第117話 ミズチの仕事
「ふぁ〜」
私ことミズチが怪人になって2週間……1週間目は怪人になった事による体の変化に慣れる事が大変だったし、先週は戦闘訓練と言われて怪人マッチでトップテンに入る様な滅茶苦茶強い怪人にしごかれたりしたが、今週から戦闘員の教育に仕事が割り振られた。
まぁ私の部下だったりした他の子達も今日から教育に割り振られていたし、最初に割り振られる仕事なのだろう。
土日の間に教育マニュアルを読ませてもらったが、私から言わせてもらうと、粗だらけ。
超やレグレスからこのマニュアルを作った子は稼働してまだ1年経ってなかったり、学校出身じゃ無く、独学で教育論を制作したと聞いたので、それなら仕方がないと思いつつも、教育マニュアルが作れるような幹部でもそのレベルという印象を抱いてしまった。
いや、戦闘能力については怪人達は文句無い。
ランカーの人達やレグレスや超を除いた人達も平均がA級怪人という質の高さはブラックカンパニーの長所だろうし、博士の科学力、技術力は裏社会の会社を色々訪問して見てきたが、比較出来ないくらい高い。
だからこそ惜しい。
内政面を回せる人材が少ないのがブラックカンパニーの欠点であり、私達を高値で雇い、優遇された理由がわかった。
100人、200人程度の中堅からギリギリ大企業レベルで良ければ十二分に業務は回るだろうが、これから数万、数十万に人員を拡張することを前提に考えると、足りていないのは明らか。
超曰く、刷り込み教育を行った人造人間が完成すればある程度は余裕が出来ると言っていたが、私に言わせてもらえば、中間管理職は任せられても、上で回すにはそれ相応の素質が必要と考えている。
私が連れてきた人達は学校でその素養を身に着け、企業で幹部になるために磨いてきた人達だ。
なので超やレグレスに入社順で遅れてしまっているが、実績でのし上がっていくしか無い。
連れてきた連中も一旦業績がリセットされて1列スタートラインに立ったと認識しており、いかに業績を上げて自分の地位を上げるかギラギラ狙っている。
「ふふ、レグレス、超、悪く思わないでくれよ。私は職場では常に上を目指したい性格だからね」
なおその2人がブラックカンパニーの実質的指導者の愛人というどう頑張っても抜かせない場所に居ることを知るのはまだ先のことだった。
「2週間で人格定着……随分とぬるいことをしているな」
私は教育マニュアルに修正を入れていき、同じく教育を終わらせた前は部下、今は同期の怪人達と修正を共有し合う。
「流石ミズチさんです。私達のより精度が良い」
「まぁ部下の教育は君達で慣れている。その下積みがあるからかな。とりあえず今は私達が役に立つところを見せていかなければならない。私達が来る前に大量に戦闘員になりうる人材を捕獲したらしい。半年以上は教育係を任されるだろう」
「教育係で成果をだしていけば他の仕事にも応用できますからね」
「ミズチさんはどんな仕事を狙っているんですか?」
「管理職だな。幹部になって人事権を握ったりしたい。君達はどうだ? 怪人になると自前の小売店だったりを持てたりすると聞いたが」
「はい、その権利を生かして嫁さんを複数人身受けして、嫁さんに小売店の管理を任せつつ、自分は幹部を目指して頑張ろうかと……その方が稼げますし」
「私は漁業権を狙ってます。どうやら新造の漁船が特殊らしく、艦長には特別手当が出るのだとか」
「炭鉱の管理や食料の輸送業務も良いですが、加工した食材を闇市場に売る仕事は前の我々の営業職の経験が生きそうですが」
こうして見ると選択肢は色々ある。
社内で稼ぐか、社外で稼ぐか……教育を上手く捌いてからになるだろうが。
「1週間で私達は人格定着を終わらせ、使える人材を補佐に置き、次のサイクルで楽をしつつ、別の仕事の調査を続けよう。拾ってもらった恩を返すぞ」
「「「おう!」」」
