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花束を  作者: 夢乃かえ
本編
6/18

前兆


「もしかして貴方が高野君の新しい彼女?」



放課後、図書室に向かう途中で女子生徒に話しかけられた。

知らない人だったけど上履きの色で上級生だと分かる。



「へ?」


「最近いつも一緒にいるわよね?」



物語ではあるある展開がまさか自分の身に起こるだなんて思わなくて私はどうして良いのか分からなくなった。



「いつから付き合ってるの?」

「何で貴方なの?」

「早く別れてくれない?」




あ…この人は高野君の事が好きなんだ。

好きな人に近づきたいのにじゃまものがいるから近づけなくて…

どうしたらいいのか分からなくて私に話し掛けて来たのか。



「無視!?ちゃんと聞いてるの?」


「…あ、すみません」


「すみませんじゃなくて!!はぁ…、貴方何なの?」



考え事をしていたら返事が遅くなり、私は相手をイラつかせてしまったみたいだった。



「え〜っと…彼女じゃありません!その…私、英語が苦手で」


「は?」


「次のテストで赤点取りたくなくて」


「今まで返事しなかったと思ったら急に何の話よ?」


「えっと、質問の答えです。私と高野君が最近一緒に居るのは、同じクラスの私が英語で赤点取らない様に勉強見てくれていて…」


「は?何それ、貴方バカだったの?」


「馬鹿…と言われたら馬鹿なんでしょうね?はい…」




心が痛い…。

何故、初対面の人に馬鹿呼ばわりされなくてはいけないのだろうか…っ!




「それって貴方が馬鹿なだけで高野君には関係ないし、貴方が悪いんじゃない。彼に迷惑掛けて申し訳無いとは思わない訳?」



提案をしてきたのは彼の方で私から頼んだ訳では無いのに…!!


なんて思いながら、私は「はい、そうですね?」と返事をする。

そんな私の態度が気に入らなかったのか言葉は続いた。



「貴方、自分が特別だと思ってない?」


「え?」


「彼に構ってもらえてるのはただの気まぐれ。どうせ貴方も元カノ達同様すぐ捨てられるわ。そうだ、捨てられる前に自分から身を引いたらどう?貴方と彼じゃ釣り合わないし、ね?その方が身の為よ」



スラスラと並べられる言葉達はとても攻撃的な言葉で、聞いていて痛かった。

そして、気づいてしまう。



「貴方もそう思うでしょ?どう頑張ったって彼の特別にはなれないのよ」


「先輩は、高野君の事が好きなんですね」


「な、今更?当たり前じゃない。だからこうして貴方に話し掛けたんだし」


「だけど、その好きは苦しいんですね」


「え?」


「ただ好きだったのに辛くなって、それを自分の中に抑えきれず溢れてしまったんですね?黒くドロっとした感情、それは貴方を苦しめ醜くしてしまう」


「何、を言ってるの?」


「辛いですよね。本当はこんな事したくない、こんなの自分じゃない、なんて思うのに止められなくて苦しくて誰かに吐き出さないと自分を保てなくて… 。私に掛けた言葉は全て鏡みたいに自分に返していたんですよね?」


「…はぁ?」


「言葉はその人そのものです。使いたい言葉を使えば自分らしくいられますが、使いたくない言葉を使えば歪んでしまいます。私に言葉を掛けた時の貴方の表情は辛そうでした。子供がお気に入りの玩具を取り上げられて、取らないで、奪わないでって叫んでいるかの様な…。私は貴方から高野君を奪おうとは思っていません」


「な、…そう」


「ですが、高野君は物では無いです。彼に振り向いて欲しいのなら、彼と向き合わなきゃです。こうして私に使う時間は意味が無く、直接彼に使った方がいいと思います」


「な、んなのよさっきから」


「相手の心を動かすには、相手の心に寄り添って、しっかりと思いを伝える事が大事ですよ。私に伝えても高野君には伝わりませんから… 」



私は私であって、高野君ではないのだから。



「…そんなの、分かってるわよ!分かってても伝える勇気が無かった。だって貴方の傍で笑うんだもの!貴方だけに向ける顔がある、そう思うとどうしようも無かった…特別を作らないで欲しかった、そしたら私だってこんな風には…」



きっと、私だって特別な存在じゃない...。



私は言葉を並べることしか出来ない。

目の前の彼女はこんなに苦しんで生きているのに、同じ空気を吸う私はまるでロボットの様で "全く同じ苦しみ" を体験する事は出来ない。


所詮は、苦しんだ "フリ" しか出来ないのかもしれない。



いいな…

私もなりふり構っていられない様な恋をしてみたい。





「乙木…さん?」


「え?」


「何してんの?」



声を掛けられ振り返るとそこには高野君が居た。



「あ…これは…」



私の前には泣いている先輩… もしかしてこの状況、私が泣かせたことになってます?



