お互い様
" じゃあ乙木さんが俺に恋を教えてよ? "
恋を教えてよ……?
今まで聞いた事がなかった言葉に私は間抜けな声を出していた。
「な、え?えっと、どういうこと?」
「そのままの意味。恋が素敵だと言う乙木さんに、恋の素晴らしさを教えてもらおうと思って」
ニコッと微笑みながら彼は続けた。
「俺は恋を教わって、アンタは俺から勉強を教わればいいんじゃない?そしたらお互い良い関係を築けるでしょ?」
「…えっと…勉強というのは?」
「乙木さんさ、英語苦手だったでしょ?そして、次のテスト赤点取りたく無いよね?」
「何故、それを?」
「俺ら同じクラスじゃん」
「……ぐっ」
確かに私は英語が苦手だった。
だって単語を覚えて文法も覚えてリスニングも出来ないといけないなんて難しいんだもん!!
私は日本人だし日本語が好きなんだからそれでいいじゃないですか?
日本の比喩表現やオノマトペは素敵ですよ?
…なんてそんな事を言っていられない時代ではあるのだけれど。
「先程は恋は素晴らしいと言いましたが、その…私が高野君に教えられる事は無いかと思うのですが…」
「何で?」
「……私、より高野君の方が恋愛経験豊富だと思いますし?」
「経験?付き合った人数のこと?数だけ多くても意味無くない?内容が大切でしょ?」
「で、でも、私は素敵だと思うだけでそれを教えるってのは難しいと言いますか…」
「いいよ、別に。コッチが勝手にお願いしてるだけだし。出来ないからって別に咎めたりしないから」
「……」
「ダメ?」
高野君はこんな感じなのに頭が良かった。
彼からの提案は凄く有難いものではあったのだが…
「……私は何をすればいいんでしょうか?」
「傍に居るだけでいいよ。俺がただアンタを観察するだけだから。…っていうか今付き合ってる奴いんの?」
「い、今はいませんね、はい」
" 今まで誰とも付き合ったことない "
なんて言ったらきっと怒られるっ!!
だって、恋愛経験ある人に文句を言ったんだもの〜!
バレてはいけない…!
私、彼氏いたことあるように過ごさなきゃっ!!
「そ。じゃあいいや」
「え?」
「いや、流石に彼氏持ちの女の周りを別の男がうろついてたら嫌だろ?てかストーカーみたいでキモいし」
「…なるほど」
「そ。じゃ彼氏いないみたいだし傍に俺がいても平気って事だな。宜しく、乙木さん?」
「……宜しくお願いします」
こうして私達の関係は始まったのでした。