第127話 ブラックカンパニーの一般戦闘員達
「おいおい聞いたか」
「何を?」
「ブラックカンパニーの幹部のレグレスさんが覚醒したんだと」
「え? S級怪人のあの人が?」
「そうそう! 写真撮らせて貰ったが、こんな感じ」
「……おぉ!? すっげぇ! 赤い衣装に身を包んだ貴婦人って感じがする」
「格好良くて綺麗って凄いよな……」
そんな話をしていた俺達は昼食を終えて、午後の業務に取り掛かる。
「泳げ泳げ!」
俺は元々ブラックカンパニーではなく、別の会社に勤めていたが、ヒーロー達の襲撃により元の会社はダメージを受け、ブラックカンパニーに吸収合併された経緯を持つ。
元上司の怪人達が中間管理職的な立場に降格していたが、俺は特に役割は変わること無く……逆に福利厚生と給料が良くなって嬉しかった。
今は俺も教育隊として新人戦闘員の教育を担当している。
最初3週間近く擬似人格の定着にかかっていたが、新しい教育マニュアルが配布されると、2週間で擬似人格の定着が出来るようになった。
作ったのはブラックカンパニーの上層部にスカウトされてきた怪人達と聞いていたので、頭の出来が普通と違うなぁと俺は思う。
しかも最近ではブラックカンパニーが製造した人造人間達も稼働を始め、教育の分野でも補助要員として配置されていた。
「Cの54番もっと速く泳げ! 遅れているぞ!」
今ストップウォッチを持って叱咤しているのが俺の担当となった補助要員のアルファ33である。
戦闘員がAからZと数字の組み合わせであるが、人造人間達はギリシャ文字と番号が付与されていた。
女の子だったら良かったが、俺の補助要員は男……しかも筋肉マッチョの少年だ。
「はーい、15分休憩!」
アルファ33が叫んで休憩に入る。
しっかし、地下空間なのに大量の水を何処から引っ張ってきているのだろうか……やっぱり海水を濾過して使っているのか……。
俺は行ったことが無いが、更に下の階層には巨大な農園があるとも聞く。
その水源となると海水を使っているのが一番納得がいく……というかここの地層だと地下水をこんなに大量に使えば直ぐに枯渇してしまうからな。
俺はチラリとプールサイドで喋っている怪人達を見る。
彼らは俺と同じく他所から逃げてきた元戦闘員達で、今はブラックカンパニー製の怪人化薬を飲んで強い怪人に成れた人達である。
俺も予定ではこの仕事が終われば怪人の仲間入り。
食堂も怪人専用レーンを使え、自由に嫁さん選びも出来るし、給料も上がる。
ブラックカンパニーから一軒家もプレゼントされるので至れり尽くせりってやつだ。
くぅ~! 早く怪人になりたい!
「今日の訓練終了、食事、入浴をしてねろよー」
擬似人格が定着してないので発声が曖昧であるが、返事らしき声をあげさせて解散させる。
アルファ33に今日の訓練内容のメモを受け取り、今日の日報を記入していく。
それが終われば夕食だ。
食堂は多くの戦闘員達で賑わっており、列に並んで待っていると受け取り口まで到着した。
今日の夕食はクジラの竜田揚げ定食。
最近稼働を始めたというUFOみたいな漁船? 機体? のお陰で海の幸を使った料理が前に比べてだいぶ増えた。
味噌汁にはカニの足が2本も入っている。
カニの出汁が効いて美味そうだ。
ご飯をよそって椅子に座り、食事を始める。
戦闘員は黒いピチピチの戦闘員服を着ている為、視界の多くが黒であるが、こうして見ると日本人って顔立ちの人物がだいぶ少なくなった。
ロシア系や大陸系の住民を戦闘員に改造しているし、人造人間も多くが日系から離れた美男美女ばかりでたぶん整形が入っている。
「日系がだいぶ少なくなったな……まぁ樺太制圧でロシア住民を捕まえたからだろうが……」
日系が少ないことに元日本人として少し寂しさがあるが、それで組織が上手く行っているので文句は無い。
ふとテレビを見ると怪人マッチでブラックカンパニーの社員であるノナさんがS級のランク戦で戦っていた。
「すげーな。あの人ブラックカンパニー直属の戦闘員から怪人になったタイプの人だったな……樺太制圧でも天候を変えていたし、強いんだろうな」
食事を終えて、食器を片して社宅に戻り、風呂を沸かして、風呂に入る。
「はぁ~、大浴場も良いけど、家で1人ゆっくり浸かるのも良いなぁ」
疲れを取りながら、俺はある噂を耳にしていた事を思い出す。
「レグレスさんに子供が数十人居るって聞いたけど流石に嘘だよな……あんなメカメカしい人……子供沢山作れる体じゃ無いだろうし」
「そう言えばバニー総領のお子さんがカプセルで生育されているって聞いていたからそろそろ産まれる頃か……バニー総領ってブラックカンパニーを短期間でこんなに大きな企業に拡張させたから、さぞ凄い人なんだろうなぁ」
そんな人のお子さんだ。
たぶん組織としても最高の教育をするだろうし、ブラックカンパニーを今後も導いてくれると良いなぁと俺は思うのであった。