理想と現実
「別れましょう」
それは放課後の出来事。
借りていた本を図書室へ返しに行く途中、角を曲がろうとした時に女性の声が聞こえてきた。
" 別れましょう "
なんて悲しい響だろうか。
私、乙木 花には恋人がいた経験がない。
だけど、大好きな恋愛漫画や恋愛小説から恋がどういう物なのかを教えて貰った。
なので実体験は無くとも、恋をした時は幸せな気持ちになったり辛い気持ちになったりするのは分かる。
別れを切り出された男性の方は辛いだろうなと思った。
失恋するのだからそう思うのが普通である。
だが、彼の返事は私が思っていたものとは違った。
「そ。俺は別に良いけど。元々アンタのこと好きになれそうに無かったし」
「何それ、酷い!」
「酷い?好きにならなくてもいいから彼女にしてって言ってきたのはアンタの方だろ?」
「それは、でも彼女にしたなら少しくらい歩み寄ってくれても」
「押し付けがましいとは思わない?彼女にしてやっただけでも歩み寄ってあげてると思うけど?」
「そ、れはそうだけど」
「じゃ、俺行くわ」
「待ってよ!」
一方的に終わらされた会話。
私はいつも綺麗な部分しか知らない。
それはきっと自分で選び綺麗なものに触れていたから。
だけど現実はそんなに綺麗な物ばかりでは無いのだ。
私は二人の会話を盗み聞きしてしまった訳なのだが、こんな悲しい形があるのかと心が痛くなった。
「付き合うって…恋人って、好きな人同士想いが結ばれる奇跡のようなものじゃないの?」
私はその場にポツリと独り言を漏らしてしまった。