声の主は
あれから2週間くらい経った頃。
場所は違えど、私はまた同じ場面に出くわす事となった。
「浮気してるよね?」
「は?何のこと?」
「私見たんだから!2年の可愛い先輩と一緒に居るところ!私といる時より楽しそうに笑ってた」
「あぁ…」
「否定、しないんだ?」
「一緒に居たり、アンタといるより楽しいってのは事実だから」
「最低っ!!」
「その最低な奴に告白してきたのはアンタだけどな?」
「っ!!別れる、もう知らない!!」
「はいはい」
姿は見えていないが声からして女生徒の方は泣いていたに違いない。
足音で彼女が走り去っていったことが分かった。
そして、もう1つの足音がコチラに近づいて来ていた。
あ、やばい、何処かに隠れなくちゃ…!
焦れば焦る程、体も思考も思う様には動かなくなり1人慌てる私は、お相手の方とご対面する事となったのだ。
「何してるの?」
「あ、いや…」
「もしかして、盗み聞き?アンタ、大人しそうなのに意外。でもそれは流石に悪趣味なんじゃない?」
「…はい?」
先程 女生徒に酷い言葉を掛けて、今私の目の前に居るこの人物は 同じクラスの 高野 結君だった。
顔は整っていてイケメンだが、派手髪でチャラそう、口調がヤンキーみたいで、私はお近付きになりたくないと思っていた人物だった。
確かに私は今盗み聞きをしてしまったかもしれない。
それは私が悪い。
100%?私が悪いかもしれない…。
だけど、何故そこまで言われなきゃいけないのか?
「確かに私は今盗み聞きをしてしまったかもしれない。それに関しては、ごめんなさい。だけど、誰もが通るこんな場所で聞くなって言われる方が無理な話でしょ!こっちだってね、聞きたくて聞いた訳じゃないんだから」
…言ってやった。
私は今、苦手なタイプの人間にもきちんと発言した。
堂々としなきゃ!
自分で自分を誇ってあげなきゃっ!
怖くない、私は間違えてないっ!!
内心ビクビクしながら相手の反応を待ったが
「…まぁ、それもそうだな」
意外にも常識はある?みたいだった。
常識があるということは…そんな人が本当に浮気なんてするのだろうか?
何も知らない私が決めつけて話すのも良くない。
だって真実は片方の意見を聞くだけでは見えてこないのだから。
「高野君は良かったの?」
「は?」
「浮気本当にしたのかな?って」
「…してねーけど、した事になってんならしたんじゃねーの?」
「それって」
「浮気の定義ってそれぞれでしょ。一緒に居てたわい無い話をしただけ、目が少し長く合っただけ、ただそれだけの事でも浮気だと思う奴がいたら浮気になる」
「してないなら話し合えば」
「時間の無駄でしょ?遅かれ早かれ疑われるのは面倒臭いし、別に良かったんじゃね?」
「そんなっ…好きな人を誤解したままだなんて悲しいよ」
「好きな人…ねぇ?あの人は俺の事好きじゃなかったと思うけど?隣に並べたかっただけだろ」
「え?」
「本当に好きだったら決めつけて話なんかしないんじゃない?俺の事信用出来ないんなら隣にいる資格も無いと思うけど?」
「酷い…。確かに言い分も分かるけど、高野君には人の気持ちが分からないの?」
「向こうがそれでもいいって言ってくるからでしょ。俺が告白してるんじゃなくいつもアッチから来んの。どんな俺でもいいとか1番じゃ無くてもいいからとか、嘘じゃん。勝手に期待して押し付けて傷つきました?ハッ、笑える」
「そんな…高野君は最低だよ!誰かを好きになるって素敵なことなんだよ?その人の事を思って一喜一憂して。世界が変わって…それなのに高野君はそれが分からないの?恋…したことないの?」
「何処かで聞いたことあるフレーズ…。そんなに恋っていいもの?傷つくのが分かっててもしたくなるもの?」
「私は…したい。傷ついても辛くても、それはそれだけ誰かを好きになったって証拠だから」
「…そ。」
高校1年生にもなって私は恋をしたことがなかった。
だから、恋をしたい それは本心だった。
好きになれる人が現れたら、私は傷ついてもその人の事を好きになれた事に感謝しようと思った。
そんな私の言葉を聞いた彼から告げられた言葉は
「じゃあ乙木さんが俺に恋を教えてよ?」
「……へ?」
私の運命を変える一言だった。