第13話 初仕事 1
新入社員が入社してから1ヶ月が経過し、若からそろそろ現場投入しても良いだろうと言われた。
「若、仕事はこっちで引っ張ってきても?」
「ん? 何か良い仕事でもあるのか? 会社から適当なのを任せるつもりだったが」
「知り合いの怪人からのヘルプです。とある海外の博物館から展示品を奪取する依頼があり、戦闘員が欲しいと」
俺はタブレットを操作し、依頼内容と依頼者を見せる。
「これ盗み出してなにする気だ? ここは? 戦争でもする気か?」
「さぁ? コレクターに売るのかもしれないですし、新しいロボット兵器を作る素材にしたいのかもしれないですし……」
「難易度的には難しくは無さそうだが……海外ってのが気になる。日本のじゃ駄目なのか?」
「さぁ? 俺に言われても……」
「まぁ下見してからという依頼だから十分に計画を練ってから挑んでくれ」
「うーす、じゃあここ受けますね」
「というわけでお前らの初依頼が決まった」
「「やったー」っす!」
「やったぁ?」
「Aもっと喜ぶっすよ! Kさんのハードトレーニングから解放されるんっすから!」
「というわけで今日は依頼者の所に行くぞ。怪人は知り合いなんだが、依頼者は今回初めて会う人だからな」
「「「はーい」」っす」
戦闘服にマスクを被って戦闘員の格好となり、ワープベルトでワープする。
転移する場所はアメリカ。
『お、キタキタ、K久しぶりだな!』
「久しぶりだなダニエル。相変わらずよく分からない依頼を受けるんだな」
『金払いが良いからな』
アメリカで怪人……いや、こっちだとヴィランをしているダニエルである。
ゴリゴリのマッチョでパワー系ヴィランである。
「こいつはダニエル。俺の知り合いの怪人だ。翻訳機が機能しているから分かるように外国人でアメリカで活動している」
「Kさんとはどういう仲なんすか?」
『K、日本人は小さいって聞いていたがこいつらガキか?』
「ピッチピチの新人だ。全員女」
『初めましてレディ達。俺はダニエル。ナイスガイだろ!』
「ハハハ、ナイスジョーク」
『Kとは前に仕事で一緒になったんだ。確かボツワナだったよな』
「あぁ、ボツワナで採掘された巨大ピンクダイヤモンドの強奪する依頼だ。アメリカの富豪が奪う為に怪人や戦闘員を集めてって感じで捨て駒役で投入された」
『凄かったぜ、捨て駒のハズの戦闘員なのにKがボツワナのヒーロー達を倒しまくって……俺達ヴィランの出る幕が無くなったからな。それで連絡先を交換したんだよな』
「まぁそんな仲でダニエルとは今回で4回目の仕事。依頼は世界中で発生するからな。慣れておくために今回はここを選んだ」
「ねぇ~ダニエルさん、今回の依頼ってどんなの〜?」
『おいおいK言ってねぇのかよこのレディ達に』
「依頼主と会うから良いだろ。難易度的には糞楽な仕事だし」
『まぁ良いや。レディ達、依頼主の所に行くぞ』
依頼主の居る屋敷の中に入った。
するとそこには戦車が色々展示してある。
『依頼主入るぜ』
『おお、待っていたぞダニエル』
白衣を着た男性がダニエルとハグをする。
『んん? そっちの戦闘員は?』
『仕事を円滑にこなす為のパートナーだ。腕は保証する』
『ふむ……まぁ良い。今回の依頼はロシアの博物館に展示されている戦車を奪ってきて欲しい』
『どんな戦車だ?』
『今写真を出す』
依頼主が写真をモニターに映す。
『IS9……ソ連が計画だけしていたとされる連装砲の重戦車だ』
写真には主砲が2門付いている重戦車が映し出された。
『現存する唯一の車両でこの戦車がワシはどうしても欲しい! 戦車マニアとして欲しいんだ!』
『わかったわかった。コイツを綺麗な状態でここに運べば良いんだろ?』
『あぁ頼む。契約金の50万ドル分の金貨を用意した。ここに』
パカっとキャリーケースに確かに金の延べ棒が入っていた。
『依頼の期限は1ヶ月以内。早く終わっても別に良いんだろ』
『あぁ1ヶ月以内だったら別に良い! 早くIS9ちゃんを拝ませてくれぇ!』
依頼主の屋敷から出て開口一番ダニエルは
『だいぶイッてるだろ』
「あぁ、だいぶヤバいタイプのオタクだな」
と俺も頷く。
金持ちの道楽である。
ちなみに依頼主はアメリカの超人薬を製造している製薬メーカーの会長なのらしい。
それを含めて色々駄目なタイプの大人である。
「じゃあこのまま俺達が下見行ってくるから追って日時を送るわ」
『頼んだぜ!』
というわけで俺達は一度日本の闇銀行に寄って、ロシアのルーブルにお金を交換してからロシアの博物館に入る。
「ダニエルは来ないっすか?」
「あの筋肉ダルマに細かい事できると思うか? あいつは依頼主との繋ぎ。現場に出ても暴れるくらいしかできないから、警備室を襲ってもらう係り。それ以外は俺達でやるぞ」
「殆ど僕らの仕事じゃないっすか」
「その分お金は貰うんでしょ?」
「10万ドル分な」
「え! 半分貰わないの!?」
「俺達はあくまで下請けなの。これでも結構割の良い仕事だぞ。10万ドルだから日本円に換算すると約1500万円。会社に9割取られるけど150万で4等分して37万ちょっと……良かったお前ら、来月は給料50万超えるぞ」
「なんかすっごい会社に搾取されている感じがするんですけど……」
「福利厚生全部補って貰ってたり、表のヒーロー達に察知されないように生活出来るように痕跡を揉み消してもらってるんだ。これくらい普通だぞ。それに今回の仕事は凄まじく簡単な仕事だからな」
「「「はーい」」っす」
俺はとりあえず博物館のパンフレットを貰うと歩いてルートまでの道を確認していく。
「でもどうやって外に戦車を出すんすか? 室内でワープ装置は使えないじゃないっすか」
「今回はこれを使う。ボトルシップガン」
「なにこれKさん」
「うちの博士が作った対象物をボトルシップの様にこの中に入れてしまう物質の圧縮が出来る拳銃だ。見た目水鉄砲みたいだろ?」
「そうっすね……これを使って戦車を中に入れるんすね」
「そう。リュックの中に入れて運んでしまう。だから閉館後に素早くやる必要がある。出来れば停電を起こせると最高だな」
「停電? ブレーカーでも落とす?」
「いや、もっと簡単だ。電線をぶった切る」
「わぉ……豪快にいくじゃない」
「うちの会社は結構やるぞ電線の切断。ブレーカーを探すよりも簡単だしな……会社に電線を安全に切断する道具があるから明日使い方を説明してやる。今回は目的の展示物までのルートを押さえる……と見えた。あれだな」
戦車が沢山並んでいる中にIS9と書かれた戦車が普通に展示物されていた。
「本当に主砲が2門ある」
「パンフレットには燃料を入れれば直ぐに動き出す状態で展示されているって書かれているな……まぁこれしか無いからこれを盗み出す訳だが……」
「ここまで徒歩で約30分もかかるっすね。走っても10分はかかるっすよ」
「ふむ……」
俺は非常口に目をつける。
「あそこに非常口があるから脱出はあそこから外に出る感じで行こう。建物に入る時は社員用の出入り口からとして……」
建物の色々な場所を俺は写真を撮っておき、5時間ほどうろついてから建物を出るのだった。