第121話 束の間の休日
ようやく雪が溶けて、気温が暖かくなり始めた6月中旬……ブラックカンパニーでは大きな動きも無く野外でのトレーニングが盛んに行われていた。
地下生活も良いが、日光に当たらないとどうしても体に不調が出てくる。
ロシアからの報復核攻撃も無いとわかった以上、野外での活動の制限も無くなっていた。
「ふぅ、この時期が一番過ごしやすいっすね」
僕こと超は今日は休みなので、海辺で日光浴を楽しんでいた。
「僕もイエローも妊娠して博士に摘出してもらって体外育成中……元気な子供になると良いっすけど」
Kとの赤ちゃんを僕も無事に授かり、博士に今はカプセルで育ててもらっている。
万が一ブラックカンパニーが有事が起こった際に僕やイエローが動けないとブラックカンパニーの戦力的にダメージが大きいとKさんに言われて渋々体外で育てることになった。
まぁ赤ちゃんも僕の食事量で育てられたら、デブになって産まれてきそうだからこれで良いかもしれない。
検査結果で僕もイエローの子供も怪人適性率は100%を超えているため、レグレスの子供達のカプセル内での怪人化による不都合の実験次第だが、何事も無ければ僕とイエローの子供もカプセル内で怪人にしてもらう予定だ。
もしかしたら前の私みたいに超絶弱い姿で生まれる可能性もあるが、そしたら博士に私の血から培養肉を作ってもらい、それを与えれば成長するだろう。
能力は私のコピーみたいになるかもしれないけど……。
「しっかし港なのにガランとしているのも寂しいっすね」
前までは潜水艦や駆逐艦がここの港に停泊していたのだが、技術習得の為に解体されて、今では漁船型ハウニブの材料になっているだろう。
「ん、イエローは釣りをしているっすね」
テトラポットが沢山ある場所付近でイエローも呑気に釣りを楽しんでいた。
イエローだけでなく、イエローを慕う戦闘員達も一緒に釣り糸を垂らしていた。
「日光浴をしながら読書……いやぁ去年は忙しすぎてこんな事は出来なかったっすが、情勢が落ち着いたっすね〜」
表で本の出版が出来なくなっていたので、闇市場に新刊はなかなか入ってこず、多数の作家がこの内戦で亡くなっていたので、僕は大正時代の文豪達の本を読んでいた。
これがなかなか感じる本が多い事。
「よお超、日光浴か?」
「あ、Kさんもっすか?」
「あぁ、ようやく仕事が片付いた。半休と明日1日休みだ」
「それはよかったっすね。明日はバニーさんと1日イチャイチャっすか?」
「博士も交えてな。ストレス溜まっているから発散させねぇと」
「僕達もまた可愛がってくださいよ」
「また時間があればな」
そんなことを話しながら日光浴を僕は続けるのであった。
「ふぅー、なんとか大陸に拠点を移すことが出来た……!」
「悪いな、俺が悪の組織なんかに就職したばっかりに……日本から国外脱出することになって……」
「ううん、アツシさんのせいじゃ無いよ」
シベリアの大地にて、とある悪の組織の組員達が日本から脱出し、新しい拠点を建てていた。
「本当、まさか私達が国外脱出する羽目になるとは思いませんでしたわ!」
現れたのは毛皮のコートを着た金髪のザ·お嬢様という女性であった。
「お嬢、外は冷えますよ」
「アツシにミキ! わかったわ! ホットミルクを所望するわ!」
「はいはい」
彼らはミルクカンパニーという会社の社長と社員達であり、お嬢様と言われた女性が怪人であったが、他の2人は怪人ですら無かった。
何処にでも居るような日本から逃げ出した悪の組織であるが、スポットが当たった点はお嬢様と言われた女性……では無い方がKの姉であるということである。
何の因果なのかKの姉も旦那と一緒に悪の組織の当主のメイドとして働いていたのである。
日本内戦が始まる前から不況で、旦那のアツシの会社が潰れてしまい、新しく勤めた会社がミルクカンパニーであった。
ミルクカンパニーでは、名前の通り乳製品を扱っていたが悪の組織の顔もあり、両面で細々と活動をしていたが、日本内戦に巻き込まれ、表裏両面でダメージを受けて、経営体力があるうちに海外に移転する事を決めて、3ヶ月前に移転していた。
表の顔があったのでミキは卵子提供を行い、ヒーローのキルが誕生し、ミキ本人はシベリアに移住していたのである。
ちなみにミキとアツシの間には子供はまだ居なかった。
「でも結局弟さんは見つからなかったな」
「もう割り切ったわ。あの愚弟のことだから何処かで生きていると思うけど……」
「俺達みたいに悪の組織に入っていたりするんじゃないか?」
「あり得なくは無いわね……まぁ生きていれば会えるでしょ」
ミルクカンパニーとブラックカンパニーが交わるのはもう少し先のことである。
「おお、どんどん育ってるわね」
レグレスは自身の息子や娘がカプセルの中ですくすくと成長しているのを眺めていた。
「現在生後まもなくというほどには成長したので、これから刷り込み教育が行われていくはずですよ」
医療担当の3号がレグレスの思っていることを先読みする形で答える。
「怪人適性率はどう?」
「今のところ全個体が100%を超えてますので、今後の投薬等で適性率が下がらない限りは怪人化薬を投入しますよ」
「お願いね」
100本近くの円柱状のカプセルに子供がぷかぷかと浮かんでいるのであった。