「その、違うんだけど違わないと言うか?」


「?良くわかんねーけど、先輩?大丈夫っすか?何で泣いてんの?」



心の中では 貴方のせいですけどね!! なんて思いながら、彼女に近寄る彼を見守る。



「はい」


「っ!」


「女の子が泣いてちゃダメでしょ?悪い奴が寄ってきちゃいますよ〜」



彼は、ポケットからスっとハンカチを取り出し彼女に差し出した。



「…っ!高野、くん」


「あれ、俺の事知ってんの?」


「私…私っ!高野君に話が、あります」


「俺に?……そう。とりあえず、場所変えましょっか?」


「!はいっ」


「乙木さん」


「あ、はい」


「先に図書室行ってて。後で行く」



彼女は高野君からハンカチを受け取り涙を拭いた。

そして、話がしやすい場所に移動するみたいだ。


彼女的にも高野君からしても人気が無い場所の方が良いのだろう。


告白をしたい彼女 と 泣いている女性と一緒にいる事になり誰かに見られたら泣かせたと勘違いされてもおかしくない彼


そして、そんな2人の背中を見送りぽつんと佇む私。


物語でいうなら私のポジションは何処になるのだろう?






「お待たせ」



暫くして高野君は図書室へやって来た。


それから私達はいつも通り勉強をした。

2人で何があったのか気になるけど...聞いていいものなのか迷い、私からは聞けなかった。




「おし、終了」


「今日もありがとうございました」


「ん。...あのさ、中庭行かね?」



ピッ--- ゴトン



「ん」


「え、何で?」


「カフェオレ好きじゃん?それとも気分じゃなかった?」



中庭に誘われ、自販機で飲み物を買った彼に差し出された物は私が大好きなカフェオレだった。



「いや、何で知ってるの?」


「あのな、アンタは観察対象ですよ?見てればこれくらい分かるって」


「あ...そ、っか.......そうかな?」


「そ」


「あ、お金」


「お詫びだからいらね。それよりさっきは俺の事に巻き込んだみたいで悪かったよ」


「...あ、うん」


「気になんねぇーの?あの後どんな話したか、とか」


「それは...私が聞いても良いのかな?」


「...やっぱアンタは優しいな」



彼は自分の分の飲みいちごみるくを1口飲み話し出した。



「告白された」



あ... あの人はきちんと想いを伝えたのか。

来る者拒まずの彼だ 今まで同様、付き合うのだろうか?


" 彼の特別にはなれないのよ "


ふと、あの人の言葉が脳裏を過った。


私と居たから誰とも付き合わなかったんじゃない。

告白されるチャンスを、私が傍に居たから奪ってしまっていただけ...。


良かったじゃないか。

あの人は彼を好きで、彼は自分を好いてくれる相手から恋を教えて貰える。


恋をした事がない私より、あの人の方が良いに決まってる。



チクッと胸が痛む。


私は... 用無しなんだ...。



「そ...うなんだ」


「...それだけ?」


「え?」


「アンタは巻き込まれたんだし遠慮なく聞いていいと思うけど?」


「...だって、答えは決まってるでしょ?」


「ハ 、決めつけんなよ」



ニヤッと笑い、彼は言葉を続けた。



「断ったつーの」


「...え?...何で?」


「はぁ?くっついて欲しかったのかよ?」


「いや、そういう訳じゃなくて」


「今までは誰でもよかったから付き合ってたけど、今はアンタがいるだろ?」


「...へ?」



え、な...に?

私が居るから??

って...え、どういうこと???


訳が分からず、でも彼に真っ直ぐ見つめられて鼓動が早くなった。



だけど...



「俺は今、アンタを観察して暇つぶしも出来てる訳。だから興味無い人間に時間奪われるなんて勿体ねぇーことしないっつうの!」


「ふぁっ」



いきなり鼻を摘まれ、一瞬緊張した雰囲気もぶち壊し。

私は変な声を出してしまった。


彼は笑いながら指をすぐ離してくれたが、私は恥ずかしさで暫く彼の方を見れなかった。



私... 今、彼にどんな言葉を望んだ???



自分で自分の気持ちが分からなくなった...。




「せっかく奢ったのに飲まねぇーの?」


「あ、うん。頂きます、ありがとう」



落ち着いた私はカフェオレを1口飲んだ。



「美味しい...です」


「へぇ、そりゃ良かった」


「高野君は、何で いちごみるく なの?」


「甘いから」


「え?」


「はぁ 」



私はため息をつかれてしまった。

おかしな事を聞いてしまっただろうか?



「俺は乙木さんのこと分かるのに、乙木さんは俺のこと見てくれてねぇーんだ? 傷つくぅ」


「な、な、なんですか、その言い方!!」


「ハハ。でも本当に気づかなかった? 俺、甘党なの」





ニヤッと笑う彼の顔が可愛くてキュンとした ... なんて...




" 貴方の傍で笑うんだもの!貴方だけに向ける顔がある "


ふと、あの人の言葉を思い出した。



...そんなこと、ある訳ないのに...。



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