機械王国レイヤ 下層にて
こんにちは!ザットワンと申します。駄文ですが完結できるよう頑張ります!
「待て!クソガキ!」
クソがっ!クソがっ!もう一歩だったのに!なんなんだ!あの女!真っ向から侵入してオレの作戦をおじゃんにしやがった!
少年は必死に深夜の街を駆けながら自分の作戦を台無しにしてくれた女に悪態をつく。
「!!」
どうやら怒りのあまり必死で頭に叩き込んだ地図はどこかに消えてしまったらしい。目の前には、少年に死刑勧告を告げるように、無慈悲に壁が立ちはだかっていた。
「この忙しい時に手間かけさせやがって…」
戦闘補助のマスクで顔は見えないが声からして中年らしい男がやや息を切らせてそう言った。
「おっさん。オレは見ての通りしがないガキだよ。こんな大変な時にこんなところで油を売ってていいのかよ?」
一人しかいない追手、という舐められ具合を見て、命乞いをしてみる。
「ただのしがないガキは下層でも最重要の施設、大昇降機に忍びこめるかよ。お前もどっかの組織の斥候だろ?生憎ブッキングらしい。今度からは犯罪組織同士で協議会でも開くといい。まぁお前もあの女もその機会はないが」
ガチャリと、安心しきった態度でオレに雷弾銃を構える。
「生憎ひとりものなんでね。協議会なんてやったら味方してくれる家族なんていないのさ。そのイカしたツラを見る限りおっさんにはわかんないだろうが」
自嘲気味に、そして顔をすっぽりと隠したマスクを賞賛しながら、薄く笑う。そして過酷な下層を共に生きてきた相棒、隠し持った小型の金属片銃を後ろ手に構える。
オレの緊張が頂点に至った瞬間、何処からか鳥が飛び立った。両者がその方向に一瞬目をやり、目線を相手に戻したその一瞬の間に
霧が立ち込めるこの街でも鮮烈にうつる緋色の髪と、スラリとしたどこか肉食獣を思わせる大きな体躯を持つ女が両者の間に立っていた。
「おいおい、正義の警備兵サマがガキ相手に銃とは大人げねぇなぁ。」
粗暴な言い回しと作法で、もはや時代遅れの産物となった刀を大仰に構える。
ギィィィィィィン!!
金属とエンジンの駆動音を最大音量でごちゃ混ぜにしたような音が静かな街に響く。
彼女の持つ刀は刃の部分が回転していた。
「なんだよ?そのオモチャは。大昔にあったチェーンソーってやつか?」
警備兵の男はどこかバカにしたような口調で尋ねる。それもそのはず、警備兵が装備している雷弾銃は機械の技術に特化したこの国で、犯罪組織の機械制圧に特化した銃だ。
雷弾が纏う電気が一瞬でも掠めれば彼女の持つ刀モドキは無駄に重いガラクタへと早変わりだろう。
「クサナギっつー私のご先祖様が大事に大事に受け継いできた由緒あるガラクタだぜ?あんまり悪く言うんじゃねぇよ」
女は獅子のような笑みを浮かべる。
言い終わった直後女は姿勢を低くし弾丸のように直進した。
「…!」
警備兵は少しの動揺を覆い隠す様に引き金を引く。女の持つ刀モドキだけでなく、その肉体をも動かないモノにする凶弾は…
放たれなかった。
慌てた警備兵が銃口を見ると彼女の持つ刀モドキで真っ二つに切り裂かれていた。
動揺が未だに抜けない警備兵の首には狂った様に笑う羊が描かれた持ち手から伸びる針が首に刺さっている。
そしてその直後に警備兵の視界は暗転していった。
何が起こった…?オレはこれまでに無いほど呆気に取られていた。下層内のエリート、警備兵があっさりと倒され、しかも倒したのはふざけた武器を使った女。
ガラガラと14年という少ない年数ながら積み上げてきた己の中の常識が崩れる音を聞きながら、下層で生きてきて染みついた、もはや習性とまでいえる「とりあえずなにかあったら逃げよう」というモットーに従い、なにやら警備兵のマスクを弄っている女の傍を通り抜け住処へと撤退しようとした。
「待てよ」
ガシッと雄々しい笑みを浮かべながら女はオレの腕を片手で力強く掴んでいた。
「助けてやったんだから少し付き合えよ」
オレが聞く音は、常識が崩れる音に、低くとも安定していた日常が崩れる音も加わった。
補足 この作品で出てくる謎固有名詞は字面でふんわり理解してもらおう。という甘すぎる見通しで作られています。例 金属片銃(金属片を火薬と一緒に詰めて撃つ原始的な銃)などなど…
できるだけ作品内で説明していくつもりなのでお手柔らかに…
この位の長さで数日おきに更新していくつもりです。楽しみに待っていただけると嬉しいです!