第109話 尊厳も何も無い施設
闇市場……とある工場にてブラックカンパニーから大量の液状人格が納品されていた。
「おいおい、ブラックカンパニーってこんなにも人を捕獲する能力がある企業だったのか……5万……いやもっとだな。こんなにも大量の液状人格が……」
「工場長、この人格はどうしますか?」
「ネオジャパンに加工して売りつけるぞ。ネオジャパンの人造人間には希薄した人格が盛り込むことで安定するらしい。これだけの人格があれば30万……いや100万人の人造人間の製造が可能だ」
「そりゃ凄いですね」
「正直日本の地上でドンパチしている企業は潰れても痛くないが、ネオジャパンが潰れると、悪の組織とヒーロー側のパワーバランスが一気に崩れる。俺達の企業はネオジャパンに全ツッパだ!」
「ブラックカンパニーはどうなんですか?」
「わからん。こんなに液状人格があるってことは相応の戦闘員は用意できると思うがそれ以上にはならないだろう。人の製造が出来るかも怪しい」
「なるほど……じゃあ加工始めます」
「おう、気をつけろよ」
どこもかしこも兵士を欲している。
大和連合やその他の人を生み出すことのできない所は既存のやり方で戦闘員を補充しなければならない。
大和連合は四国の大要塞化を行っているらしいが……どうなることやら。
「内戦が始まって半年……ネオジャパン勝ちきってくれよ」
「……」
私……ホワイトは人造人間の製造ラインを見ていた。
子供を産む機械となった女性達であるが、小学生くらいの幼い子供が液状の栄養剤やお腹の子供の成長を早める成長促進剤が入った液体を呼吸器の様なマスクから口に入れられ、死んだような虚ろな目で壁を向いて呻っている。
産まれた赤ん坊はへその緒をロボットアームが切り取って、ベルトコンベアに乗せられ、機械でスキャンされた後にカプセルに入れられていき、頭に刷り込みを行う機械が装着される。
そして博士が改良した超人化薬や成長促進剤など色々な薬品が混ざった液体の中で約2ヶ月育てられる。
2ヶ月すれば赤ん坊から一気に15歳相当まで成長し、私と同じ様に仕事をすることになるだろう。
私はこの光景を博士に言われて見せられていた。
「どうだいホワイト人造人間製造プラントは」
「すっごい悪趣味……まさに悪の組織って感じ」
「だろ〜……ブラックカンパニーの人的問題を解決する素晴らしいアイデアだろ?」
「ええ、本当に……吐き気を催す邪悪ですよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「お父様はこの事をなんと?」
「好きにしろって言われているよ……ホワイトを育てた技術がふんだんに詰め込まれているからねぇ……言わばホワイトはこの施設のプロトタイプさ」
「ふーん」
殆どの怪人……産むための機械達は人の姿から逸脱してしまっている。
顔はだいたい残っているが、肉体が肥大化していたり、複乳になっていたり、尻が4つに分かれていたり……奇形ばかりである。
「奇形ばかりですね」
「そりゃそうだ。怪人の適性が足りてないのに怪人にしているからね。不都合が起こるのは当たり前だ。その不都合を人為的に起こして生殖本能を刺激して……産む機械になってもらっているが」
「今どれぐらい居るんですか……これ」
「ざっと4500人くらいだねぇ……お腹の中で1ヶ月、培養液の中で2ヶ月の計3ヶ月でロールアウトだ」
「これ母体どれぐらい持つんですか? 生産効率は」
「年平均10産かな。個体差によるけど……だいたい30から50産したら産めなくなるけど」
「……今だけですかこれを稼働させるの」
「そうだね。私自身も趣味が悪いと思っているよ……これは。後々は精子と卵子を体外受精させて試験管ベイビーを育てることにシフトしていくけどね」
「……最初からそうすればよかったのでは?」
「5分の1」