私の号令で引っ張ってきた元部下達は気合を入れる。
修正点の共有を終えた後、私は直ぐに教育の総監をしているイエローの所に行き、イエローに修正した教育マニュアルを見てもらう。
これで自分が作ったマニュアルを馬鹿にされたと思って直ぐに改善しないようならそれまでの女だし、これを自分の手柄にしたら悪い上司として相応の対策を考えなければならないが
「うん、確かにミズチの改修した教育マニュアルの方が良いと思う。まだ修正出来る段階だから改訂版を直ぐに出そう」
「私の元部下のメンバーには新しいマニュアルを共有しています。それに私だけでなく、私達が作ったマニュアルになります」
「Kさんにはミズチ達新しく入ってきてくれた人達が改善案を提示して、改めたってことを伝えておくね。これで3週間に延びていた人格定着のプログラムを2週間に修正できれば……」
「では改訂版のマニュアルの配布を行ってもよろしいですか?」
「うん、私も確認したから確認済みのデジタル印を押して全体に共有をお願い」
「わかりました」
どうやらイエローは手柄を横取りするような悪い上司ではないことがわかった。
直ぐにパソコンで新しいデータを全体メールで送信し、私の今日の業務は終わるのだった。
夜、食堂で食事を終えると、超とレグレスが3人で大浴場行かないかと誘われたので、今日は大浴場でひとっ風呂浴びてくることにした。
タオルと着替えを持って移動していき、大浴場と書かれた実質スーパー銭湯に到着した。
「ごめんお待たせ!」
「待ったっすか?」
「ううん、いま来たとこよ」
中に入り、下駄箱を私は素通りし、足湯があったので足湯で足を軽く流す。
足が恐竜みたいな形になったので靴が履けなくなり、仕方なく素足で最近は生活している。
分厚い皮膚のお陰で砂利道だろうが歩いたり、走ったりしても痛くないから良いが、いちいち足を洗わないといけないから大変である。
中に入ると食事処、休憩処、岩盤浴に湯処があり、私達は湯処に向かって移動する。
荷物をロッカーに預けてタオルだけを持って洗い場に移動し、身体を洗って汚れを落とす。
地下空間なので露天風呂は無いが露天風呂もどきはあり、日本庭園みたいな雰囲気にお風呂が幾つも掘られていた。
私達は温泉のお湯が黒く濁っている泥炭の湯に入り、疲れを癒す。
「はぁ……」
「いよいよ仕事らしい仕事が始まったけどどう? ミズチ?」
「楽よ楽……飛び込み営業に比べたら全然よ」
「まぁ確かにそうだろうっすね……ミズチは戦闘職にはならないっすか? せっかくS級怪人に匹敵する戦闘能力を手に入れたのに」
「私は後方で安全に仕事をしたいの。まぁ部下に舐められない程度の最低限の戦闘能力は確保するけど」
「どう? ブラックカンパニーで2週間過ごしてみて」
「色々改善点は多いわ。でも人情味があったり、組織の中での結束は強そうに感じたわ……バニーさんだっけ? 社長が凄腕なの?」
「いや、バニーさんはそこまでよ」
「Kさんが凄腕っす。今のブラックカンパニーはKさんの力によるものが大きいっす」
「私も1度挨拶したわ……最初凄そうには思わなかったけど」
「戦闘員ということで怪人に比べると凄さが伝わらないっすからね〜Kさんは」
「そうそう。でもおじさんは滅茶苦茶強いわよ! それこそS級ランカー10人でも負けるわ」
「そんなに……」
「ミズチの能力なら直ぐに幹部に上がってKさんとも仕事をすることも多くなるだろうから人柄とかはそこで直接見れば良いと思うっすよ」
「そうそう……あとミズチありがとね。教育マニュアル改訂版作るの。早速読ませてもらったけど目から鱗だったわ」
「やっぱり頭良いっすねミズチは」
「そ、そんな事は無いわよ! 褒めても何もでないわよ!」
そんなことを言いながらブラックカンパニーの裏情報や今後に繋がりそうな情報をレグレスと超から収集すりのだった。