒーローとドンパチするやつじゃないの? ……と思いながらも、地獄のトレーニングよりはマシと思って作業を始める。
「よーし、戦闘員F、お前人を生簀に投げ入れろ。それを俺とMが掬って水槽に入れる。電気ショックした魚をAがベルトコンベアに運べ」
Kさんがちゃちゃっと業務分担をしていく。
僕は転がされている人……だった物を持って生簀に投げ入れる。
するとビチビチビチとデビルサーモンが群がって、捕食していく。
「よいしょ! よいしょ!」
Kさんはデビルサーモンをじゃんじゃん掬うと水槽の中に入れていき、Mもマスクを被っているからどんな顔をしているか分からないけど、ぎこちなくデビルサーモンを掬って水槽に入れる。
あっという間に人の姿が無くなり、骨まで食べられてしまった。
だいたい20匹くらいが掬われる。
「A、電気ショック」
「は、はい!」
バチバチと水槽に電気が走り、ぷかぁとデビルサーモンが水槽に浮かぶ。
それをAがベルトコンベアに流していく。
「F、ぼさっとするな、次の人間を用意しろ」
「は、はいっす!」
次の人間を用意しろと言われて人を運ぼうとすると
「むーむー!」
と叫び声が聞こえてくる。
よくよく見てみると普通に行生きている人が結構な数紛れている。
僕はなるべく声のしてない人を選んで投げ入れていくが、夕方になると残っているのは声がする人ばかり。
「南無三っす!」
申し訳ないと思いながらも僕はその人を生簀に投げ入れると
「ギャァァァ」
と断末魔を上げながら消えていった。
僕達3人はマスクを外して生簀の外の海にゲーゲー吐いたが
「なにへばってんだ! こんぐらい悪の組織だと普通だぞ! 慣れていけー」
とKさんから注意が飛ぶ。
これを1週間もやらされるのかよと僕らの気分は最悪になるのだった。
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用語解説
·デビルサーモン
1尾20万で取引される丸々太ったサーモン。
普通のサーモン以上にとろの部分が多く、魚卵も多い。
最後に食べた物が好む味に変換するという性質があるため、養殖されるデビルサーモンは人が最後の餌に使われる。
裏社会のスーパーでは一般流通しているくらい身近な魚でもある。