第129話 超とのピロトーク
「なぁ超、悪の組織の長に必要な力ってなんだと思う?」
「唐突にどうしたっすか?」
ある日、超の家で性行為をした俺はピロトークにこんな話をぶち込んだ。
「うーん、やっぱり強いとかっすかね? 会社で最高戦力! とか?」
「確かにそういう会社もある。ただそういう会社は会社としての上限が長であるからそれ以上の怪人が出てきた時に扱いに困り、会社が割れてしまう事が多いんだ」
「そうなんすね……じゃあカリスマがある……とかっすか?」
「初代が立ち上げたばかりの悪の組織ではカリスマある長ってのは魅力的だ。成り上がる会社も多いが、大抵社長のカリスマで保っていると次世代にバトンを渡す時に騒動が発生する。創業者一族の親族経営を続けていくか……有能な社員を次の長に据えるか……」
「でも聞いているとKさんが思う長に必要な力とは違うっぽいっすね……実際はなんなんすか?」
「時流をいかに読めるかと時流を作り出せるかだと俺は思っている。言い方を変えれば戦術眼と戦略眼だ。それがいかに両者がそろっていて、それを他者に伝えることが出来る人物……それが長に必要な能力だと思っている」
「バニーさんは?」
「俺が思う組織の長に必要な能力は足りてない……が神輿としてはこれがなかなか違う風に感じてならない」
「神輿って?」
「象徴としての長という点だ。組織の大切な部分は部下に任せて、部下に支えられて上に立つ人……それが神輿だ。神輿タイプの場合、部下が優秀で長の実権が奪われた傀儡タイプと長としての人徳によって部下が進んで動くモチベータータイプとこれまた何種類かタイプがある」
「バニーの場合は神輿タイプの長と考えるとこれが案外合格ラインには乗ってくると思う」
「そうなんすか? ……いや、確かに全体会議ではブラックカンパニーが拡大する前から持っている日本征服という目標やそこから飛躍した世界征服とか言ってたっすが……」
「でも日常業務に混乱を来たす事はしていないだろ?」
「そう言えばそうっすね」
「ただ一族優遇みたいなことをし始めたから神輿としての求心力を失いつつある……これが後継者となるツバサ……俺は正直産まれた当初から名前を付けるのは無しだと思っているんだが……怪人ならまだしも」
「じゃあ僕の子供もFとかの名前にしないといけないっすね」
「いや、元から怪人だったら別に良いが……」
「いや? 僕の子供は名前はFにするって決めてるっすよ。僕の名前を継承して、1人前になってから怪人名をつけて欲しいっす」
「そうか……いや、俺も悪の組織で通すんならそうやるべきだと思うんだよ。だがバニーは名前を付けた。人造ヒーロー達みたいに特殊な生い立ちならまだしもバニーと俺の子供達は悪の組織からすると普通の子供達だ。悪の組織組合は戦闘員には英語と数字を原則付けましょうという決まりもある」
「人造人間みたいに表に出せない人員は別の管理番号を与える必要があるが、今回は完全に逸脱している」
「それもそうっすね」
超は体に付着していたティッシュで精液を拭き取り、ゴミ箱に捨てる。
股に入っていたコンドームも抜き取って、これは結んで後で博士に渡すらしい。
「で? バニーさんが長としての能力が疑問視されているのは他社出身の幹部達からもバレ始めているわけっすが……」
「バレたところで問題は無い。ただ次の総領を誰にするかという動きは起こり始めているな。元人造ヒーローのワンやジオツーなんかは怪人マッチランカーだから組織の長に強さを求めるタイプの連中からは受けが良い。超、お前を推そうとしている連中もいるぞ。なにせブラックカンパニーで実質ナンバー2の強さだからな」
「最近はレグに負けるっすよ」
「でもあいつは覚醒してあの強さだ。覚醒しないでほぼ互角に渡り合い、成長余力も覚醒も残している超の方が最終的な強さは上だ」
「そうっすが……うへぇ、僕に組織の長は無理っすよ」
「案外上手くいくかもしれないぞ。元々幹部人材としてスカウトされてきたしな」
「学校で上に立つべき人材は多く見てきたっすよ。それに僕よりミズチの方が上に立つという点なら推せるっすよ」
「だが彼女はまだ幹部ですら無い。まだ実力を見極めている段階だ。偉くなるにしても段階を踏む必要がある」
「あとは……ホワイトっすかね?」
「まぁそうだろうな。ホワイトは俺も期待しているが、まだ有力候補の1人で決め打ちにはしたくない」
「あとはナンバーズ達もいるっすが」
「ナンバーズは無い。アイツらは技術者、科学者として働いてもらわないといけないし、同じ理由で博士を総領に推す人も居ない。総領をやらせるより別のことをやらせた方が会社の役に立つからな」
「ふーん……イエローとかはどうっすか? 僕達の中だと教育総監というちゃんとしたポストについて段階を踏んでいるっすが」
「俺的にはありだ。本人がやる気があるんなら人柄もよく知っているし、短慮な発言や計画を立てるとは思わない。というか俺の中での最有力は彼女だ。そのために先行して教育隊を任せて、今もちゃんと教育総監の仕事を務めているし、部下の言葉もしっかり聞いている……組織の長に必要な事がちゃんと出来ていると思わないか?」
「……言われてみれば確かに……いつからイエローを推そうと計画を立てていたんすか?」
「イエローが戦闘員からやたらと好かれているのを見てからだ。彼女なら若の右腕として副総領に推せるなって考えていたが……な」
「そんな前からっすか……じゃあ僕とレグは長としての能力は足りていなかったってことっすかね?」
「レグレスは無しだな。あいつは俺と同じ匂いがする。現場でとにかく輝くタイプだ。超は総領に成れる器はあるが、その戦闘能力を役職で縛るのは勿体ないからな。イエローは戦闘能力的には元人造ヒーロー達が居るから替えの効かない戦力では無くなった。今だから推せるんだよなぁ」
俺は置かれていたペットボトルの水を飲む。
超も水分補給を始める。
「じゃあ本命イエロー、次点がホワイト、大穴がワンやジオツーって感じっすか?」
「まぁそんな漢字だな。バニーの暴走が過ぎるようなら早めに引きずり降ろさねぇといけねぇかもしれねぇがな」
「僕はKさんに従うっすよ」
「はは、多少は勢力を詠みながら活動しろよ。超、お前が思っている以上にブラックカンパニー内で影響力は大きいぞ」