「?」
「コストがこれだと5分の1で済むのさ……今のブラックカンパニーはコスト度外視は無理だからねぇ……まぁ3年から5年でこの施設は稼働を停止すると思うよ」
「というか産業に応用できる色々な知識を持った戦闘員の量産の為の施設だからねぇ……急激に増えた使い道が限られる戦闘員より、知識を色々刷り込んだ戦闘員の方が使い道が多いし」
「なるほど……で、博士。私にこれを見せて何をさせたいんです?」
「いや、どういう反応をするか確かめたかったのさ。Kが言っていたよ。君を次期ブラックカンパニーの総領に指名するかもってね」
「またまた……確かに私はお父様の血を受け継いでいますが、お母様の血が悪い。部外者の血筋です。バニー様の子供が産まれたらそちらが優先されるのでは?」
「そうかもしれないし、そうならないかもしれない……私から見てもホワイトはうちの子達より組織を束ねる素質を持っていると言えるよ」
「なぜ?」
「うちの子供達……ナンバーズはこの施設を喜々として稼働させていたからね。なんなら社員を人的資源と見ている可能性すらある。それに比べて悪趣味と言えるホワイトの方がまだ人間的な感性があるからねぇ。安心したよ」
「安心ですか?」
「そう。安心だ」
博士曰く、組織の長に求められるはいかに部下の手綱を握れるかのカリスマと部下の暴走を防ぐストッパー、そしてある程度の常識らしい。
「この施設も倫理観から見たら駄目な施設だ。だが駄目を駄目と思わないで行う人物も出てくる。組織が大きくなれば当然ね。そして今ブラックカンパニーは人の製造に手を出したから外部から人を引っ張ってくるということをしなくなるだろう」
「そうなると組織の膠着を招き、それを打破するために外道な事に手を出す。それが下手すると組織を危機に陥らせる事にも繋がってくるんだよ」
「なるほど……」
「組織の急拡張でブラックカンパニーのタガがだいぶ緩んでいる。それを引き締めるにはホワイトの様な感性が大切になってくるからね」
私はそれを聞いて、改めて人が醜く産まれてくるこの施設を目に焼き付けるのであった。
「核報復は無さそうだな」
俺ことKはテレビやネットでウラジオストクのロシア軍基地付近での核爆発が事故であると報道をされたのを見てホッと胸を撫で下ろしていた。
「おじさん何見てるの?」
「あぁ、レグレス……ん? どうしたその脚」
「へへ〜ん1号に義足を作って貰ったの。胸部からエネルギーを持ってくることで擬似的なバリアを作り出すことが出来るようになったよ!」
「何かどんどん進化しているな」
「で? 何見てるの?」
「バニーがシックスに指示した核攻撃に対してだ。どうやらロシアは事故として処理したらしい」
「……本当だ。ということは屋外での活動も解禁?」
「まぁそうなる」
核による報復に備えて社員達は地下でなるべく生活するように指示が1週間前に出されていたが、今回の件で解除になることが決まった。
「レグレス今回は新人戦闘員を虐めてないか?」
「おじさん、私だって学びますよ! 今回はイエローに習ってアメとムチで育ててるし、壊さないように調整してるから」
「なら良いが……一気に社員が今後増えていくからな。レグレスは資源採掘ロボットの無線操作もやるんだろ?」
「うん、何かナンバーズから期待されているっぽい。石炭採掘とか危ないからね! ロボット使わないと」
「そりゃそうだな。ようやく漁業も始まるし、農業も順調……加工業が上手くいけば更に金になるだろう」
「壊れた戦車とか修理していたけどあれはどうするの?」
「技術解析して、1号が量産できそうなら量産して売り込む。特に今日本内戦で武器需要が凄いからな。売って技術系と交換出来れば御の字よ」
「なるほど?」
「戦車とかの技術は色々民間転用出来るからな。まぁ高値で売ろうや」
そんなことをレグレスと話すのだった。